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本編

お前、箸逆に持ってるぞ

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 空に会って話したいとメッセージを送ってから数日が経った。そして新学期が始まるのは明日。
 俺の機嫌はすこぶる悪く、今は茜を呼び出してファミレスで飯を食っているんだが、目の前でイチャつくバカップルを見てイライラしていた。


「茜ぇ♡ポテトちょーだい♡あーん♡」

「ほんと甘えん坊だな。ケチャップも付けてやる。ほらあーん」


 俺は茜だけを呼び出した筈なのに当たり前かのように桃山も来て、三人で飯を食う事になったんだが、こいつら俺に嫌がらせしてんのかってぐらい仲良いとこ見せてきやがる!クソ!


「そんなの自分で食えよ桃山!」

「貴哉ってばどしたの?なんかイライラしてね?」

「あ、そうか、秋山もあーんしてほしいんだな。仕方ないなぁ」

「ちげーよ!てか俺の話聞きやがれ!」

「そうだった。話があるんだったな。聞くぞ?」


 俺にあーんをしようと掴んでいたポテトを自分で食ってから茜は俺を見てニッコリ笑った。
 今日は空との事を茜に相談しようと思ったんだ。
 数馬も誘おうとしたんだけど、どうやら直登といるらしい。この事を直登に知られて空に伝わったりしたら面倒くせぇなと思って呼ばなかったんだ。
 てかあいつら付き合ってんのか?


「空の事なんだけどよ」

「分かった。振られたんだろ?だから俺達が仲良くしてんの嫌なんだー」

「まだ振られてねぇよ!てかお前は入ってくんな!」

「まだ?どういう事だ?」

「……演劇部のBBQ大会の後に空と会ったんだけど、それから会ってくれねぇんだよ。連絡もほぼゼロ。てかシカトされてる」

「ギャハハ!やっぱ振られたんじゃねぇか!」

「まだ振られてねぇつってんだろ!」

「湊、茶化すな。秋山は悩んでるんだ。原因はなんだ?何かあったんだろ?」

「原因……か……」


 ふとあの日三人でやった事を思い出す。
 い、言えねぇ!茜にならともかく桃山には絶対言えねぇよ!


「ははーん、浮気したんだろ?貴哉ぁ」

「そんなとこだ!」

「桐原か」


 誰と何をしたとかまだ話してねぇのに、茜に伊織の名前を出されてビックリした。
 え、俺言ったっけ?


「なんで分かるんだ!?」

「大体予想はつくよ。貴哉が浮気するとしたら桐原ぐらいだろ?それに、あの日の二人はまるで恋人みたいだったからな。二人で一緒に帰ってたけど、早川に見られたとかか?」

「そ、そんな感じ……」

「なぁ何か隠してね?お前、箸逆に持ってるぞ」


 桃山に指摘されて慌てて箸を引っくり返す。
 は、話すか?いや、マズイよな。三人であんな事したの知られたらいくらこいつらでも引かれるだろ。


「湊、お前がいるから話づらいんだよ。先に帰ってろよ」

「やだよー!俺も貴哉の事心配だもーん」

「あ、あのさっ!例えばの話なんだけど、お前達って、俺を混ぜてそういう事出来るか?」

「そういう事?」

「なんだよそういう事って?」

「セ、セックスだっ」


 場所も場所だし、恥ずかしいから小声でボソッと言うと、二人はキョトンとして俺を見ていた。
 そして桃山がニヤニヤーと笑って喋りだした。


「3Pって事かぁ?貴哉がやりてぇなら俺は有りだ。まぁほぼ茜と貴哉にやらせるけどな♡」

「俺も秋山なら出来るな。だけど何でいきなりそんな事を聞くんだ?」

「そうだった。お前らそういう奴らだったな」


 こいつら相手に引かれる話なんてないって忘れてたぜ。
 俺はいっその事二人に全て話そうと思った。


「実はさ、俺と空と……伊織……したんだ。三人で」

「「!?」」


 あれぇ?二人共すげぇ驚いてねぇ!?
 さっきまでの空気が嘘みたいに、二人の動きがピタリと止まった。
 ちょ、茜ってばいつもみたいに「そうか」って冷静に言ってくれよ!桃山もいつもみたいに「ギャハハ」って笑ってくれよ!
 

「貴哉やばー」

「あ、秋山、それはどういう経緯でそうなったんだ?詳しく話してくれないか?」

「う……伊織が空に挑発したんだ。どっちが俺を満足させられるか勝負しようって。空は初めは相手にしてなかったんだけど、ほら伊織って口が上手いだろ?まんまと口車に乗せられてさ……俺んちで……」

「なるほどな」

「あのさ、貴哉。さっき俺らに質問してたけど、それは俺らだったらの話で、お前らはお前らだぞ?訳がちげーって」

「わ、分かってるっ俺も馬鹿な事したなって思ってるよ」

「早川は嫌だったろーな。しかも相手が伊織だもんな」


 いつになく冷静な桃山の反応に、俺の空への罪悪感が増した。
 何かを考えているみたいだった茜はそんな俺を見て優しく笑って言った。
 

「まぁ、桐原も秋山が欲しくて仕方なかったんだろ。秋山、そんな事で恥じることないぞ。俺は何があってもお前の味方だ。お前が良いと思うならそれでいいんじゃないか?」

「茜ぇ……」

「もちろんお前が間違っているなと思ったらそれはキチンと指摘するぞ。だけど、今回の件は間違ってはいない。俺が見る限り秋山は二人共好きなんだろ?どちらも同じぐらい」

「っ……うん」

「だったら気にする事はない。二人の事を同時に好きになる事が悪い事だと俺は思わないからな」


 茜は桃山をチラッと見て言った。
 そうか、桃山は元々伊織を好きだったのに、いきなり茜を好きになったんだ。そして告白して付き合ってる。


「まぁ確かになー。俺も茜が一番だけど、貴哉の事も好きだしな~。てか俺も貴哉が悪い事したとは思ってねぇぞ?むしろ羨ましいぐらいだ。なぁいーくんてどんななの?エッチの時もかっこいいの?」

「俺も気になるな。桐原って、そっちも凄いのか?」

「お前らやっぱり変わってるな……」


 今はこの二人の変人っぷりが心地良かった。
 俺は人に話せて少し気が紛れた気がした。
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