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本編

これはチャンスだと思ってる

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 伊織からの問いに黙ってると、伊織が先に話し始めた。
 俺達はファミレスのソファタイプのボックス席に座っているが、男二人で並んで座っていた。
 さっきまで怜ちんとなっちがいたから普通だけど、今は二人きり。おまけに伊織の派手な赤色の髪で、すげぇ目立ってるだろう。


「俺のせいだよな。本当ごめん」

「もういいって!それにっ謝るくらいならするなよあんな事!何一人で後悔してんだよっ卑怯だぞ!」

「……貴哉」

「悩んでるのは、お前だけじゃねぇんだからなっ」

「貴哉の悩み聞かせて?受け止めるから」

「……はぁ」


 一度コーラを飲んで少し落ち着いてみた。
 空の事を考えるといろいろあって憂鬱になるけど、いつまでも放っておけねぇしな。
 話す相手が伊織でいいのか分からねぇけど、俺は話す決心をした。


「空が、あれから変なんだ。原因は三人でしたからってのもあると思うけど、空にまだ伊織の事好きなのか聞かれて、好きだって答えちまったんだ。多分、それも気にしてるんだと思う」

「そうか。変ってどんな風に変なんだ?」

「誘っても会ってくれねぇんだよ。連絡も向こうからは無い……今まではしつこいくらいだったのにっ」


 思い出したら辛くなって、唇を噛み締めていた。
 自分が悪いのに、いざこうなると嫌だなんて我儘過ぎるだろ。いつまでもどっち付かずでいた自分が悪いのに……


「貴哉、こういう時普通なら励ますんだろうけど、俺は違うからな」

「……?」

「これはチャンスだと思ってる。貴哉には悪いけど、早川が引いてんなら今の内に奪おうと思ってるよ」

「伊織っお前っ!」


 俺がこんなに辛い思いしてんのに、嬉しそうに笑いやがって!
 こんな事を言われてムカつく筈なのに、どこかホッとしてる自分にまた腹が立った。


「だって、俺の事好きなんだろ?早川の事なんか忘れさせてやるよ。俺の所に来い貴哉」

「伊織っ」


 甘い声で甘い事を言われて涙腺が緩んだ。涙が溢れて来て俺は下を向いて声を殺して泣いた。
 こういう時、誰かにそんな事を言われると嬉しいんだな。いや、伊織だからか。
 でもまだ空とは終わった訳じゃねぇ。
 だから伊織に頷く事はしなかった。


「俺なら泣かせたりしねぇのに。何よりも大事にする。ずっと側に置いて離さねぇのに」

「っ……」

「貴哉、好きだよ」

「そん、なのっ初めは何だって言えるだろ!空だってそうだ!だから伊織だって、いつかは俺から離れる!」

「決めつけんな。まだ俺の事少ししか知らねぇだろ?教えてやるから来いって」

「知らないままでいいっ」

「意地っ張り」

「ふんっ」

「可愛い♡」

「うるせぇ」

「好き♡」

「黙れ」

「愛してる♡」

「!」


 最後のは驚いた。愛だと!?こいつそんなセリフよく平気で言えるな!
 驚いて伊織を見ると、ハハと笑ってた。
 

「お前、それ誰にでも言ってるんだろ?じゃなきゃそんな言葉サラッと言えねぇ!」

「言ってる訳ねぇだろ。貴哉が初めてだよ」

「信じられるか!」

「大丈夫♪ずっと一緒にいて信じてもらうから♪」

「……ありがとう伊織」

「えっ」

「本当は一人でいたくなかったんだ。一人でいるとモヤモヤして嫌な事ばっか考えちゃうから。今日体動かして少しスッキリしたけど、やっぱり時間が経つと考えちゃってさ……伊織がいてくれて良かった」


 俺は無理矢理笑顔を作って伊織にニカっと笑ってやると、目を丸くして驚いていた。
 そんでクルッと俺とは反対を向いて呪文を唱えていた。


「……俺我慢しろ。ここは我慢だ……」

「何ブツブツ言ってんだよ?伊織、なぁこの後なんかあるか?」

「へっ!ねぇけど?デートのお誘いか!?」

「そ!ちょっと付き合ってくれ」


 涙を拭いてキャップを被って立ち上がると、伊織も嬉しそうに立ち上がった。
 夏休みももう少しで終わりだからな、メソメソ終わりたくねぇ!
 陽が沈んでちょうどいい。俺、夏休み中に空と行きたかったところがあるんだ。でも今の空とじゃ行けなそうだからな。
 俺は伊織の手を引いてファミレスを出た。
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