【完結】どいつもこいつもかかって来やがれ3rd season

pino

文字の大きさ
上 下
92 / 116
本編

あそこまた泳がすとか殺す気かよ!

しおりを挟む

 佐々先に水着を借りてトイレに駆け込む。他にも忘れた奴がいるのかトイレは混んでた。それにしてもダセェ水着だな。何か中学の時のやつみてぇな。まぁ一万円の為だし履くけどな。
 トイレの個室が開くのを待ってると、赤い髪の人気キャラクターが登場した。俺はきゃーってして抱き付いたりしねぇけどな!
 でもまぁ今日はやたら気合い入れてね?髪型もワックスで立ててバッチリ決めて、服装も詩音みてぇに大人っぽい感じ。薄い七分丈のカーディガンなんか羽織っちゃってる。


「貴哉♪泳ぐんだって?頑張れよ!」

「おう、お前も去年出て一万円持って帰ったらしいじゃん」

「当たり前じゃん♪だって俺だぜ?」

「あーはいはい。今忙しいんであっち行ってくださいよーっと」

「貴哉、着替えるとこ、ここ以外にもあるんだぜ?しかもそっちはもっと広くてほぼ貸切♪」

「どこだよ?それ早く言えよ」

「ついて来いよ。去年俺もそこで着替えたんだ」


 伊織について行くと、どんどん会場から離れて行く。まさか離れたとこにあるトイレかぁ?だったらさっきのとこで待ってた方がマシじゃね?


「ここだ」

「あー!バス!」


 伊織がニヤリと笑って指さしたのは俺達が乗って来たバスだった。中には爺さんの運転手がまだ乗っていて、ニコッと笑ってドアを開けてくれた。


「どうしたんだい?忘れ物かい?」

「ちょっと中で水着に着替えたいんですけど、いいですかー?」

「ああいいよいいよ。君達が帰るまで俺はここにいるから好きに使いなよ」


 俺に振り返り、「ほらな?」と言った。
 冷房も付いててこりゃ確かにトイレよりこっちのがいいわ!さすが伊織だな!何でも出来るスーパーマン!
 俺は気分良くバスの中で着替えて水着一枚で飛び出すと、伊織に笑われた。


「ぶは!貴哉可愛いすぎるだろそれ!小学生みてぇ!あはは!」

「だって仕方ねぇだろ!佐々先に借りた水着なんだから!」


 まさに子供が履くような黒で無地の、必要な部分だけ隠れるようなピチッとしてる水着だった。賞金が無かったら絶対参加してなかったぜ。


「でもまぁいいんじゃん。夏だし」

「!」


 散々笑った後、何も言わずに羽織ってたカーディガンを俺の肩に掛けてくれた。何だ!?さり気ない出来る男自慢か!?
 俺のドキドキ収まれ!


「山は少し冷えるからな。終わったらすぐ着替えろよ」

「わ、分かってるし!」


 俺は伊織のカーディガンを羽織ったまま一年が集まる場所まで行く。前に茜が紹介してくれた時に見たけど、結構いるんだよな。でもまぁ演劇部だしいけるだろ。

 俺はガキの頃に川で溺れた事がある。今の父ちゃんに助けてもらったんだけど、その後父ちゃんに泳ぎ方を教わってそこそこ上手くなった筈だ。中学までは水泳の授業は出てたし、当時の水泳部には勝てなかったけど、一般の奴らよりは速く泳げる自信はある。

 
「はーい!一年生達ぃー!一斉にスタートするから岸に並んでー!」


 佐々先の掛け声でみんなが位置に着いてスタンバる。どれもインドアな感じの奴らばかりだな。こりゃ余裕だな♪


「ヨーイスタート!」


 とうとう始まった演劇部の夏休み恒例一年生だけの水泳大会!俺は合図と共にまだ浅瀬なので素足でパシャパシャと川の中央に向かって歩き出す。が、水が想像以上に冷てぇんだ!外は暑いから今はいいけど、ずっと浸かってたら凍えるんじゃねぇか!?てっきり緩いかと思ってたけど、山ってこえーな!


「冷てー!」

「貴哉ファイトー!」

「秋山!急げ!ライバル達はどんどん進んでるぞ!」


 伊織と茜の声がして俺も進むけど、冷た過ぎてこれに体を付けるのがすげぇ嫌だった。
 そこへ、横から次から次へと悲鳴が聞こえて来た。


「ぎゃ!」

「うわぁ!」


 見てみると、先に進んでた一年達がいなくなっていて、俺は不思議に思っていると、バシャっと川から顔を出して泣きそうになっていた。
 あ、そう言えば深くなる所があるんだっけ!じゃないとこんな浅瀬じゃ泳げねぇもんな!
 先に見といて良かったぜ♪これなら俺はああならなくて済……


「っ!?」


 余裕ぶっこいて進むと右足を踏み込んだ瞬間急に無くなった足場に、俺はズボッと川に沈んだ。
 これ聞いてたより深くね!?流れはそんな急じゃねぇけど、ここ泳いでいいとこなのか!?
 頭まで川に沈んでそんな事を考えるけど、それよりも一万円だ!もうどっぷり浸かっちまったから全てどうでも良くなって、俺はそのまま川の中を泳いで進んだ。

 少し進んで地上に顔を出してクロールに切り替えてどんどん進んで行くと、案外早く向こう側に岸に到着する事が出来た。
 どうやらライバル達はまだ中央付近にいるらしく、俺の圧勝らしかった。


「いいぞー!秋山ー!」

「貴哉かっけー♪」

「ふんっこんなのら、く……しょ……あー!さみぃなちくしょう!」


 すぐに寒気が俺を襲う。えっとなんだっけ?どっかに名前書くんだったな?
 震えながら探すと、大きな岩の上にノートが置かれていて、側にいた三年だか二年だかに指示された。
 ペンを持ってノートに名前を書こうとするけど悴んで書くどころじゃねぇ!仕方ねぇからノートいっぱいに平仮名で名前を書いてやった。


「はいオーケー。んじゃ戻ってねー♪」

「またあそこ泳がすとか殺す気かよ!」


 震える体に鞭を打ち、もう一万円の事だけを考えて再び泳いで来た川に浸かる。体が冷えてるからかさっきよりはマシだった。
 向こう岸からいろんな声が聞こえて来たけど、そんなの聞いてる余裕も無くその後俺は全力で泳いでいた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ある少年の体調不良について

雨水林檎
BL
皆に好かれるいつもにこやかな少年新島陽(にいじまはる)と幼馴染で親友の薬師寺優巳(やくしじまさみ)。高校に入学してしばらく陽は風邪をひいたことをきっかけにひどく体調を崩して行く……。 BLもしくはブロマンス小説。 体調不良描写があります。

【完結】相談する相手を、間違えました

ryon*
BL
長い間片想いしていた幼なじみの結婚を知らされ、30歳の誕生日前日に失恋した大晴。 自棄になり訪れた結婚相談所で、高校時代の同級生にして学内のカースト最上位に君臨していた男、早乙女 遼河と再会して・・・ *** 執着系美形攻めに、あっさりカラダから堕とされる自称平凡地味陰キャ受けを書きたかった。 ただ、それだけです。 *** 他サイトにも、掲載しています。 てんぱる1様の、フリー素材を表紙にお借りしています。 *** エブリスタで2022/5/6~5/11、BLトレンドランキング1位を獲得しました。 ありがとうございました。 *** 閲覧への感謝の気持ちをこめて、5/8 遼河視点のSSを追加しました。 ちょっと闇深い感じですが、楽しんで頂けたら幸いです(*´ω`*) *** 2022/5/14 エブリスタで保存したデータが飛ぶという不具合が出ているみたいで、ちょっとこわいのであちらに置いていたSSを念のためこちらにも転載しておきます。

放課後教室

Kokonuca.
BL
ある放課後の教室で彼に起こった凶事からすべて始まる

学園と夜の街での鬼ごっこ――標的は白の皇帝――

天海みつき
BL
 族の総長と副総長の恋の話。  アルビノの主人公――聖月はかつて黒いキャップを被って目元を隠しつつ、夜の街を駆け喧嘩に明け暮れ、いつしか"皇帝"と呼ばれるように。しかし、ある日突然、姿を晦ました。  その後、街では聖月は死んだという噂が蔓延していた。しかし、彼の族――Nukesは実際に遺体を見ていないと、その捜索を止めていなかった。 「どうしようかなぁ。……そぉだ。俺を見つけて御覧。そしたら捕まってあげる。これはゲームだよ。俺と君たちとの、ね」  学園と夜の街を巻き込んだ、追いかけっこが始まった。  族、学園、などと言っていますが全く知識がないため完全に想像です。何でも許せる方のみご覧下さい。  何とか完結までこぎつけました……!番外編を投稿完了しました。楽しんでいただけたら幸いです。

僕の幸せは

春夏
BL
【完結しました】 恋人に捨てられた悠の心情。 話は別れから始まります。全編が悠の視点です。 1日2話ずつ投稿します。

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。 そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

処理中です...