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本編

※直登って変わってるよな

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 ※数馬side

 俺は自転車を押しながら直登と並んで歩いていた。もう18時を過ぎたのに、夏だからまだ明るい。こんな時間まで外を歩くのは本当に最近になってからだ。
 対人恐怖症の俺は、なるべく人を避けて生きて来た。学校へ行くのにもまだ人通りが少ない早い時間に。帰る時はみんなよりも早く学校を出たり、それを逃したら人が少なくなるまでじっとどこかで待っていた。
 
 誰にも気付かれないように、見られないように。
 最近まで俺はこの世に存在しない人間のようだった。
 
 だから俺が今こうして誰かと歩いているのは夢でも見ているかのような出来事だった。


「ほんと、貴哉には負けるな~!あの何も考えてなさそうでいざと言う時バシッと決めちゃうところとか、ギャップが凄過ぎて俺ドキドキしっぱなしだよ!」

「うん。貴哉は凄いよな」


 直登は溜息を吐きながら貴哉の話をし出した。
 貴哉は俺にとってのヒーローだ。だから貴哉の話をする時は楽しくなる。
 殻に閉じ籠っていた俺を引っ張り出してくれたちょっと乱暴なヒーロー。
 俺は貴哉の事が大好きだ。


「俺がさ、貴哉を好きになったのって、高校入ってすぐだったんだよね。同じクラスになって、席が前と後ろになったから一応挨拶したんだ。よろしくーって軽くね。そしたら貴哉何て言ったと思う?」

「うーん、普通に元気良くよろしくな!とかかな」


 きっとそんな普通なのじゃないと思うけど、俺の頭ではそれぐらいしか出て来なかった。
 直登は思い出してるのか、クスクス楽しそうに笑っていた。貴哉とそんな前から仲良いなんていいなぁ。


「違う違う。俺の顔見て、あ?何で女が男子校にいんだ?って真顔で言ったんだよー♪そこからどっぷり貴哉にハマっちゃってさぁ♡」

「それ、素で言ってるよね。貴哉らしいや」

「そこなの!俺ってこんな見た目だから良く女に間違えられるんだけど、制服着てて間違えられたのは初めて!でも貴哉は本気で言ってたんだよー。他の奴に言われたら笑えないけどねー」

「いいな、俺ももっと早く貴哉と出会いたかったな」

「そうだねー、そうすればもっと早く俺とも会えてたしね♡」


 俺を見ながら言われたから咄嗟に目を逸らしてしまった。直登といるのは大分慣れたけど、やっぱりまだ緊張する事はある。
 自分の病気のせいもあるけど、直登は周りとは違ってとてもかっこいいからだ。
 みんなが王子って言ってるけど、正にその名称がピッタリ合うぐらい直登のかっこよさは綺麗だった。サラサラの茶色い髪に、くっきり二重。スッとした輪郭に整った鼻と口。そして柔らかい笑顔。物事をハッキリ言う性格らしく、たまに毒舌になって怖い瞬間もあるけど、きっと直登を嫌う人なんていないと思う。

 俺からしたらまるで違う世界に住む遠い存在だ。
 そんな直登がいきなり俺を好きとか言うから、まだ俺は信じられずに戸惑っていた。


「あのさ、数馬くんは俺の事嫌いじゃないんだよね?」

「う、うん。好きだよ」

「それならいっか。もうね、数馬くんが貴哉っ子なのは許す事にしたよ。どうやら俺には越えられないみたいだからな」

「…………」

「さっきもやったけど、貴哉みたいになるのも無理そうだし?本当、冗談じゃなくて恥ずかしいんだよ貴哉の真似をするのって!だって馬鹿になれって事でしょ?無理無理!」


 あははと声を出して笑う直登は言ってる事は悪口に近かったけど、とても綺麗だった。俺も貴哉や直登みたいに言いたい事をハッキリ言えたらこんなに綺麗になれるのかな……
 うっかり見惚れていたら、直登にデコピンされた。


「何ボーッとしてんの♡あー、俺に見惚れてたなー?」

「うん……綺麗だなーって」

「……嘘だろ」


 本当の事を言われたから、本当の事を返したのに、直登は驚いた顔をしていた。あ、まずい事言っちゃったかな。どうしよう……俺、やっぱり誰かと話すの下手なんだな……


「ごめんっ直登、俺……」

「どうして謝るの?」

「直登に嫌な事言っちゃったかなって……」

「はぁ?綺麗って嫌な事なのー?違うって。ぶっちゃけ綺麗なんて言われ慣れてるから、何とも思わないよ。でもさ、数馬くんに言われたら凄く嬉しいなって思ったの」

「そ、そうなのか?」

「うん♡ドキドキして、ちょっと照れちゃった。ねぇ、もっと言って♡」

「……直登って変わってるよな」

「ちょっとー!セリフ変わってない!?しかも失礼だな!」

「ごめん……でも、そんな直登いいと思うよ」

「ほんとにー?言っとくけど、変わり者代表はダントツで数馬くんだからな?」

「う……」

「その次は貴哉!そして空くん!でもみんな面白いよね」

「……うん。みんな好き」

「数馬くんが笑ってくれるなら変わり者でもいいかなって思っちゃうよ。てかさー、俺誰かを追うの嫌いなんだからな?何でこの俺が追わなきゃいけないのって思うー!」

「王子ってより王様みたいだな」

「その王子ってのも嫌いだけどね。勝手に人の事決め付けて、俺の何を知ってるのって感じ」

「そ、そうだったの?でも、みんなが言ってるよね」

「みんな俺を好きだって言うけど、上っ面しか見てない馬鹿ばかりだよ。だから数馬くんは俺の事王子何て言わないでよな」

「うん!言わない!」

「うん。良い子だ♡」


 これは聞いておいて良かったな。うっかり知らないで言ってたら嫌われちゃうところだった。
 直登は目を細めてニコッて笑ってくれた。
 本当に綺麗だな。俺はこの先直登と恋人になれるのかな……

 恋人とか自分で言って恥ずかしいな。でも、もし直登と付き合ったりしたら目立つよな。俺、こんな目立つ人といたら周りから何て思われるんだろう。

 きっと釣り合わないって思われるよな……
 やっぱり俺何かじゃ直登とは恋人にはなれないよ。


「数馬くんってばまた変な事考えてるでしょ?」

「えっ」

「悲しそうな顔してるよー。性格だから仕方ないと思うけどさー、もう少しポジティブになったら?」

「む、無理だよ!そんなの、出来ないっ」

「あそ。じゃあまずは自分を好きになりなよ」

「自分を?」

「そう!俺は自分が好きだよ!てか自分が自分を好きになれなきゃ周りにも好きになってもらえる訳なくない?まずは自分を自分好みにする♪そしたら周りには自分を好きって言う人達でいっぱいになるんだから♡」

「凄いや、直登は」

「その凄い俺に好かれてる数馬くんも凄いんじゃない?てか数馬くん普通にかっこいいし。俺から言わせてもらえば、ピアスがちょっとね?せっかく綺麗な顔してんのに、穴だらけとか勿体無いなって思う」

「これは……」


 周りの人達と距離を置く為にした事だった。怖い見た目になれば誰も寄って来ないだろうって、初めは痛かったけど、何個目かで慣れて来て、気付いたら俺のお守りみたいになってた。
 ピアスを付けていれば外を歩けた。これがあれば俺はパニックにならなくて済む。誰とも関わらないで、普通に過ごせる。そう思っていたんだ。
 まさか、直哉はそんな風に思ってたなんて、ちょっと悲しかった。


「ま、個性は大事だからね。もう見慣れたし、唇のは取ってくれたからそのままでいいよ♡」

「ごめん……」

「いちいち謝るなー!数馬くん!次謝ったらここでチューするからな!」

「そ、それは辞めて!俺死んじゃうよ!」

「何だよ、俺とキスするのそんなに嫌なの?」

「違う!外だし、周り人いっぱいいるし、恥ずかしいだろっ」

「俺は気にならないけどね。まぁ数馬くんが嫌がるならしないよ。でももう簡単に謝らないでよな」

「分かった……」

「あー、何かムラムラしてきたぁ!エッチしたーい!」

「な、直登!声大きいって!」

「だってぇ!俺春くんと別れてから誰ともエッチしてないんだよぉ!?もう、欲求不満過ぎて頭おかしくなりそう!」

「……春くんて?」

「ほら同じクラスの戸塚だよー。あの優等生くん!俺付き合ってたんだよ春くんと」


 それは知らなかった……戸塚って、たまに貴哉から出てくる名前だけど、直登が付き合ってた人がクラスにいたなんて……
 直登と付き合えるぐらいだから、きっと凄い人なんだろうな。
 どんな人だろう……少し気になるけど、聞くのが怖かった。


「あの、直登……」

「なぁに?」

「その人の事はもう好きじゃないの?」

「恋愛対象としての好きはもうないよ。そもそも春くんとはそう言うので付き合ってた訳じゃないからね」

「どう言う事?」

「うーん。これは話してもいいのかな……」


 ここで直登は珍しく濁して来た。
 何だろう。凄く気になる。
 言いにくそうにしてる直登に少し近付いて俺は勇気を出してみた。


「直登!その話、聞きたい!」


 俺の言動に驚いてた。
 だけど直登はすぐに笑ってくれた。
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