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本編

やっぱり父ちゃんか

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 茜、桃山バカップルに焼肉をご馳走してもらって急いで家に帰る。やべー、すっかり遅くなっちまった!もう19時過ぎとか家で待ってる空が怒ってそー。俺だけ飯食っちゃったし。
 でも空から思ってた程連絡来てねぇんだよな。茜達と飯食ってくって言ってもオーケーってだけだったし。きっと母ちゃんがいて話してるとかなんだろうけど、心配だったから走って帰った。


「ただいまー!」

「貴哉おかえりー♡」


 息を切らしながら玄関に入ると、真っ先にリビングの方から空が飛び出して来た。あれ?機嫌良い?てか何か良い匂いするけど、この匂いは焼肉か!?


「おう帰ったか愛しの息子♪貴哉の好きな肉あるぞ~」

「マジかよぉ!」


 さっき焼肉は食って来たばっかだっつの!しかもたらふく!でも何で焼肉なんかやってるんだ?今日は空が来てるから奮発したのか?いつもは俺と母ちゃんしかいないから簡単な物ばっかなはずなのに。
 俺がガッカリしてると、缶ビールを持った母ちゃんが近付いて来てムッとして言った。


「何だよその反応?あんた焼肉好きじゃん」

「好きだよ。でもさっき食って来たばっか……」

「はぁ!?高校生の分際でど平日にしかも制服着たまま焼肉だぁ!?どこにそんな金があるんだ!」

「先輩に奢ってもらったんだよ!ちょ、空助けろ」


 酔った母ちゃんはしつこくなるから、俺は空に振って着替える為に部屋へ逃げた。
 風呂にも早く入っちゃお……
 着替えながら考えるけど、やっぱり変だ。空が来たぐらいであの母ちゃんが家で焼肉なんかやろうとするか?いや、焼肉ならする。だけど、それは父ちゃんがいる時だけ。俺も母ちゃんも面倒くさがりだから準備する人がいないとやらねぇんだ。
 まさか父ちゃんがいるのか?慌てて帰って来て玄関からそのまま部屋に来ちゃったから分かんねぇや。父ちゃんの革靴あったかなぁ?

 まぁいいや。下に行けば分かる事だしな。
 とりあえず風呂入ってサッパリするか~。
 着替えて、替えのパンツ持って脱衣所に行くと、風呂の電気が点いてるのに気付く。誰か入ってんのか?えー、母ちゃんは酒飲んでたし、空な訳ねぇだろ?じゃあやっぱり父ちゃん?

 俺は服を着たまま風呂のドアを開けて中を確認すると、湯船に浸かってた父ちゃんがいきなり現れた俺に驚いていた。


「やっぱり父ちゃんか」

「貴哉!帰ってたのか!」

「今帰った。父ちゃんもう出るのか?」

「今浸かったばかりだよっもー俺はどこ行ってもゆっくりさせてもらえないのな」


 やれやれといった顔をしてる父ちゃん。やっぱり焼肉の準備は父ちゃんがやらされたんだ。
 俺も早く入りたかったからそのまま服を脱いで中に入った。


「なんだ、今日早かったんだな」

「頑張って早く終わらせて来たの!それなのに、帰って来るなり凛子さんに肉と酒買ってこいって言われるし、ホットプレート出せってこき使われるし、やっと風呂に入って疲れ癒せると思ったら貴哉入ってくるし……」

「いいじゃん。好きな母ちゃんにこき使われるなら」


 適当に聞きながらシャンプーしてると、父ちゃんはまだブツブツ言ってた。
 きっと父ちゃんは早く帰って母ちゃんと二人で過ごせると思ってたんだと思う。普通のサラリーマンだけど、父ちゃんはキチンと大学も出てて真面目に仕事してる。だからか去年とかにまだ若いのに役職ってのを貰ったらしく、それからは毎日遅くまで仕事の日々で父ちゃんに会うのは休みの日ぐらいになってた。
 それでも俺は知ってるんだ。母ちゃんは寝ないで父ちゃんを待ってる事を。きっと父ちゃんも気付いてる。母ちゃんも、俺が産まれてからずっとスーパーでパートやってて働いてるけど、風邪とか体調悪い時以外はずっと起きてる。
 二人が仲良いのは俺でも分かる。一見父ちゃんの一方通行に見えるけど、母ちゃんもちゃんと父ちゃんの事が好きだと思う。
 だから俺はそんな二人が好きだ。


「そりゃあ凛子さんの為なら何でもするけどさぁ」

「父ちゃん背中流してやろっか?」

「何だよ急に……てかもう洗ったよ」

「大きくなってからは一緒に風呂なんて入らないからたまには親孝行しようと思ってさ」

「貴哉……」


 俺の言葉に驚いて鼻を赤くする父ちゃん。
 父ちゃんは俺がこういう親子みたいな事を言うと必ず鼻を赤くする。母ちゃんが言うには喜んでるらしい。


「まったく貴哉は一丁前な事言うようになって!俺からしたらまだまだ貴哉は子供だ!俺が洗ってやるからな!」

「うわっいきなり触るからシャンプー目に入ったじゃねぇか!」


 湯船から手を伸ばして俺の頭をわしゃわしゃとしてくる父ちゃん。泡が目に入って痛くて目を閉じた。
 あー、これ父ちゃん泣いてるな。俺は目が痛い振りをしてしばらく目を閉じていた。
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