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本編

黒……いや、青か……

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 桃山を追って廊下を出ると、まだすぐそこにいた。


「おーい、桃山~」

「あ?」


 声を掛けると、立ち止まって振り向いて俺が近付くのを待っててくれた。


「あのさ、頼みたい事があるんだ」

「お前が?俺に?」

「浴衣作ってくれね?」

「……やだ」

「いいじゃん!」

「何でお前に作ってやらなきゃなんねーんだよ。俺にメリットねぇだろ」

「お願いだよー!花火大会の時に着てたの桃山が作ったって言ってたじゃん?かっこよかったからさ。俺も空と祭り行く時に着て驚かせたいんだ」

「だから俺にメリットは?」

「今度何か奢る!」

「足りない。俺はこう見えて忙しいんだ。それなりに無いと働かないぜ~」

「なっ!じゃあどうしたら作ってくれるんだよ?」


 俺が聞くと、俺の頭から足までジロジロ見て桃山は言った。


「うーん」

「な、何だよ?」

「黒……いや、青か……」


 顎に手を当ててブツブツ言い始めたぞ?本当にこいつは何考えてるのか分からない。


「お前、何が好きなの?」

「は?」

「好きな物教えろ」

「好きな物ぉ?んー、今はゲームかなぁ?」

「茜とやってるアレか」

「そうそう。結構ハマってる。あとは物じゃねぇけど、寝る事かな」

「それはどうでもいいや。分かった。話ってそれだけ?」

「へ?ちょ、浴衣作ってくれる話はどうなった!」

「あ?作ってやるよ。その話してたんだろ今」

「お前分かりにくいんだよ!ちょいちょい話ぶっ飛ぶし!って、作ってくれるのか!?やったー♪」

「その代わり今日の帰りにちょっと付き合え。生地選びに行くから」

「え!今日!?」


 今日は空と家でイチャイチャするつもりだったんだよなぁ……でもそれを言って断ったら気分屋の桃山の事だ。やっぱやらないとか言い出しそうだしな。
 浴衣の事は空に内緒にしたいし、空には先に帰っててもらうか。


「何だよ。お前から頼んで来たんだろ?」

「わ、分かった!あ、この事空には内緒にしててくれよ?サプライズなんだからな」

「りょーかい。にしてもお前も可愛いとこあるのな。彼氏にサプライズで浴衣着るとか。まるで俺みたい♡」

「やめろよ。嬉しくねぇ……でも、桃山の浴衣姿は本当に似合っててかっこ良かった。だから俺にもかっこいいの作ってくれよな♪」

「……へー」

「なんだよ?お前たまに黙って見てくるの辞めろよ。マスクしてっからどんな顔してんのか分かんねーんだから」


 俺がそう言うと、桃山はマスクをずらしてニッコリ笑って言った。


「貴哉、だっけ?お前の事気に入った。俺には茜がいるから付き合えねぇけど、とびきり似合う浴衣作ってやるから楽しみにしてな貴哉♡」

「……はぁぁぁ!?」

「じゃあな。一年~」


 またマスクを装着して、ヒラヒラと手を振り歩いて消えて行く桃山。
 ほんっとに分かんねーやつ!てかマスク外すのはズルい!イケメン過ぎて変にドキッとしちまったじゃねぇか!ここだけの話、桃山の顔って伊織や詩音を超えてるんじゃね?
 でもまぁ、浴衣作ってくれる事になったしラッキーって事で♪

 俺は機嫌良く部室に戻ると、二人が食べ終わった弁当を片付けていた。


「あ、貴哉お帰りー。俺もそろそろ戻るぞー」

「おう!また一緒に食おうな♪そだ!悪いんだけど、今日先に俺んち行っててくんね?ちょっと野暮用が出来ちまったんだ」

「いいけど、野暮用って?」

「えーっと、それは……あ!デザイン部が俺の衣装を作ってくれてるんだけど、どうやら生地が足りないらしいんだ。それで色を合わせたいから俺も一緒に来て欲しいんだって!」

「ああ、だから湊と話して来たのか」

「そうそう!色見たらすぐ帰っていいらしいからさ」

「分かった。食べる物も何か買ってくよ。じゃあまたな」


 咄嗟に誤魔化せたけど、空も普通だったし大丈夫だよな?ふぅ、危なかったぜー。
 空が出て行った後、茜にも訳を話して合わせてもらうように頼んでおいた。


「そういう事だったのか。それはバレたらまずいな」

「だろー?だから悪いんだけど、今日俺も一緒に帰らせてもらうぜ」

「それは構わないが、湊が良く作るって言ったな。さすが秋山だ」

「ああ、相変わらず掴めない奴だけど、何とかねじ伏せてやったぜ」

「はは、今日の帰りは賑やかになりそうで楽しみだな」


 本当に楽しそうに笑う茜。茜は良く笑うようになった。初めは睨んでばかりでいつも難しい顔してたけど、今では穏やかに笑っている事が多い。
 これも恋の力か?
 何にせよ二人はバカップルである事は間違いないけどな。
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