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本編

くそ、解くんじゃなかった

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 ボラ部の部室に入ると、まず先に空の眩しい笑顔が待っていた。あとは数馬と副部長、怜ちんもいた。
 今日は空に茜を紹介する為に一緒に休憩を取る約束をしていたからだ。
 そして空は俺の後ろから入って来た伊織を見て一瞬ムッとしてまた笑顔に戻った。


「貴哉ー♡待ってたぞー♡」

「待たせて悪かったな。茜が待ってるから行くか」


 弁当を貰って空と部室を出ようとしたら、伊織が喋り出した。


「みんな揃ってるみたいだからお願いがあるんだけど、今日部活終わったら帰らないでここに集合して欲しいんだ。みんなで集合写真撮るぞー!那智には俺から言っておく」


 あ、部員募集の写真の事か。伊織ってば忘れてなかったんだな。俺は少し嬉しくなって自然と笑顔になっていた。


「集合写真とかいきなりどうしたの?まぁ楽しそうだからいいけど」

「今広瀬が部員募集のチラシ作ってるらしいんだ。それに使う写真を撮りたい」

「そういう事か~♪それならおめかししなくちゃ♡」

「怜ちんはそのままでも可愛いから大丈夫だよ。早川達もよろしくなー」

「はい」


 名前を呼ばれて普通に返事をする空。伊織が絡むといつも不機嫌になるけど、今日は少し違うみたいでちょっと安心した。
 
 俺と空は弁当を持って茜が待つ演劇部の部室に向かう。


「空、何か変わったな」

「えっ!どこが!?」

「なんつーか、大人っぽくなった?さっき伊織に噛み付かなかったからさ」

「いや、特に嫌な事言われなかったし」

「そっか。なぁ今日の弁当なんだろな?」

「野菜たっぷり健康弁当って言ってたぞ」

「はぁ!?何で俺が食うって時に限って肉じゃねぇんだよ!」

「まぁまぁ、ここのお弁当屋さんどれも美味しいからいいじゃん♪」

「くそー!明日は肉にしてくれって頼んでおこう」

「えー、用意してくれるだけでもありがたいのに~」

「少しでも節約しなきゃだろ~?同棲するんだから」

「た、貴哉……」


 俺が思ってる事を言うと、空は立ち止まってポカンとした顔してた。


「ん?何だよその反応!しねぇのか!?」

「する!違う……貴哉がちゃんと考えてくれてた事が嬉しくて……俺……」


 空の顔がみるみるうちに涙ぐんでって、そしてポロポロと涙を溢し始めた。
 えー!こんな事になるなんて思ってねぇぞ!何で泣いてんだ!?


「空!どうしたんだよいきなりっ!」

「嬉し泣きだぁ」


 泣きながら笑顔を作る空。こいつ、ほんと泣き虫だなぁ。
 空に近付いて溢れる涙を拭いてやると、上目遣いで見て来た。ちょっと可愛いじゃねぇか。


「なぁ空、今日部活終わったら家来ねぇ?」

「行く!貴哉から誘ってくれるの珍しいな♡」

「何か空とイチャイチャしたい」

「ほ、本当に!?え、どうしたの貴哉!」

「てか最近バタバタしてて空と過ごせてねぇじゃん?今度こそ二人きりで過ごそうぜ」

「うん♡貴哉大好き♡」


 すっかり笑顔になった空と手を繋いで歩いた。
 夏休みだから人は少ないけど、数人とはすれ違った。それでも手は離さなかった。俺と空の関係は学年問わず知れ渡ってるらしいからな。堂々と出来るなら楽でいい。

 空と茜が待っているであろう演劇部の部室に入ると、驚くべき光景が待っていた。
 

「茜ー!戻ったぞー!ってお前ら何やってんだよっ」

「あ!秋山!お前体調大丈夫なのか!?」


 いやいや、お前が大丈夫か?
 って言うのも、中では茜と桃山が床に二人揃って転がっていた。床に背中をつける桃山の上に茜が跨り、両腕を押さえ付けていた。まるでプロレスでもしているかのような、二人とも着てる服が乱れてボロボロだった。桃山のトレードマークの黒いマスクが離れた床に落ちていた。
 俺の隣にいた空は驚いた顔して見てる。


「あー、空、上にいるのが俺が良く話す鬼コーチの茜。で、下にいるのが桃山っていう特に覚えなくていい奴だから」

「ちょ、二人の事も気になるけど、貴哉体調悪いのか?」

「えっ!いやぁ、寝不足で頭痛かったんだ。保健室で寝たら治ったけどな」

「またゲームかぁ!」

「空!今はそれよりも茜を助けるぞ!」


 空に怒られそうになったから話を逸らすように茜に近付いて加勢しようとした。


「助かったぞ秋山!何か縛る紐を取ってくれ」

「紐?あ、これでいいか?」


 俺は部室の端に束ねてあった太めのロープを取って茜に渡してやる。すると茜は俺達を睨んでる桃山をそれで縛り出した。
 一体何があったんだ?
 大人しく縛られるマスクの外れたイケメンな桃山は舌打ちをしながら俺に言った。


「てめぇはいつも邪魔してくんな。もうちょっとだったのに」

「ふぅ、これで大人しくなる。秋山を待っていたら湊が現れていきなり襲いかかって来たんだ。だから抵抗したんだけど、一人じゃ取り押さえるのが精一杯だった。もう少しで負けるところだったよ。湊って力が凄いからさ。ありがとうな」

「いや、桃山ってお前の彼氏だよな?ここまでするか普通……」


 恋人をロープでぐるぐる巻きにするなんて、さすがに俺でもしねぇよ。まぁ二人ともボロボロだし、想像以上の事があったのかもしれねぇな。


「ところでそこにいるのが秋山の彼氏か?」

「ああそうそう。早川空!泣き虫だけど、いい奴だからよろしくな」

「貴哉変な紹介の仕方するなよ!初めまして、早川空です。貴哉がお世話になってます」


 空は照れながら茜に向かってペコっと頭を下げた。空ってこういうのはちゃんとしてるよなー。俺と違って年上には敬語使うし。


「ああ、俺は貴哉の指導役をやっている二之宮だ。貴哉の彼氏だって言うからヤバいのを想像していたけど、しっかりしていて驚いたな」

「ヤバいのってなんだよ。桃山みてーなの?」

「おーい、茜ー。これ解いてくれよ。腹減ったー」

「もう襲いかかって来ないって約束するか?」

「するする」


 茜はため息をついて桃山を縛ったロープを解いていた。解放された桃山は真っ先にマスクを拾ってそれをつけた。そして真っ直ぐ空に向かって行った。


「おう、お前秋山の彼氏だって?茜に手出したら分かってんだろうな?あ?」

「え?あの、俺は貴哉一筋なんで、大丈夫かと……」

「桃山てめぇ、空に絡んでんじゃねぇよ!」

「くそ、解くんじゃなかった」

「茜、もうほっといて弁当食おうぜー」


 相変わらずな桃山に俺と茜は慣れてるけど、初めて会う空はその見た目に圧倒されて大分困っていた。
 桃山から空を遠ざけて部室にある机に座る。早く弁当を食おうと準備をした。

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