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本編
※良い顔するようになったじゃん
しおりを挟む※伊織side
朝から後輩の早川空に呼び出された俺は、丁度機嫌が悪かったのもあってファミレスでの話し合いでは飽き足らず、早川と公園の芝生の上で睨み合っていた。
俺が今機嫌が悪いのは想い人の秋山貴哉に振られたからだ。好きだとは言われたが結果的に恋人の所に帰ってしまったのだから振られたも同然。
周りから持て囃されて、そこそこ自分に自信のあった俺は見事にヘコんでるって訳だ。
俺にとってやっと本気になれた相手だったから特にな。
そこへのこのこと貴哉の恋人の早川が現れたから気分は最悪。
いつもだったらちょっとやそっとじゃ怒らない仏の俺でも今回ばかりはキレた。
だってよ、早川の奴は貴哉をモノにしておいて俺に朝っぱらから説教して来たんだぜ!?
あの俺に!貴哉に振られた俺に!
そりゃ最後までやっちまった事は悪いとはちょっぴり思うけどよ。結果的に選ばれたんだからいいじゃねぇか!
「早川さ、そんなヒョロヒョロで殴り合いの喧嘩なんか出来んの?泣いても知らねーよ?」
「人を殴った事なんてありませんよ。殴られた事ならありますけどね」
「どーせ過去の女にでも殴られたんだろ。何か早川ってチャラチャラしてっし?浮気でもしてビンタされたのが妥当じゃん?」
「ええ、女には困ってませんでしたからね」
「何それ自慢?好きな奴も抱いた事ねぇくせに粋がるんじゃねぇ」
「本当にムカつくなあんた!絶対土下座して謝らせてやるからな!」
「やってみろよ!俺は絶対に土下座なんかしねぇ!」
自分でも大人げないなと思う。
好きな奴に振られたからって後輩に当たるような事してダセェなって。
いっそ早く殴ってくんねぇかなとか思う。そうすりゃ心置きなく手出せるし、スッキリするんじゃねぇかな。
「って、何考えてんだ俺。馬鹿みてぇ。なぁ早川、謝るよ。それと俺は貴哉から手を引く。貴哉とはもう普通の友達だ」
「!」
「その代わり必ず貴哉を幸せにしろ。少しでも泣かしたりしたら今度は俺が許さねぇ。あと、隙があったら奪うつもりでいるから気を付けろ」
「それ謝ってないじゃないですか!」
「確かにな。……俺が悪かった。貴哉に手を出してすまない」
「桐原さん……」
俺は腰を折って深々と頭を下げて謝った。
早川の顔は見えないけど、俺の名前を呼ぶ声で驚いてるのが分かる。
もうこれ以上貴哉に迷惑かけるのは辞めよう。
貴哉を困らせても結局は自分の所には来ないんだ。だったら側で友達として支えてやるのも悪くない。
貴哉がずっと笑顔でいられるように。
「顔、上げて下さい」
「ん……」
早川に言われて体を元の位置に戻すと、早川が困ったように笑っていた。
意外だったから俺も笑っちまった。
「本当にズルいです。桐原さんはかっこ良すぎです」
「だろー?早川もやっと俺の魅力に気付いたか♪」
「でも俺ももっともっとかっこ良くなります!貴哉が迷わないぐらいにね」
そう言う早川はとても自信満々で、俺を挑発するように強い目で見て来た。
早川も見た目は綺麗系だからそういう顔をしていると良い男に見える。
いつも俺の前ではなよなよしてるイメージだったが、ガラッと変わって見えて少し面白かった。
「へー、良い顔するようになったじゃん。ま、俺を超えるのはまだまだ先みたいだけどな」
「必ず追い抜いてみせます」
「楽しみにしてる。んじゃもう帰っていいか?てか送ってってやるよ、タクシー呼ぶから」
「俺チャリなんで遠慮します」
「あそ。じゃ気を付けて帰れよー」
俺は早川に背を向けて帰ろうとする。
あ、そうだ、あの話しとこう。
まだそのまま立っていた早川に向き直り声を掛ける。
「おい早川ー、俺さ次の部長やるんだけどさ」
「はい?」
「お前副部長やってくんね?貴哉を誘ったんだけど良い返事もらえなかったんだよ」
「嫌ですよ」
「やっぱり?」
「てか怜ちんと香山さんがいるじゃないですか」
「あの二人に任せられる訳ねぇだろ。はぁ、あとは廣瀬かぁ」
「……いいですよ。一年の俺で良ければやりますよ副部長」
「マジ!?何だよ早川ってめちゃくちゃ良い奴じゃねぇか♪助かるわ~」
「貴哉にやらせるくらいなら俺がやります」
軽く睨みながらそう言った。
何はともあれ誰かしらにやって欲しかったから助かった。何だかんだ一番早川がまともな気がするしな。
今度こそ俺は手を振って公園を立ち去った。
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