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本編

あるのかよっ!

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 伊織と電車に乗って数個行った駅で降りた。俺が降りる駅とは違う駅だ。
 行き先が気になったから聞いてみると、真面目な顔して答えた。


「伊織、どこに行くんだ?」

「俺んち。今日誰もいない筈だから緊張すんな」

「伊織んち!?」


 駅を出てしばらく歩くと住宅街が見えて来た。そして一軒の家に伊織が入って行く。表札には「桐原」の文字。ここが伊織の家か……
 綺麗で大きな家だった。まさか伊織の家に行くとは思ってなかったから少し緊張して中に入った。


「お邪魔します」


 中は暗くて本当に誰もいないみたいだった。
 伊織は電気を点けて廊下を真っ直ぐ進み、奥にあった階段を上がった。


「すげー綺麗な家だな」

「そ?貴哉んちも綺麗じゃん。俺の部屋ここね」


 二階にある一番手前の部屋に入ると、嗅いだことのある良い匂いがした。伊織の匂いだ。少し甘い爽やかな香り。


「確か兄貴がいるんだよな?」

「いるよ。大学生のな」

「似てるのか?」

「似てるらしい」

「へー、見てみたいな」

「俺の方がイケメンだから期待しない方がいいよ」

「期待とかしてねぇよ」

「貴哉、こっち」


 奥にあるベッドに誘導されて、伊織が座って俺を向かい合う形で膝の上に座らせた。この体勢っていろいろヤバいよな。


「貴哉、俺の事好き?」

「……好き」

「どれくらい好き?」

「はぁ?そんなの分かんねぇよっ」

「あはは、これ好きな奴出来たら聞いてみたかったんだ」

「伊織……」

「もっとやりたい事はあるよ。一緒にデートしたいし、毎日寝る前に電話とかしたいし、学校が同じだったらお昼ご飯一緒に食べたりしたいな」

「何か普通じゃね?伊織だからもっと派手な事言うと思った」

「俺って今までに付き合った人って一人だけなのよ。それも中学の初めの頃だけな。そいつとは何も無かったし、だからキスとか貴哉が初めてなんだ」

「嘘だー!その顔で!?その性格で!?」

「貴哉、俺がモテるからって勘違いしてっけど、結構そういうのしっかりしてるんだぜ?誰とでもしたりしねぇからな」


 これには驚いた。てっきり遊びほうけてるのかと。いや、伊織は結構真面目だよな。一緒にいて分かって来たけど、確かに伊織は冗談でそう言う事はして来なかった。


「ちょー意外……ますます良い男じゃん」

「だろ?だから俺にしろって言いてぇんだけどよ。こればっかりは貴哉が決める事だからな」

「伊織……」

「さて、時間も惜しいしイチャつくかー♡あ、今更だけど、いいんだよな?イチャついても」

「今日だけな。明日からはまた友達だ」

「……うん分かった!そんじゃ思いっきり楽しもうぜ♪」


 その後俺と伊織はどちらともなくキスをした。
 次第に舌が入って来て、お互いの息も荒くなって行った。その間に伊織の浴衣がはだけて色っぽかった。


「なぁ貴哉と早川って最後までした事あんの?」

「は?……ねぇよ」

「マジで?じゃあさすがにそれは悪いよなぁ」

「え、まさかヤるつもりだったのか?」

「そりゃ男だもん♡って言っても俺経験ねぇから出来るか分かんねーけどな。あ、貴哉は誰かとあるのか?あったらびっくりだけど」

「ねぇよ!」


 一瞬昨日の戸塚との出来事が浮かんだけど、あれは別だよな?お互いそういう感情無かったし。最後まではしてねぇもんな。


「なら俺ら初めて同士だな♡なんか嬉しー」

「あ」


 そう言えば空はセックス自体は初めてじゃないとか言ってたな。男との経験がないだけ。空は女好きだったから色んな女として来たっぽい。
 何かムカつく。


「伊織、ヤろうぜ」

「え?いきなりどした。でもこれは大事な事だから良く考えた方がいいんじゃね?」

「いい。どうせ最後だし!それとも俺としたくねぇのか?」

「貴哉ってば大胆だなぁ♡」

「あ、待って。伊織んちって何か滑る液体あるか?なんつったかな?ローテーションみたいな名前の」

「ローションの事か?んなのある訳ねぇだろ。あ、そっか。滑り良くすれば挿れやすくなるのか。貴哉良くそんな事知ってたな」

「昨日戸塚に聞いた。あいつガリ勉だから何でも知ってんだ」

「あはは!意外な奴の名前出て来て面白いんだけど!そっかー戸塚にね。どーする?買いに行く?」

「面倒だからいい。無しでヤろ」

「兄貴の部屋にあるかも。ちょっと見てくる」


 伊織は思い付いたように部屋から出て行った。勝手に入っていいのかよと思ったけど、あった方がいいから任せる事にした。無かったらそのままやればいい。
 実を言うと、俺のケツは戸塚に弄られた事によって違和感がまだあるんだ。昨日ので少しは挿れやすくなってんじゃねぇかな。知らねーけど。


「あったあった。これだよな?」

「あるのかよっ!」


 手の平サイズのシリコンの入れ物に透明の液体が入った物を持って伊織が戻って来た。
 そしてそのまま浴衣を脱いでベッドに戻って来た。あ、俺も脱いだ方がいいよな。


「貴哉の事は俺が脱がせたいからそのままでいて♡」

「……分かった」


 俺を抱き寄せながらほっぺにキスして来た。
 伊織がこういう経験が無い事はまだ信じ難いが、一つ一つが優しくて、俺は安心していられた。
 いつも俺の前に現れて助けてくれる心強い男。
 こいつに任せておけば何とかなる。

 俺のもう一人の好きな人。

 でもそれも今日までだ。
 夜が明けたら俺と伊織は友達の関係に戻る予定だ。何だかそう考えたら寂しくなって伊織にギュッと抱き付くと、優しく抱き返してくれた。

 ずっとこのまま時間が止まればいいのに。
 俺はそうすれば後の事なんか考えずにずっと伊織といられるのに。
 夜が明けたら空に対してもこの気持ちが湧くのかな。少し不安だ。

 ごめん空。

 ごめん伊織……



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