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本編
いつでも俺の所に来れるようにな
しおりを挟む花火大会もクライマックスに近付いて、そろそろかと茜を見てみる。
隣で見てる限りまだ告白はしてないようだ。
「茜」
「ん?」
「そろそろ言えよ。花火終わっちゃうぞ」
「えっ今か?」
「二之宮ファイトー」
「お、おう!」
俺と伊織が見守る中、茜は決心した表情を浮かべて桃山に声を掛けてた。
答えは予想出来るけど、誰かの告白を間近で見るってこっちまでドキドキするんだな。
成功したら茜泣いちゃったりして?
「茜、どうした?」
「湊に話があるんだ」
「何ー?」
「湊に告白されてから俺、いろいろ考えたんだ。そしたら湊の事を好きになっていた」
「あは♡嬉しいー」
「それでな、その……俺と正式に付き合ってくれないか?こ、恋人ってやつになりたいんだ」
言ったー!茜かっけー!
桃山はいつになく真面目な顔をしてて、茜の事をじっと見ていた。おい!何で早く返事しねぇんだよ!変な空気になるだろ!
すると桃山はマスクを外してそれはそれは綺麗なお顔を茜に向けて答えた。
「まさか茜から言われるなんて思ってなくて驚いた。すげぇ嬉しい♡俺なんかで良ければよろしくお願いします♡」
ぎゃー!イケメン過ぎだろ桃山!普段とのギャップと、浴衣効果でイケメン度が増してやがる!
そして桃山はそのまま茜にキスをした。
「あ、き、キス!?」
「茜やったな!おめでとう!」
「桃山ってあんな顔してたんだー。ちょーイケメンじゃん」
「だろー?マスク外せばいいのにな」
「あー、でもマスクしてる気持ち分かるかもー」
「何だそれ?」
「イケメンだと周りが寄ってくるだろ?それが嫌で付けてるのかもな」
イケメンならではの悩みってやつか?俺には縁のない話だな。
とにかく、茜の告白も大成功だったしめでたしめでたしってやつだな。
その後、花火を最後まで見て俺達も帰ろうと立ち上がった。そして桃山が俺と伊織に向かって一言。
「んじゃこっからは別行動って事で」
「はぁ?何だよそれ」
「そろそろ邪魔だから消えろよ秋山は」
相変わらずの桃山っぷりにイラッとしたが、ここは大人しく従う事にした。そうだよな、せっかく恋人同士になれたんだ。二人きりになりたいよな。
駅に向かう二人を見送ろうと立ち止まってると、茜が近寄って来た。
「秋山、今日は本当にありがとう。この礼は後日改めてさせてくれ」
「おー、気にすんなよ。茜かっこよかったぞ」
「あ、それと秋山には彼氏がいるみたいだけど、桐原ともお似合いだぞ。もちろん約束通りこの事は誰にも言わないからな」
「はぁ!?」
「二之宮良い事言うじゃーん♪」
「茜ー行くぞー」
桃山に引っ張られて茜は帰って行った。
残された俺と伊織はしばらくその場に立っていた。
最後に茜が言った言葉が耳に残っていた。
「貴哉ー?この後どうするー?駅行っても混んでるだろうし、どっかで時間潰すー?」
「なぁ、伊織」
「んー?」
「やっぱりダメだよな。こういうの」
「いきなり何よ?何がダメなんだ?」
「空と付き合ってんのに、俺の事好きだって言ってる奴と内緒で会う事だよっ」
「貴哉、そんな事気にしてんのか?今日のは二之宮に頼まれたのもあったし仕方ねぇだろ」
「それでもこんな事空が知ったら嫌がるに決まってるっ俺は空に酷い事を……」
「貴哉!」
本当はずっと前から思ってたんだ。
俺だって空が誰かとイチャイチャしてたりしたら嫌だし、空はいつもそれを味わってたんだ。
今回の事だって、もしバレたらあいつかなりショック受けるだろ。俺は最低だ。
自分の考えや行動に悔しくなって、下を向いてると、伊織が近付いて来て、手を握って来た。
それを振り払うと伊織は俺の腕を掴んだ。
「貴哉が言いたい事は分かる。でも貴哉は二之宮の為に早川じゃなくて俺を選んだんだろ。今回の事で自分を責めるのは間違ってる」
「でもっ」
「その過程で俺と貴哉に何かあったとしてもそれは俺に下心があるからだ。貴哉が悪い訳じゃない」
「伊織……」
「さっき言っただろ?奪う気ならやってるって。やらないのは貴哉、お前の為だ」
「俺の為?」
「正直貴哉の事、初めは面白い奴がいるなーって思ってたぐらいだった。でも会う度に惹かれてって今では本気で好きになった。俺は好きな奴にはいつも笑っていられるぐらい幸せになってもらいたいんだ。今の貴哉の幸せは早川といる事だろ?だから貴哉が本気で辞めろって言うなら俺は手を引く気でいる」
「……そうなのか?」
真剣な顔だけど、どこか優しい笑顔の伊織を軽く見上げて聞くと、コクンと頷いた。
伊織は嘘ついてない。これは俺にも分かる。
「でも、貴哉は迷ってるんじゃないか?多分だけど、俺の事そんなに嫌じゃないだろ?」
「……おう」
「だよな。貴哉は嫌いな奴とキスしたりしねぇもんな。それと、今の早川には任せておくのは不安だなって思う事もあるんだ。結構不安定なとこあるだろあいつ」
凄い。そこまで分かってるなんて。
伊織が周りから認められている理由が今分かった気がした。
「だから俺は貴哉の事を好きなのを辞めないでいる。いつでも俺の所に来れるようにな」
「お前って頭良いのか?馬鹿なのか?」
「どっちかってーと良い方だと思うけど」
「馬鹿だよ。俺なんかを好きになったりして。お前にはもっと良い奴いるだろうに」
「貴哉以上に良い奴なんかいねぇよ。俺は誰が何と言おうが貴哉が一番だ。お前以外を抱き締めたり、キスしたりするのなんて出来ねぇもん」
今度は照れたように笑った。基本的に笑顔でいる事が多いけど、時々何かを思い詰めたり、真剣な顔をしたりする時もある。やっぱり俺は伊織の笑顔が好きだ。この笑顔を見ると心がくすぐったくなって、ホッとするんだ。
きっと俺は伊織に惹かれてるんだと思う。だけど、空の事も好き。だから必要以上に踏み込まないようにしている。
きっと俺が誰とも付き合っていなかったら伊織の気持ちに応えていただろう。
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