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本編

おい秋山、茜に手出すんじゃねぇぞー

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 茜からの電話に出る余裕もなく走っていた。何て言い訳しよう?腹が痛くてトイレ篭ってた?うん。それで行こう。
 そんな事を考えながら猛スピードで廊下の角を曲がると、人が二人揉めていて、その内の一人にぶつかってしまった。


「いて!悪い!今急いでて前見てなかっ……お、お前!」

「あ?何ぶつかってんのクソガキ」


 俺がぶつかった相手は何とあの前髪斜めだった!前髪斜めはギロリと俺を睨んで来た。
 やべーのに会っちまったな!こうなったら茜に電話して迎えに来てもらうか!


「秋山!お前ここで何してるんだ!?」

「って、え?茜ぇ??」


 前髪斜めと揉めてたのは何と茜だった。
 そういや茜は前髪斜めに会いに行ってたんだよな。でも二人とも何でここにいるんだ?
 二人で顔を見合わせて驚いてると前髪斜めは不機嫌そうに俺の腕を引いた。


「お前に会いに行こうとしてたんだよ。俺の事知りてーんだろ?手取り足取り教えてやるから感謝しろよ?」

「はぁ!?ちげーよ!茜がインタビューすんだろ?なぁ茜!」

「すまない秋山、失敗した」

「失敗って何だ!?すまないじゃねぇよ茜!」

「茜?何お前茜ちゃんの事名前で呼んでんの?」

「そうだよ。俺だけ特別許されてんの!」

「特別?そーなのか?茜ちゃん」

「え、ああ。秋山だけ許した」

「ムカつく。やっぱお前ムカつくわ」

「ちょ、何でだよ!何で俺が茜って呼ぶとムカつくんだよ!お前は桐原だろ!」

「今さっき俺の好きな人変わったんだよ。てめぇはいつも俺の好きな人に気に入られてんなぁ?あ?」


 いやいや、全く話が分かんねーんだけど!
 茜も混乱してるのか困った感じだし、前髪斜めの好きな奴って、桐原だったよな?でも今は茜って事か?え?いきなり何で?
 とにかくこいつ面倒くさ過ぎ!


「桃山!ハッキリ言うけど、俺はお前を好きにはならないぞ!」

「そんなの分かんねーじゃん。俺らそんなに話した事ねーし」


 こりゃ参ったね。茜には既に好きな奴いるってのに。良く考えたら前髪斜めも可哀想な奴だな。好きな奴に相手にされないなんて。
 かわいそ過ぎてちょっと泣けて来たわ。


「やべ、同情するわ」

「おう、一発ぶん殴ってやるからこっち来いやガキんちょ」

「なぁ前髪斜め、こうしたら良いんじゃねぇか?お前も茜の事を茜って呼び捨てにする。茜って良い奴だからちゃんとお願いすれば聞いてくれるよきっと。なぁ?茜?」

「お前変な事言うなよ!」

「それに、俺と茜はお互い師弟関係であって、恋愛感情は一切無い。ここ桐原の時とは決定的に違う所な?だから俺の事は気にせず思う存分茜とイチャイチャしてくれよ」

「イチャイチャ……茜と……♡」

「秋山ー!お前覚えてろよ!」


 前髪斜めは視線を俺から茜に変えて歩み寄って行った。
 すまん。茜よ。そして俺の為に犠牲になってくれてありがとう。
 よし、今の内に逃げるぞ!


「あ、先輩ー!俺部室戻って台本読んでまーす!」

「待て秋山!くそ!確かに自分が撒いた種だけどっ!秋山の裏切り者ー!」

「茜……」

「桃山、とりあえず落ち着いて話し合おう?」


 犠牲になった茜の震える声が聞こえて来たが聞こえないフリをした。そして前髪斜めは何をするかと思ったら急に茜の足元に跪いて、右手の平を上にして茜に差し出した。そしてずっと付けてたマスクを外して……
 これってまさか!


「俺、桃山湊は二之宮茜の事を愛しています。必ず幸せにすると誓います。俺と付き合って下さい!」

「なっ」


 うわー!言ったー!何かすげー真面目だったし!
 てか前髪斜めってば、マスク取ったらイケメンじゃね!?何でいつもマスクしてんだよ!外せよ!勿体ねぇ!
 前髪斜めの癖にかっこいいだろ今のは!
 でもあの真面目な茜の事だ。詩音の事もあるし、相手にしねーだろうな。

 チラッと茜を見ると、茜は顔を赤くしてわなわなと震えていた。ほら見ろ。前髪斜めは可哀想だが、怒られるなー。


「す、少し考えさせろ!ちゃんと考えるから……」

「はい♡」


 って、えー!?何でー!?
 おい茜!何か変な物でも食ったか!?
 あの前髪斜めだぞ!確かにマスク取ったらイケメンだけど、茜が前髪斜めは危険な奴だとか言ってたんじゃなかったのか?

 茜の答えを聞いた後、前髪斜めは立ち上がって俺を見て言った。


「おい秋山、茜に手出すんじゃねぇぞー」

「出さねーけど……了解!桃山!」


 今までテメェだのクソガキだの呼んでたのに、いきなり名前で呼ばれて、少し違和感があったけど、俺の事を認められた気がして嬉しかった。
 桃山も見かけによらず良い奴なのかもな。少しヤバい所もあるけど、さっきの告白はかっこよかった!
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