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本編

※ちゃん付けすんな

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 茜side

 昼食後、秋山の役作りの為に俺はデザイン部の部室になっている被服室を訪れていた。
 挨拶をしながら中に入ると中にいた者達は俺を見てコソコソと話し始めていたがそんな事は気にせずに目的の桃山の所へ向かう。
 教室内を見渡すと、隅の方の机でだらし無く座り雑誌を読んでいる彼を見つけた。近くまで行くと、音楽を聞いているのかイヤホンを付けていた。


「桃山、話があるんだ」

「~♪~♪」

「…………」


 こいつまさかこの距離で俺に気付いてないのか?それとも無視をしているのか?
 勝手にイヤホンを取るのは嫌だったので、雑誌を取り上げて気付かせてみた。


「おわっビックリしたー!って茜ちゃんじゃん」

「やっぱり気付いてなかったのか」


 やっと俺に気付いたこのマスク男は桃山湊と言って、俺と同じ二年だ。相変わらずな奇抜な髪型に、たくさんのピアス。黒髪で、右目が隠れる程右に流している前髪が特徴的だった。
 彼はデザイン部で、一応ファッション系の雑誌を読んでたみたいだけど、ちゃんと活動していたのかは不明だ。外されたイヤホンからはガヤガヤとうるさい音楽が聞こえて来た。ロック?パンク?とかってやつか?


「俺に何の用ー?」


 ヘラヘラ笑ってるな。目元しか見えないから表情が分かりにくいが、慣れればどうって事ない。


「今後の役作りの参考にしたいからインタビューをさせてくれないか?」

「は?俺の?」

「ああ。難しい事は聞かないから」

「いいけど、ちなみに何役なの?」

「……魔女の弟子だ」

「プッ何それ?あ、分かったー。あいつだろ?あの生意気な一年の為か」

「いいから協力してくれるのか?してくれないのか?」

「話題になってんぜー?あの茜ちゃんに子分が出来たーってさ。良かったなぁ?付いて来てくれる奴がいて」


 苛立つが秋山の為に我慢だ。こいつは秋山の役作りにとって大事な存在だからな。
 俺は周りから良く思われていない。去年部活で揉めた事があり、それから噂が広まり同学年の奴らには茶化される日々だ。気にしないようにしているけど、たまに辛い時もある。
 けど、今はそんな事はどうでもいい。
 さっさと聞きたい事を聞き出して立ち去ろう。


「桃山、頼む。この通りだ。協力してくれ」


 俺は腰を折って憎たらしい桃山に頭を下げた。このやり取りを見ていたであろう周りの人達のヒソヒソ声が更に増したのが分かる。


「ふーん。茜ちゃんって面白いじゃん。いーよ。協力してやるよ。インタビューだっけ?そんなの面倒くせーから俺が直接あのガキに教えてやるよ」

「なっ待て!わざわざ桃山に来てもらう訳にはいかない!」

「暇だしいいよ。ほらさっさと行くぞ」


 立ち上がった桃山を再び座らせようと肩を掴むが予想以上の力に負けて俺が引きずられる形になってしまった。
 ヒョロい見た目してんのに何だこの馬鹿力は!
 それよりもこのままじゃまずいぞ!桃山から秋山を守らなくちゃいけないのに俺が二人を会わせてどうするんだ!

 被服室を出た後も桃山を止めようとしがみ付くがびくともしない。俺も体格が良い方ではないし、力も人よりは無いからだろうけど……


「おい服引っ張るなよ。シワになるだろーが」

「桃山が止まればシワにならない!」

「俺があのガキに何かすると思ってんだろ?しねーから大丈夫だって」

「信用出来るか!」

「あ」

「うわっ!いきなり止まるな!」


 桃山が小さく声を出して止まった。俺は後ろに引いていた力が大きく働きよろけてしまった。


「俺さ、いーくんに釘刺されてんだわ。あのガキに何かしたら許さねーからって。だからしねーよ」


 振り向いてニコッと笑ったような気がした。けど、そんなの信用できるか。過去に桃山の被害者だっているんだ。
 俺は桃山の前に立って両手を広げて進行を阻止しようとしてみた。


「そうだったとしてもこの先に行かせる訳にはいかない。桃山を秋山に会わせる事は出来ないっ」

「茜ちゃんってさ、あのガキの事好きなの?」

「何でそうなるんだ!俺は秋山を守ってやるって約束したんだよ」

「あはは!やべーウケる!守ってやるだってよ!ナイト気取りかよ!そんなだから馬鹿にされんだ茜ちゃんはよー」

「ちゃん付けすんな」

「今更かよ。みーんなが呼んでんじゃん」

「今日からは呼ばせない!次名前で呼んだら……」

「茜ちゃん」

「だから呼ぶなー!」


 俺が怒るとケラケラ笑ってた。
 秋山がかっこいいって言ってくれた名前だから、もう馬鹿にする奴らになんか呼ばせないんだ。
 自分の名前はずっと嫌いだったけど、秋山に初めてかっこいいって言われた時、本当に嬉しかったんだ。だから、秋山の言う通りもう少し大事にしようと思った。


「なんだ、茜ちゃんって楽しい奴なんだな♪俺、嫌いじゃないぜ?」

「嫌いなままでいい!」

「素直じゃねーなぁ。本当はみんなに相手にされなくて寂しかったんだろ?今度からは俺が相手してやるからよー」

「もうインタビューは諦める!だからもう被服室に戻れ!」

「やだね。ガキに会わせろ」


 桃山の面倒くささと態度に俺の怒りも限界に達してとうとうインタビューを諦める事にしたが、桃山も何故か秋山に会おうとしていた。
 そして俺を退けて再び歩き出した。
 くそ、こうなったら秋山に連絡して逃げるように言おう。そうすれば会わせなくて済むな。
 桃山にバレないように電話を掛けるが秋山は出なかった。あいつまさか寝てるのか!?こんな時になんてこった!

 そんな事をしている間にも桃山はどんどん部室に近付いて行った。
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