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本編
※俺、桐原さんに負けません
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平塚さんは、みんなには秘密だと言って俺に桐原さんの話を始めた。
「俺といーくんと那智くんは幼馴染なんだけど、実はもう一人いたんだ。中学二年生まではその人も入れて四人でいつも一緒にいたんだけどね、今その人は、遠くの学校にいるらしいんだけど、ある事件があって俺達とは全く関わりがなくなっちゃったんだ」
「……事件?」
「うん。その人といーくんは中一から付き合っててとても仲が良かったよ。いーくんは今と変わらない人気者で、恋人も明るくて楽しい人だったよ。でもね、いーくんてやっぱり昔からモテてたんだよ。恋人がいても告白されたりしてたんだ。もちろん断ってたよ?そんで、いつもみたいに告白されて断った人がいたんだけど、そいつは他の人達とは違ったの」
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良くない話なのかな?
「いーくんに振られた腹いせで恋人に嫌がらせをするようになったんだ。初めは相手にしてなかったんだけど、段々エスカレートしてって、酷い時は階段から突き落とされたりしたんだ。いーくんはもちろん、俺と那智くんも協力して何とかしようとしたんだけど、いーくんの恋人はとうとう心を壊しちゃったんだ。そして事件は起こった。恋人があるビルの屋上から飛び降りたんだ。幸い木の植え込みの上に落ちて命は助かったんだけど、しばらくは意識が戻らなくてずっと入院してた。そしてそのまま学校に戻って来る事はなく、転校しちゃったんだ。俺達に何も言わずにね。電話番号とかも全部変えちゃったみたいで一切連絡が取れなくなっちゃったんだ」
「そんな事が……」
「付き合ってたいーくんは激怒してそいつに復讐しようとしたんだけど、俺と那智くんで止めたよ。俺達も許せなかったけど、復讐はいい事じゃないと思うからね。いーくんはしばらく荒れてたけど、恋人がいなくなってから今のいーくんに戻ったんだ。だけど、それからは誰も好きにならなかったし、誰とも付き合う事はなくなったの」
「そう言う事だったんですね」
「うん。だから貴ちゃんの事をあんなに気に入ってるのが信じられなくて……もし本気だったら、やっと前に進めたのかなって」
あの桐原さんにそんな辛い過去があったなんて誰も予想出来ないだろう。
これには俺も驚いて何て言葉を発したらいいのか分からなかった。
「あの、ごめんね!空くんにこんな重たい話しちゃって……えっと、いーくんも悪い人じゃないって知って欲しくて、それと、そう言う事があったからもう傷付いて欲しくないのもあるし、貴ちゃんの事も心配だし……空くん~!いーくんが本気だったらどーしよう!?」
俺の代わりに平塚さんが混乱してくれたみたいだ。きっと平塚さんにとって桐原さんは大事な友達なんだろう。
「平塚さんの気持ち、良く分かりました。もちろんこの話は俺の心の中に閉まっておきます。もし貴哉の事を本気だって言うなら俺は絶対に渡しませんよ。平塚さんは、桐原さんにどうして欲しいんですか?」
「どうして欲しいって、うーん、うーん……分からないよぉ」
「桐原さんは本当に強い人ですね。俺が同じ立場だったら立ち直れないかもしれない。貴哉にそんな事があったら俺……」
「多分、守ってあげられなかった事を後悔してるんだと思う。もう二度と繰り返さないように強くいるんだよいーくんは。だからね、空くんにもやき方を変えてみろって言ったんじゃないかな?」
「そっか……」
そう言う意味だったのかもしれない。今のままの俺じゃ、やだとかムカつくとか貴哉に言うだけで、何も解決なんて出来てないじゃないか。
ただ貴哉の悩みを増やしてるだけだ。
俺自身がもっと強い心を持っていないと、やだとかムカつく以上の事が起きた時に対処出来る筈がない。
桐原さんは俺にそれを伝えたかったのかな。
「それと、空くんの事も応援するけど、もしいーくんが本気だったなら、俺はいーくんも応援したいんだ!そこは本当にごめんね。初めは友達として止めるつもりだけどさ」
「はい。覚悟してます。平塚さんは平塚さんの思うようにしてください。俺、桐原さんに負けません」
「かっこいー!空くんかっこよすぎー!」
「よーし!もっとかっこよくなるぞー!」
「頑張れ空くーん♪ファイトー♪」
「平塚さん、ありがとうございます!話が聞けて良かったです」
「ううん。こちらこそ聞いてくれてありがとう♪それと、俺の事は怜ちんでいいよ♪みんなそう呼んでるから。あと俺には敬語じゃなくていいよ。貴ちゃんもそうだしね。二人とはかしこまった関係じゃなくて友達になれたら嬉しいなって♪」
この人はどこまでも良い人だな。
見た目では年上には見えないけど、中身は俺なんか比べものにならないぐらい立派な人だ。
「それじゃあ怜ちん。これからもよろしく♪」
「こちらこそよろしくだよー♡」
こうして俺と怜ちんは友達になった。
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