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本編
桐原を拒否する奴も初めて見た
しおりを挟むもう少しで桐原に襲われるって時に茜がジュースを二本持って戻って来た。
そして俺の危機迫る現場を見た茜は……
「あ、悪い。邪魔した……」
「ってオイ!獣に襲われてんだよ俺!助けろよ先輩!」
普通に出て行こうとしたから必死で呼び掛けて止めた。茜の奴何考えてんだ!俺が桐原と戯れてるとでも思ったのか?
俺の声に茜はハッとして、つかつかと俺達の元に歩み寄って来た。
「何二之宮、邪魔すんの?」
「秋山は嫌がってるんじゃないのか?だとしたら止めるよ」
「めっちゃ嫌がってるっつーの!早く追い払ってくれ!」
「てか何ちゃっかり名前で呼ばれてんのよ。二之宮ってそーゆーキャラだったっけ?」
「俺と茜は師匠と弟子の関係だからいいんだよ!他の奴はダメなんだ!」
「貴哉ってばすっかり二之宮に懐いたんだな。安心した」
ここで桐原はふっと笑って俺から離れて行った。とりあえず良かった、のか?
そして二之宮は持っていたジュースを俺に差し出した。
「好きな方選べよ。俺はどっちでもいいから」
「え、もう一本は俺の分じゃねーの?」
「桐原の分は、来るとは思わなかったから買ってない」
紅茶とリンゴジュース。茜の奴、さっき俺が桐原は奢るって言ったの気にして買って来てくれたのか?そう考えたら何だか無性に嬉しくなった。
「茜!やっぱお前は良い先輩だな!さすが俺の師匠だ!リンゴ貰うぜー♪」
リンゴジュースを選んで早速飲むと茜は嬉しそうに笑ってた。
「んじゃ俺は戻るかな。二之宮、これからも貴哉の事頼んだぞー」
「ああ」
「って結局お前何しに来たんだよ?」
「貴哉の顔見たくなったから来たんだよ。何かあったら言えよー」
ヒラヒラと手を振って部室から出て行った。本当に俺の事を心配して来てくれただけだったのか。
何だかんだ桐原も良い奴なんだよなぁ。
桐原がいなくなった後、茜はペットボトルの紅茶を飲みながら聞いて来た。
「桃山の事、桐原は知ってるのか?」
「知ってるぜ。昨日いちゃもん付けられた時に桐原もいたからな」
「そうか。それにしても相当好かれてるな」
「うざいぐらいな」
「桐原が一人の人にここまで執着するのって初めて見た。そんで桐原を拒否する奴も初めて見た」
茜はジーッと俺を見てた。
みんなして桐原の事で騒ぐな。そりゃ確かにカッコいい方だとは思う。頼りになるし、優しい所もあるしな。実際俺が空と付き合ってなかったら好きになっていたのかと聞かれたら……否定は出来ねぇ。
だって、あいつ空と似てて居心地良いんだ。
「はぁ、茜ー。ちょっとマジョリーナやって見せてよ」
「いきなりだな!いいぜ。良く見てろよ?」
呑気に紅茶を飲んでた茜に言うと、マジョリーナを演じて見せてくれた。
茜が演じるマジョリーナはドラゴンを人間の姿にした魔女で、千年以上生きている設定らしい。見た目は若いらしい。ドラゴンの力を奪って不老不死を手に入れたからだ。
「忌まわしきドラゴンよ!人間のままでは手も足も出まい!五百年越しの恨み味わうがいい!」
両手を目一杯広げて教室の端から端まで移動しながら大きな声で台本にあるセリフを言っていた。
茜の演技は迫力が凄い。演劇とか知らねぇ俺でも見入ってしまうぐらい堂々とした物だった。
「さあ!デシーノよ!共に参ろう!我ら魔族の復活の時へ!」
「お供します。マジョリーナ様」
「!」
俺が覚えていたセリフを言うと、茜が反応した。そして俺を見て近付いて来た。
「何だお前、セリフ覚えたのか?」
「いや、そこだけ覚えてた。」
「へー、なかなかやるじゃねぇか。でも演技力はまだまだだな」
「当たり前だろ!俺はこういうの初めてやるんだぞ」
「もっと腹に力を入れて声を出すんだ。感情を込めてデシーノになりきるんだ」
「それなー、詩音にも言われたんだけど、デシーノになれってのが良く分かんねーんだよ」
「なら秋山にとってデシーノはどんな女だ?」
「師匠のマジョリーナが大好きで、マジョリーナの為なら命張れるぐらい漢気のある女。あと、マジョリーナが狙ってる姫に嫌がらせする嫌な女」
「普通だな」
「間違ってねぇだろ?」
「そうだが、それではデシーノになりきるのは無理だな。まずはデシーノを好きになれ。デシーノの気持ちが分かるようにならなければ演じる事は出来ないだろう」
「無理じゃね?」
「何がだ?」
「デシーノの事なんか好きになれねぇよ」
「うーん。あ、ドラゴンを秋山の彼氏。姫を秋山。そしてマジョリーナを桐原。デシーノは桃山に置き換えてみろ」
「むむむ」
「秋山と彼氏は相思相愛。仲良くデートしている所に桐原が現れて、秋山にちょっかいを出す。もちろん彼氏は怒るよな。それを見てた桃山もいい気はしない。だから秋山に嫌な態度を取る」
「おおー!当てはまってる!」
「だろ?そうすりゃ分かりやすいだろ?この場合、秋山は桃山の気持ちが分かればいいんだ。桃山の気持ちをきちんと理解して受け止める。それから自分は桃山だと思い込み、その気持ちを演じればいい」
「……やっぱ無理じゃね?」
「どうしてだ?」
「前髪斜めの気持ちなんか分かんねーもん。もう会わないかもしれねーし。どうやって分かればいいんだ?」
「確かにそれは難しいな。よし、俺が桃山の所へ行って来る」
「マジかよ」
「直接インタビューしてくるから。秋山はインタビューの結果をデシーノの事だと思って受け取ってくれ。俺が戻るまで台本読んでセリフ覚えておけよー」
茜はノートとペンを持って出て行ってしまった。
残された俺は言われた通り台本をペラペラと捲る……訳ねぇだろ♪
こんなチャンスねぇからな!俺は教室を抜け出して美術部にいる空の様子を見に行く事にした。
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