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本編
パシリの役目
しおりを挟む夕方、俺と桐原はボラ部の部室に戻る為に廊下を歩く。
今日はほとんど台本読んで終わったなー。普通に面白かったし。明日からは演技の練習に入るって言ってたな。
「貴哉、演劇部どうだった?」
「疲れた」
「良く頑張ったな。偉いぞ」
「…………」
笑顔で頭を撫でられて褒められた。こいつはちょくちょく子供扱いする。でもあまり嫌じゃない。
「何かあったらすぐ言えよ?大抵の事は何とか出来っから♪」
「桐原ってさ、誰かと付き合った事あんの?」
マッシュルームに聞いた話が気になってたから質問してみたんだけど、桐原は驚いた顔をしていた。でもすぐに優しく笑って答えた。
「……あるよ。それ聞いて来るって事は期待してもいいのか?」
「するな。気になったから聞いただけだ。お前って誰とも付き合わないらしいじゃん。モテるくせに。何でかなーって」
「モテるけど、好きな奴には好かれねーからなぁ。前言っただろ?追われるより追いたいんだ」
「言ってたな。もう俺を追うのやめろよ。俺逃げ続けるぞ?絶対追いつかねーぞ」
「だからいいのかも♪ずっと追い続けられるって事だろ?楽しそうじゃん」
「変態め。覚えてるよな?パシリの役目」
「早川の嫌がる事は言わない。だろ?分かってるって」
「桐原ももっと普通にしてくれたら良い奴なのになー」
「自分では普通だと思ってるけどな」
「普通は彼氏いる奴にはベタベタしねぇだろ」
「好きな奴にベタベタしたくなるのは普通だろ」
「……確かに。じゃあ桐原は普通なのか」
「な?」
「ん?でもなんか違う気が……あー!俺を言いくるめようとしたな!あぶねー!」
「あはは、貴哉おもしれー♪」
危うく桐原の言う事を認めちまうところだったぜ!でもまぁこれで空もカリカリしなくて済むだろ。俺も自分のやる事に集中できるな。
部室に戻ると既にみんな揃っていた。運動部の方にいる香山那智はあっちの時間に合わせて活動してるらしいからしばらくはここには来なそうだな。
「二人共お疲れ様!演劇部どうだった?」
「相変わらずの大所帯だったぜ。今年も盛り上がりそうだ」
「それはやり甲斐あるね♪秋山くんはどうかな?やって行けそう?」
副部長の風間に聞かれたから素直に答える事にした。
「ぶっちゃけムカつく奴ばっかだけど、やってやる。自分の為にな。台本は面白かった」
「そっか~!秋山くんならすぐにみんなと打ち解けられるよ♪応援してるからね」
それからボラ部は解散して、俺は空と歩く。
空は美術の方に行ったけど、どうだったかな?
絶対絵心なんてないだろうから暇だったんじゃねーの?
「空ー、美術部は何してたんだ?」
「んー、俺は雑用だよ。挨拶してそれからみんなが絵を描いてるの見てた。後は道具片付けたりとか」
「ほー!そりゃ楽しそうだな」
「貴哉は?ムカつく奴いたって言ってたけど、喧嘩したのか?」
「俺はいつも通りだな。突っかかって来る奴には言い返したし、でも良い奴らもいた。芝居とか訳わかんねーけど、とりあえずやる事にしたよ」
「まぁ一年だし、雑用ばかりだろうけどな。お互い頑張ろうぜ」
「それがよ、俺役もらったんだわ。文化祭出るから」
「嘘!?すげーな!」
「めんどくせーけど、これやり遂げれば生徒会長も担任も認めるだろって。腹括った」
「貴哉、演技出来んの?」
「お前が良く知ってんだろ」
「はは、忙しくなりそうだな」
「どうせ夏休みは部活行かなきゃなんねーし、まぁやってみるよ」
「でも夏休み中、金曜日は休みじゃん?遊びに行こうな♪」
「おう!思いっきり遊ぶぞ!あ、朝は少し寝かせろな?」
「あのさ、泊まりとかしてーんだけど、貴哉んちってそういうの平気?」
「うちは構わねーよ。母ちゃんいると思うけど、お前気に入られてるし。なんなら今週の金曜日から泊まるか?」
「やったー♡貴哉とお泊まり~♡」
空の奴、笑顔ではしゃいでやがる。思ったより元気そうで安心したな。
俺も空が泊まりに来るのは楽しみだ。二人で遅くまで起きて遊んでられるし、酒も飲めるしな。あ、母ちゃんに布団出してもらお。
中学の時とかは楓達と良く誰かしらの家に溜まってたりしたけど、高校に入ってから誰かと泊まりで遊ぶのは初めてだ。
やっと夏休みらしい予定が出来て俺の気持ちも少しは晴れたな。
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