【完結】どいつもこいつもかかって来やがれ2nd season

pino

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※やっぱり俺帰ります

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 ※空side


 貴哉と仲直りをした後、一人で自転車を押しながら歩いてマンションまで帰る。

 完全にブラックな気分だったけど今では清々しい。貴哉に甘やかされたからだ。いつもよりも優しくしてくれて頼りになる良い男だった。

 俺の家の事情などは話せなかったが、あれで十分元気が貰えたよ。俺は貴哉の事が好きなんだと再確認出来た気もする。

 今頃貴哉は戸塚に怒られてっかな?
 楓って奴と会わせるのは気が引けるが、仕方ない。今はあの人の方が貴哉の力になれそうだからな。
 芽依ちゃんは女子だけど、不良が嫌いみたいだし貴哉は対象外だろうから、心配しなくても大丈夫だろう。

 はー、貴哉に会いてぇなぁ。
 そんでさっきの続きしてぇ♡
 そろそろ最後までしてもいいよな?
 貴哉もそんな雰囲気だったし?
 

 もうすぐ家に着くって時にスマホが震えた。
 誰だ?貴哉か?今の俺に連絡をするなんて貴哉ぐらいしか思い付かなくて不思議に思いポケットに入ってるスマホを探る。

 俺は貴哉と付き合ってから中途半端に繋がってた女子を全部切った。
 もちろん連絡先も全部消した。そしたら残ったのは兄貴と中学の時連んでた男友達数人と、貴哉だけになった。ああ、中西もいたな。一人女子が残ってるが、そいつは俺のバイトを紹介してくれる奴だ。それと残ってるのは母さん……
 しばらくは消したであろう番号から掛かって来たりしてたが、今ではそれも無くなり俺のスマホは随分大人しくなったもんだ。

 そんな事をぼんやり考えながら画面を見ると知らない番号だった。うーん、出るか迷ったがもし女子だったらちゃんと話そう。
 そう思って俺は女子だと思い込んで電話に出た。


「もしもーし?ごめん。電話帳消しちゃったから分かんなくて……」

『やあ空。僕だよ、分かるかい?』

「……っ!」


 電話の相手は女子なんかじゃなかった!
 声を聞いて驚いた。相手は男。もう会わないと思って忘れていた奴だった。


「ワタルさん……?」

『あ、覚えててくれたー♡嬉しい~』


 東郷ワタル。俺が名前を呼ぶと嬉しそうに笑ったのが分かった。ワタルさんは大学生で、バイトを紹介してくれた女を通して出会った。

 つまりワタルさんは俺の客だった男だ。

 俺はバイトで知り合った相手には連絡先を教えないようにしてるんだけど、ワタルさんは歳が近いのもあって教えてしまった唯一の人。

 でも一回会ってお茶してから連絡なんか無くてそのまま忘れていた人物だ。

 今更何で?


『空元気かなぁってふと思い出して掛けてみたんだけど、忙しかった?』

「いや、大丈夫だけど」

『良かった♪ねぇ今から会えない?僕ちょっと落ち込んでて。癒してもらいたいんだ』

「……いいよ」
 
『やった♪それじゃあ迎えに行くよ。前待ち合わせした場所でいいかな?』

「30分後に」


 これは予想外だった。まさかまたワタルさんに会う事になるなんて。

 ワタルさんとは貴哉と付き合う前に出会った。
 初めて会った時は普通のカフェだった。本当に会って話をしただけ。
 
 他の客はもっと年上のオッサンばっかで必ずホテルに誘おうとして来たけど、ワタルさんはしなかった。
 カフェでずっと話してただけ、まるで友達とするように。それでもしっかり金は払ってくれた。むしろ他のオッサン達よりも多くくれたんだ。

 俺はそれもあって会おうと決めた。
 サクッと稼いで母さんに渡そう。
 
 そんで母さんに言うんだ。
 もうこれでお終いだと。
 俺は俺の人生を歩くことを決めた。
 それにはもちろん貴哉も入ってる。
 貴哉の為にも、自分の為にももう危ないバイトなんてしたくない。

 だからこれで最後にするつもりだった。


 前と同じ待ち合わせ場所のカフェへは一度帰って着替えてから行った。また学校にバレたらやだしな。

 すると、既に到着していたワタルさんが車から降りて来た。
 相変わらずの高級車。とても大学生が乗ってるとは思えない。


「やあ♪久しぶりだね」

「ども」

「あれれ?何か空の方が元気無い感じ?とりあえず中入ろうか~」


 電話では落ち込んでるとか言ってたけど、見た感じ前に会った時と変わらなくないか?
 ずっとニコニコしてて何考えてるか分からない感じ。

 カフェの中に入って飲み物を頼む。
 俺はアイスコーヒー。ワタルさんはクリームソーダ。ここも前と変わらない。


「本当久しぶりだよね!空元気だった?って元気無さそうだよね。とりあえず空の話から聞こうか♪」

「え、俺は別に大丈夫です」

「そう言わずにさ~。あ、何か食べる?僕ケーキ食べようかな♪」


 そう言ってメニューを見てるワタルさん。
 はぁ、やっぱり来るんじゃ無かったかな。
 何か貴哉に悪い気がしてきた。


「あの、やっぱり俺帰ります」

「え!何で!?予定あった!?」

「いや、もうこういうの辞めようと思ってるんですよ俺」

「……そっかぁ。それならさ、友達になろうよ。そうすれば帰らなくていいだろ?」

「でも……」

「とりあえず僕がケーキ食べ終わるまでは居て欲しいな。一人で食べてたら変な人だと思われちゃうからね」

「分かりました」


 それぐらいならいいかと俺はアイスコーヒーを一口飲んだ。
 それからワタルさんは勝手に話しだした。


「僕も落ち込んでるんだけど、理由はね、ズバリ失恋!」

「失恋?」


 ワタルさんの見た目は悪くない。むしろ身だしなみもしっかりしてるし、車も良いの乗ってるし、モテそうだけど。


「僕ね、好きな人がいるってこないだ会った時話したでしょ?その好きな人にさ、振られたんだ今日」

「そうだったんですか、それは残念でしたね」

「そうなんです!だから慰めてよ空~」

「俺じゃ力不足ですよ」

「そんな事ないよ。空と話してると楽しいし♪何か似てる気がするんだ僕達」

「そうですかね?」

「僕ね、一人が嫌いなんだ。誰かと居ないと落ち着かなくて、だから自分から寄って行くし、来る者も拒まない。空もそうなんじゃないかな?」

「さぁ、どうですかね。一人でも平気ですけど」


 見透かされてる気がして誤魔化してしまった。
 ワタルさんが言う事は間違ってはいなかった。

 俺は貴哉と出会うまではいろんな女と遊んで来た。それは一人になるのが嫌だったからなのかもしれない。
 だって心から好きになったのは貴哉が初めてだから。


「空さ、こう思った事ない?消えて無くなりたいなって」

「え……」

「実際今の俺がそうなんだけど、中学の時からずっと好きだったんだ。そんな人に振られたの結構キツくてさ。最後に空に会っておこうと思って」

「ワタルさん、何言ってるんですか!」

「何てね♪驚いた?命を捨てるような事はしないから安心して」

「…………」

「あれ、怒った?ごめんて。でも消えて無くなりたいとは思うよ。そうだな、誰も知ってる人が居ないような知らない所に。僕ってワガママなんだよ。一人は嫌いな癖に変でしょ」

「ワタルさんがワガママなのは前に話した時に知ってますから。別に変じゃないですよ。俺も同じ事思ってたんで」

「空も?やっぱり僕たちは似ているね♪だから今日会いたくなったのかもしれない」

「似てますかね?俺は似てないと思いますよ。俺はワタルさんみたいに好きな人に振られたらこんなに笑って話せないです」


 もし貴哉に振られたらって考えるだけでも恐ろしい。こんな風にヘラヘラなんてしてられない。


「あれ、空ってばもしかして好きな人出来た?」

「……まぁそれなりに」

「本当にー?それはおめでとう♪もしかして前に話してた子かな?面白い奴がいるって言ってたけど、確か同じ学校の」


 しまった。俺ってばワタルさんがあまりにも自然だったから前会った時にプライベートの話したんだっけ。
 どこまで話したのかは覚えてないけど、軽く話したような気がする。


「空の学校てどこなの?」


 前も聞かれたけど、身バレしたくないから教えなかった。歳も高二ってサバ読んでる。唯一本当の事を教えてるって言ったら名前ぐらいだ。
 正直こういう出会いって嘘が当たり前だと思ってる。ワタルさんの事だって、全部嘘かもしれないって思いながら聞いてたりもするし。


「普通の学校ですよ」

「そんな学校なんていくらでもあるでしょ。教えてくれないならいいけど、確か前言ってた時は男の子だって言ってたね。それは本当?」

「……本当です」

「そっかぁ、僕の好きな人も男だよ。僕は男でも女でもどちらも恋愛対象にする事が出来るんだけど、空もそうなのかな?だとしたら嬉しいな」

「それは分かりません。女とも普通に付き合った事はあるし、今回男の事も好きになれたので」

「なるほどね。いやー、何か会って良かったなと思うよ。空もやっぱりそうだったんだね」

「?」

「僕とは人を通して紹介で会ったけど、僕がどんな人がいいか指定したんだ。僕に近くて似ている人がいいって。そしたら空だったんだ」

「だから俺達似てないですってば」

「僕はそうは思わない!だからきっと良い友達になれると思うよ♪」


 ワタルさんとはこうして会うのは二回目だし、話したのだって一日も経っていないようなほんのひと時だ。
 でもワタルさんは話しやすくて良い人だとは思う。
 警戒心こそは忘れてないけど、また会おうって思える人だった。

 幸い変な事をしようという下心も無いみたいだし、友達ぐらいにならなってもとか思ってしまう。

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