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一章
知らなかった温もり
しおりを挟む壱矢の家は想像していた通りの大きな綺麗な家だった。庭も広くて綺麗に手入れされている。
ここで壱矢は育ったのかぁ。
バスに揺られてここに来るまで、途中で壱矢が黙り込んで何か考えてるみたいだった。
そしてそれは家に着いた今でもそう。
難しそうな顔をしてうーんと唸ってる。
「……うーん」
「ねぇ壱矢、もしかして迷ってるの?」
「えっ!何故分かったのだ!」
「やっぱり……」
そりゃそうだろう。勢いでここまで来ちゃったけど、冷静に考えたら男同士だし、間違っていたとか思ってもおかしくない。
俺は嬉しかったけど、壱矢はそうじゃないかもしれない。
バスで唸る壱矢を見て俺はそう思ってた。
「やっぱりテニスにするべきだったか……」
「は?テニス?」
「実はな、予定では夕飯を食べて夜景を見に行った後、少しテニスをしようと思っていたんだ。ほら、今日から始めると言っただろう?俺のプランでは少しだか含まれていたんだ。けど、こうなってしまっては時間がな……」
「何だぁ、俺とイチャイチャするのが嫌になったのかと思ったじゃんかー」
「それはないぞ!美月とイチャイチャもしたい。だから困っているんだ。プランを立てた以上それに沿って動くべきだったのではとな」
「そんなのいいじゃん、テニスは明日からでもさ!もーせっかくいいムードだったのにぃ」
「わ、悪かったな。ムードを壊してしまって。だがこれが俺なんだ」
「分かってるよ。でもさ、予定通りに行かないのって普通なんじゃないか?人間相手にしてたらさ、ちょっと予定外の事が起きただけ。でもそれは俺だからもう慣れっ子なんじゃないか?嬉しいオプションだと思ってさ~」
「はは、美月だからか。間違えてないな。お前はいつも俺のプランを崩す痒い存在だったな」
「それそれ~♪そうと決まれば急げ!時間ねぇんだろ」
俺が壱矢のほっぺにチュッてキスをすると、照れてながら微笑んだ。
うわぁ、やばぁい!壱矢のそんな顔見たら俺、我慢出来ないよ!
「まったく、美月は可愛いな」
「えっ可愛い?」
「何だ?おかしな事言ったか?」
「だって、壱矢に初めて可愛いって言われたから……」
「なっ!そ、そうだったか?」
「壱矢、早くキスしよ?」
焦ってる壱矢を引っ張って家の方へ向かう。
そう、ここはまだ庭だ。
早く中に入ってキスしなきゃ。
壱矢が家の鍵を開けて中に入って電気を点ける。
中も凄く広かった。
「俺の部屋は三階だ。ついて来い」
「はーい♡」
壱矢について行き階段を登る。
そして三階に辿り着いて一番初めにあった扉の前で立ち止まる。
「本当は飲み物でも出すべきなのだが今日の所は目を瞑ってくれ。ここが俺の部屋だ」
扉を開けて中に入るとそこは、とても壱矢らしいシンプルな部屋だった。
一人用のソファと、テーブル。そしてベッドだけ。本とかたくさんあるのかと思ったけど、無駄の嫌いな壱矢っぽかった。
「うわー、何も無いねー!勉強とかどうしてるの?」
「それは隣の部屋の勉強部屋でやっている。休む時はその隣の部屋だ」
「え?部屋三つもあんの?」
「五つだな。三階全てが俺の部屋みたいなものだ。もう二つは物置に近いが、ちなみにここは睡眠用の部屋だ」
「お坊ちゃんかよ!そんなに部屋がある高校生初めて聞いたよ」
「それよりも、早くイチャイチャしよう美月」
俺の手を取りベッドへ運ばれる。
お、こういう事にも意外と積極的じゃん。
そしてキスをされる。
「んっ」
すぐに離れてまたすぐにキスされた。
触れるだけのキス。
その後も何度もされた。
「壱矢?」
「どうした美月」
「もっとキスしようよ」
「しているではないか」
「違うよ!もっとエッチなキスだよ!」
「エッチなだと?」
一瞬壱矢の顔が強張った?
あれ、まずい事言ったかなぁ?
でも触れるだけのじゃ物足りないよ。
「壱矢はしたくないのかぁ?」
「……すまない。勉強不足だ」
「へ?」
「キスのシチュエーションやタイミングなどは頭の中で予習済みなんだが、エッチなキスと言うのは知らない。期待に応えられなくて悪いな」
「それなら二人で実践して勉強すればいいよ♡」
「何を言う?美月は知っているのか?」
「俺もした事は無いけど、自然に出来るでしょ。大体どういうのかは分かってるし」
「そうなのか?なら任せよう」
おっコレは俺がリードする流れかな?
ならやらせてもらいましょう好きなだけ!
再び壱矢に近付いて俺からキスをする。
今度は舌を使ってみた。すると、唇を閉じたままの壱矢はビクッとして目を見開いた。
「な、何だ今のは!?舐めたのか?」
「うん。嫌だった?」
「と言うか驚いた……」
「もう一回するよー。今度は壱矢も口を開けてね」
「うむ……」
また舌を使ったキスが始まる。
やり方なんて俺も知らないけど、こんなの自然に出来るだろ。と思っていたがなかなか難しい。
壱矢は口を開けてくれるけど、舌を使ってくれないし、俺ばかりが壱矢の口の中を舐めてるみたいな状況だった。
「壱矢、ベロちょーだい」
「え?」
「こうしてみて」
べって舌を出して見せると、壱矢は真似をした。
今だ!そのまま壱矢にキスをして舌を絡ませてみた。
「んんっ」
「…………」
よし、上手くいった。壱矢も慣れたみたいで俺の動きに合わせて動いて来た。
あ、今俺と壱矢がベロチューしてる……
そう考えたら興奮してきて、壱矢をベッドに押し倒していた。
「ん、美月……お前凄いな」
「壱矢こそ」
「何だろうな、胸がドキドキ……これは予習していなかったから分からないが、何かいいぞ」
「今は勉強の事なんか忘れて、自然に俺を感じてよ。したいようにする。思ったままにね」
「まるで美月のようだな」
「俺ぇ?」
「サボったり休んだり引き篭ったり、好きに振る舞うのはお前の特技だろ」
いつも壱矢に怒られていた事を笑顔で言われた。
俺の特技。そんな大層な物じゃないけど、好きにしてるのは間違えてない。
そんな事を言う壱矢が急に愛おしくなってぎゅーって深く抱きしめた。
すると壱矢も俺を抱き締めてくれた。
「壱矢ぁ」
「こうしていると暖かいな」
「うん」
「美月は俺の知らない事をたくさん教えてくれる。初めは悪いことばかりだったが、そんなお前に惹かれていたのかもしれないな。この温もりも美月と出会わなかったら知らないままだった」
「そんなの俺も一緒だ。壱矢じゃなかったら誰かと付き合いたいなんて思わなかった」
「そうか。美月、大好きだ」
「!」
耳元で言われてその言葉に胸がきゅーって苦しくなった。
嬉しい。壱矢に自然に言ってもらえる事が本当に嬉しいんだ。
「俺も壱矢が大好き♡」
それから俺達は、いつの間にかけたのか、壱矢のかけたスマホのアラームが鳴るまで夢中でキスをした。
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