完璧君と怠け者君

pino

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一章

電話

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 眠い目を擦り、必死で授業の内容を頭に叩き込む。

 こんな風に授業を受けるのは初めてで、とても居心地が悪かった。

 あの後俺は上手く眠れずに朝を迎えた。


「どうした白崎?体調悪いのか?」

「いえ、大丈夫です。続けて下さい」

「顔色悪いぞ?無理しないで保健室に……」

「自己管理は出来ています!お気になさらずに!」

「そ、そうか?」


 心配する担任に迷惑をかけまいと言い切る。
 どこが自己管理は出来ているだ。
 見事に寝不足で頭フラフラじゃないか。

 問題の黒田は朝から居なかった。
 遅刻か、休みだろう。そんな黒田に気を止めるクラスメイトは居なかった。黒田のいない一日は当たり前のように、そしていつものように過ぎていた。
 
 黒田はみんなから恐れられているからな。このクラスに黒田と親しい人なんていないだろう。俺もだがな。

 そして授業が終わる少し前に担任がみんなに言った。


「あー、みんなも知ってると思うが来月球技大会が行われる。それでそれぞれ出る種目決めておけー。そうだな、帰りまでにまとめて俺に教えてくれ。種目は野球にサッカー、バスケ、バレー。あとテニスと卓球だ。全部の種目に参加する必要はないが、全員参加は必須だー」


 担任が話し終わるとすぐに授業終了のチャイムが鳴った。

 そうか、球技大会か。
 俺は団体競技でなければいい。ハッキリ言ってうちのクラスでは団体競技は不利だ。
 合同体育の授業でも良く他のクラスに負けるぐらい統率力と戦力が無い。この俺の完璧な筈の計画を何度崩されて来た事か。
 文系が多過ぎるんだよこのクラスは。

 だからテニスか卓球だな。
 よし、あまり経験の無いテニスに参加してみよう。確かダブルスだったからパートナーを見つけなければいけないんだが……
 
 体育の結果から見てもどいつも俺の計画に付いて来れる者はいないと思う。ただ一人を除いて。
 最近授業に参加するようになった黒田だ。
 昨日の体育で意外と運動神経が良い事を知った。
 
 あいつなら上手くやってくれると思うんだが、生憎今日はまだ来ていない。
 うーん、どうにかして今日の帰りまでに誘いたいのだが。
 

「そう言えば」


 昨日連絡先を交換したじゃないか!
 早速電話をして……
 いや、俺が電話を掛けてもいいのか?
 昨日の今日で気まずくないか?
 でもこのままでは適当な奴と組む事になってしまう。

 それだけは避けたい!


「ええい!時間が惜しい!」


 俺は意を決してスマホを取り出し、黒田の連絡先を表示させる。
 が、なかなか掛けられないでいた。
 くそう!この俺がこんなに手こずるとは!


「ヤッホー!何してるのー?」

「ぎゃ!」


 いきなり背後から声がして驚いて変な声が出てしまった。振り向くとそこには黒田がいた。
 いや、黒田であって黒田でないこの男は……


「あ、黒田葉月か?」

「名前覚えててくれたんだー♪嬉しいな」


 ニッコリ笑う黒田の双子の弟、黒田葉月の方だった。


「あのね、ちょっと聞きたい事があるんだけど」

「どうした?話を聞こう」

「美月なんだけど、何かあったのかなって」


 心配そうに首を傾げて黒田の事を訊ねてきた。
 何かあったと言えばあるが、必ずしもそれが原因だとは限らないからな。


「何かって、休んでる事か?同じ家に住んでいるんだろう?」

「それはそうなんだけど、昨日荒れて帰って来たと思ったらまた引き篭っちゃってさぁ」

「は?引き篭った?てかまたって?」

「あれ?知らなかった?美月って中学の時、学校に行かないで引き篭ってたんだよ」

「何だと?あいつそんな事を……」

「そっか~、美月の事を説教するぐらいだから何か知ってるのかと思ったんだけど、他当たってみるよ」

「あ、待ってくれ。頼みがあるんだが」

「頼み?何かな?」

「黒田と話したい事があってな、電話を掛けてくれないか?」


 自分のスマホを差し出して言うと、不思議そうな顔をして見て来た。
 そりゃそうだろう。自分でも他人にこんな事を頼むなんてどうかしていると思う。
 だけど自分では時間が掛かりそうだったんだ。


「えっとー、いいけど……多分出ないと思うよ?こう言う時の美月って何しても反応しないから」

「とりあえず頼む」


 黒田葉月は俺のスマホを受け取り、黒田に電話を掛け始めた。
 もし出てくれなかったら他の手段を考えよう。
 どうにかして黒田に球技大会の件を伝えなくては……


「え!嘘!出た!」

「そうか!それは良かった!ならばそのまま伝えてくれないか?来月開かれる球技大会なんだが……」

「ちょっと待って。もしもし?美月?…うん、俺だよ葉月……何でって美月が心配だから、えっと、美月と同じクラスのイケメンさんに聞いてたとこなの」


 どうやら黒田と話しているらしい。
 そう言えば黒田葉月に名乗って無かったか。電話を切ったら教えよう。


「待って、切らないで?イケメンさんが美月と話したいんだって」

「あ、いや伝えてくれればいいのだが……」


 俺に変わろうとしている様子だった。
 仕方ない。自分の事だ、自分で伝えよう。
 果たして上手く話せるだろうか?
 少し不安だったが、黒田葉月からスマホを受け取った。


「あ、俺だ白崎だが」

『何で葉月と仲良くなってんの?』

「は?それは、この前お前を探している時に間違えて声を掛けてしまった事があったんだ」

『で、俺の何を話してたの?』

「ちょ、黒田?それよりも言いたい事があってだな」


 次の授業まで時間が無いと言うのに何故か黒田に質問攻めに合う俺。
 黒田葉月は心配そうに見ていた。


『はぁ、説教なら聞きたく無いよ』

「説教ではない。球技大会の話だ」

『は?』

「来月球技大会があるんだが、一緒にテニスに出場して欲しいんだ。頼めるか?」

『……それだけ?』

「ああ。もちろん引き篭もりの事は後で話そうと思っていたが……」

『白崎の馬鹿!』

「なっ」

『球技大会だぁ?そんなの出ねーよ!』

「何だと!?人を馬鹿呼ばわりしたな!大体引き篭もりって何だ!人が下手に出てれば調子に乗って!」

「イ、イケメンさん!落ち着いて?」


 ついカッとなっていつものように話してしまった。危ない危ない。
 とにかく球技大会の件は伝えたし、そろそろ切ろう。


「コホンッ!とにかく、一緒に出てもらうからな!だから早く学校へ出て来い」

『…………』


 反応が無かったのでそのまま切った。
 本当にどこまでも中途半端な奴だ。


「あの、美月は?」

「大丈夫だ。少し荒れていたがいつも通りだった」

「そっか。ありがとう」

「こちらこそ礼を言う。あ、俺は白崎だ」

「白崎くんね!じゃあまたね」


 黒田葉月は笑顔で教室から出て行った。
 はて、半ば無理矢理だったが本当に黒田は球技大会に参加するだろうか?

 それに、引き篭もりというのにも引っ掛かる。
 学校に在籍していながら家に引き篭もるとは何と中途半端なんだ!
 
 よし、こうなったら今一度喝を入れてやらねばだな!
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