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一章
歯車が狂った
しおりを挟む壱矢side
塾の後、部屋で復習をしていた。既に日付が変わって居た。
そろそろ切り上げて寝る時間なのだが、なかなか集中出来ずに予定の範囲がクリア出来ずに居てモヤモヤしていた。
この前買った参考書、失敗だったな。
なんて言うか、ややこしい言い方ばかりされていて読み取りずらいし、無駄にページを使っているから先に進むのに時間がかかる。
パタンと閉じて目を瞑る。
もう今日は寝てしまおうか。
完璧で無いと許せない自分がそんな事を考えた事が恐ろしくて再びページを捲る。
くそう、何だってこんな事になったんだ。
きっと中途半端な黒田といるせいだ。
せっかく席が離れたと言うのにこれでは意味が無いじゃないか。
今日だって黒田の奴、あんな顔して……
「ふぅ……」
一度落ち着こうと冷めた紅茶を飲み干す。
今日俺は懐かしい人と再会をした。
栗原翔太郎。小学校の頃の友人で、何かと競い合って居た仲だ。
あの頃の翔太郎の見た目は今とまるで違った。金髪でヤンチャ。今日は大人しそうに感じたが、もっとうるさくて元気いっぱいの奴だった。
そんな見た目とは裏腹に頭が凄く良かった。運動も出来て、人柄から周りからも人気があった。
そして別れの時、お互いに想い合う気持ちを伝え合った。が、翔太郎にとっては忘れたい過去らしいな。
無理もない。あんな子供同士が交わした告白なんて、恥以外の何でもない。
それでも俺は嬉しかったんだ。
ライバルであり友である翔太郎に再び会えた事が。
懐かしいな。俺にもあんな子供時代があったんだな。
とにかく翔太郎は俺も認める出来た男って訳だ。
「好きとかそう言うのはもうどうでもいいのだが……」
そうだ。あの頃の気持ちがそのままなんて数%の確率だろう。またはそれ以下だ。人は時が経てば過去の出来事は忘れていく。ただ忘れるだけで無くなりはしないのだが。
そうして新しい記憶を上書きしていき、時に思い出し懐かしむ物……
そう、今の俺の上書きされた記憶は黒田でいっぱいだった。
今だって日課になっている勉強にさえ集中出来ずに苦しむ事になっているのは黒田のせいだ。
いや、こんな面倒くさい性格の自分のせいか。
「……黒田は俺のどこを?」
ふと黒田とのやり取りを思い出す。
最後に黒田が言い掛けた言葉は大体予想がつく。
今までの言動や行動など、思い起こせば心当たりはたくさんあった。
きっと黒田は俺に好意を寄せている。
まだ憶測で確証はないが。
今まで異性だろうが同性だろうが告白なんて散々されて来たが、全部断って来た。
自分にとってマイナスになると思っていたからだ。やりたい事が出来なくなるのでは、自分の計画に支障がでるのでは、そんな事を考えたら告白を受けるなんて出来なかった。
ただ黒田の時はどうだろう?
俺は黒田の言い掛けた言葉を最後まで聞こうとしていなかったか?
最後まで聞いてどうするつもりだったんだ?
最後まで聞いて憶測が確証に変わった時、俺は俺で居られるのだろうか。
いつもなら冷たく突き放す所だが、もしあの時最後まで言われていたらそんな事出来たか?
きっと出来なかった。
だから頼むよ黒田。何も言わず今まで通りで居てくれ。
もしお前にあの先の言葉を言われたら俺は俺で無くなってしまう……
そうしたら俺は……
「……黒田美月」
ふと今日交換した連絡先を開いて黒田美月の名前を見つめる。
指を通話の所まで持って行って辞める。
何を考えているんだ俺は。
黒田に電話なんかして何を話すというのだ。
冷静になり、スマホを閉じて寝る準備を始める。
勉強は諦めよう。これは中途半端ではない。次のステップへ進む為の行動だ。
そう、中途半端とは黒田のような事を言うのだ。
あんな中途半端代表と俺が一緒な筈がない。
「ハッ!俺はまた黒田の事を考えていた!」
フルフルと頭を振って使ったマグカップをキッチンに運び歯を磨いてベッドに入った。
きちんと眠れるだろうか?
明日、睡眠不足にならなければいいな。
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