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一章
待ち伏せ
しおりを挟む放課後、帰ろうとしている白崎に思い切って声を掛けてみた。
利人がいっぱい声掛けた方がいいって言ってたし、何より俺が白崎ともっと話したい。
「なぁ白崎、話があるんだけど」
「何だ?今日は塾があるんだ。手短に話せ」
普通だった。教科書類を鞄に詰めながら喋る白崎。さて、何を話そう?好きな事を話すといいって言ってたけど、勉強の話でいいのかな?
「勉強、楽しいか?」
「は?まさかそんなくだらない事を聞く為に足止めしたのか?」
ヤバ。怒られるよコレ。白崎が睨んでるから早く話題変えなきゃ。
内心焦ってると、白崎は立ち上がり帰ろうとしていた。
「あ、違う。違うよ白崎、待って」
「じゃあ何だよ!時間が惜しいから歩きながら聞く!」
声が怒ってるなー。
はぁ、いつもこうなる。
もっと楽しく話したいのになぁ。
俺ってほんと人と話すの下手だなぁ。
そんな事を考えながら白崎の後を追う。
白崎はいつも白崎だった。我が道を行くって感じ?周りに流されるとか嫌いみたいだけど、自分が思ってる事を本当に通してしまうから凄いや。
今日の席替えとかみたいにさ。
俺も白崎みたいになれたら……
「おい、お友達が待ってるぞ」
「え?」
考えながら歩いていると、もう玄関まで来て居たみたいで、白崎が言う方を見ると朝の二人組がこちらを見て立っていた。
「じゃあな黒田」
「…………」
白崎はいつも通りだった。朝助けてくれたのはやっぱり授業に支障が出ると思ったからなのか。
俺の為なんかじゃないよね。そうだよね。
またブルーだな俺。
さっさと歩いて行く白崎の後ろ姿をボーッと見てたら、二人組の一人が白崎の前に腕を伸ばして通せんぼしていた。
「おいお前何スルーしようとしてんだ」
「何です?貴方達が待っていたのは黒田でしょう?
手、どけてくれますか?」
「自分は関係無い言いてぇのか?そっちから手ぇ出して来たくせによ」
「あれは正当防衛です。それに正確に言えば貴方からの攻撃を受け流しただけ、結果的に貴方が先に手を出した事になります」
「んな!コイツっ!」
「まぁまぁ、落ち着けってヤマ。とりあえず佐倉くんとこに連れてこう」
「言っておきますが行きませんよ。塾に遅れてしまうので」
「そう言わずにさー、会いたいって言ってるのよ君に」
白崎が絡まれてる。目的は俺じゃないのか?とにかく三人に近付いて話に加わってみた。
「白崎、大丈夫?」
「大丈夫じゃない。五分ロスした。どうしてくれる黒田」
「え?五分?ああ、塾あるんだっけ」
「そうだ!全く本当に黒田は面倒事しか起こさないなっ」
「おい白崎、お前も来るんだよ!」
デカい男は今度は俺の腕を掴んで来た。コイツ力強くて痛いんだよな。反撃したいけど、ここじゃ目立つしな。とにかく白崎を巻き込みたくないから場所を移すか。
「あのさ、元々俺が目的なんだろ?白崎は見逃してくんない?」
「佐倉くんの指名は二人なんだ。頼むから大人しくついて来てよ」
もう一人の男は両手を合わせてお願いと言って来た。冗談じゃない。白崎をこれ以上足止めしたらますます俺が怒られるじゃないか。
「俺一人で行く。白崎、先に行っ……あ!」
「さっさと行くぞ黒田!こんな奴らについて行く必要など無い!」
白崎だけを逃そうと思ったのに、白崎は俺の手を掴んでそのまま走り出した。
靴を履き替える事もしないで、そのまま外に出て二人で走った。
突然の出来事で俺は付いて行く事しか出来なかったけど、しばらく追って来ていた二人は諦めたのか途中で居なくなっていた。
て言うか白崎足速すぎ……俺死ぬかと思ったよ……
「はぁはぁ、白崎……」
「もう大丈夫みたいだな」
息苦しくて地面に座り込んで休んでると、上から白崎のいつも通りの声が聞こえた。
え、何で汗ひとつかいてないのこの人?
結構な距離走りましたよね?
「ふん、この程度でそんな状態になるなんて日頃体育の授業をサボっている証拠だな。俺は行くぞ」
「待って!」
「何だ。これ以上は本当に時間が無いんだ」
「ありがとう!」
「……?」
「あの、一緒に逃げてくれて……白崎なら一人でも逃げられたのに、俺も連れて逃げてくれて、ありがとうっ」
「お前は本当に……」
俺がお礼を言うと白崎はため息を吐いてしゃがんだ。そして俺と同じ目線になった。
また怒られる……
そう思ったけど、頭をポンとされた。
「あんな奴らと付き合うからこんな事になるんだ。好きで関わっているのならいいが、自分が嫌な思いをするのならもう少し改めろ」
「しろ、さき?」
いきなりそんな事をされて、俺の頭は真っ白になった。そしてじわじわと恥ずかしさと嬉しさが込み上げて来た。
「はぁ、お陰で新しい上履きを買わなくてはならなくなったではないか。もう今日は予定変更だ。行くぞ黒田」
「行くって?塾は?」
「塾は休む!塾が始まる時間になら間に合うが、俺は必ず夕飯を食べてから行くタイプなんだ。その夕飯を食べる時間が無くなった。遅刻するぐらいなら休む。行くって言うのはもちろん上履きを買いにだ。お前も必要だろう?」
お互いそのままで来てしまった足元を見ると、上履きは泥で汚れていた。
これぐらいなら払って使えそうだけど、白崎の性格だと許せないみたいだな。
「はは、白崎ってほんと変なやつ!」
「黒田に言われたくない」
「あ、待ってよ白崎ー」
先に歩いて行こうとする白崎を追いかける。
もう白崎に夢中だよ俺。
白崎の事をもっと知りたい。
そして白崎ともっと仲良くなりたい。
俺と白崎は上履きのまま街中を歩いて行った。
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