完璧君と怠け者君

pino

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一章

説教

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 階段を降り切った後、教室へ戻る為、廊下を黒田と歩いていた。相変わらず何を考えているのか分からない男だな。
 すると黒田がのんびりした口調で話しかけて来た。


「で、用って何?」

「お前、さっき調理実習の授業をサボっただろう!お陰でうちの班はグダグダで……」

「なぁ白崎の下の名前教えて」

「…………」

「俺は美月。教えてよ」


 こいつはまともに人と話すら出来ないのか?
 俺の話を聞く気が全く感じられん。
 おっといけない。また怒鳴ってしまう所だった。ひとまずここは落ち着いていこう。


「その前に俺の話からしてもいいか?」

「ん、どうぞ」

「調理実習で……」

「ごめん。やっぱその話後でもいい?」

「お前!おれを馬鹿にしているだろ!」

「してないよ。白崎が頭良いの知ってるし」

「だったら一言ぐらい謝罪しろ!じゃないと俺の気が済まない!そうだ、こうイライラして……ハゲそうだ!」


 黒田のペースにまんまと持っていかれ、上手く言葉に表せず、有りもしない事を言ってしまったではないか。
 俺のハゲ宣言に、黒田は薄く笑って俺の周りをくるくる回りジロジロ見始めた。


「え?いきなり話飛んだな。見た感じハゲてないから大丈夫だよ」

「ええい!鬱陶しい!いいから謝れ!」

「ごめんなさい」

「あっさり謝りおって!お前俺が何に対して怒ってるのか分かってるのか!?」

「調理実習サボったからだろ?もー迷惑かけないから早く下の名前教えてよ」

「態度が反省していない!ふんっ誰が教えてやるものか!」

「意地悪だなぁ。あ、俺との会話引き伸ばそうとしてる?」


 ダメだ。こいつまるで話が通じない。
 黒田と話すと必ず俺は大きな声を出してしまう気がするし。疲れる。

 俺のやり方が悪いのか?黒田は今まで出会った奴らとは違うしきっとそうなのかもしれないな。
 よし、こうなったら違う角度から話してみよう。


「なぁ黒田、そんなに俺の下の名前が知りたいか?」

「うん。知りたい」

「だったら俺の言う事を聞くんだ。俺にとってお前は痒くなる存在なんだ。これから先俺を痒くさせなければ教えてやろう」

「痒い?良く分かんないけど、いつまで?いつまで痒くさせなければ教えてくれるの?」

「この先ずっとだ!」

「それじゃあ出来るまでずっと教えてくれないって事?」

「俺が満足したら教えてやる」

「んー、分かった。やってみる」

「そうか!分かってくれたか!」


 やっと分かってくれた安堵で俺は思わず笑ってしまった。すると黒田もニコッと笑った。こうして見ると弟に本当に良く似ているな。

 これで黒田がまともになってくれれば俺の完璧も崩れる事もないだろう。



 教室に戻り、普通に授業を受けていた。隣に座る黒田も寝たりせずに頬杖を付きながら黒板を見ているようだった。

 いいぞこの調子だ。誰一人怠ける事なく順調に進んでいく数学の授業。久しぶりに気持ちが良く授業が受けられているぞ!


「あ」


 と、ここで黒田が何かに気付いたような声を出してクラスの空気が変わった。
 まずい!まさかまた変な事を言い出す気じゃないだろうな?流れが変わるのを恐れてそっと黒田を見ると、黒板を指差して言った。


「せんせー、そこ間違えてるよー」

「え?あ、黒田くん?えっと、どこかな?」

「今書いたとこだよー」


 何だと?一体どこだ?数学の女教師も黒田の指摘に驚いて黒板に書いた自分の数式を見直している。すると、あ!と気付いて照れたように笑って謝った。


「あら本当!ごめんなさいね。それにしても黒田くん、良く気付いたわね。いつも寝ているのに……先生驚いちゃった」


 確かに黒田が指摘した所は間違えていた。
 黒田に気を取られていて俺が先に気付けなかったとは不覚っ!

 いや、それにしても黒田だって本当は勉強が出来る奴なのか?
 その事実を受け止められずに黒田を見るけど、また頬杖を付いていつもの様子で数学女教師に言った。


「いつも寝てるのは退屈だからだよ」

「あ、あはは」


 うおい!数学女教師!何を笑っている!そこはキツく叱る所だろう!また代わりに俺が説教しなくてはならないじゃないか!

 二人のやり取りに俺の怒りレーダーが反応し、立ち上がって黒田に言ってやった。


「おい黒田!今の答えはないだろう!それと目上の人に対しての口の利き方もちゃんとしろ!」

「あ、そっか。すいませんでしたー」

「棒読みで謝った事になると思っているのか!」

「ま、まぁ白崎くん落ち着いて?黒田くんもやっとやる気になってくれたみたいだし、先生気にして無いわ。もういいから授業進めるわね?」


 くそう!何故みんな黒田に甘いんだ!
 こんなにも不真面目なのに、誰も指摘しないなんて。

 隣に座る黒田をチラッと見ると、こちらを見ていてニコッと笑った。
 あの勝ち誇った顔!
 何かムカつく!
 何でこの俺がこんな敗北感を味わなければいけないんだ!

 黒田が真面目にやり出しても痒い事に変わりはない現状に俺は静かに耐えるしかなかった。

 そしてその後の黒田はと言うと、机に伏せて寝る事はなく大人しく授業を受けていた。
 
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