完璧君と怠け者君

pino

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一章

双子の兄弟

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 俺の昼休みは食堂のテラス席って決まっている。今日も栄養バランス抜群の健康Aランチを頂いた後、紅茶を飲みながら食後の読書をしていた。

 それにしても黒田だ。俺の完璧を尽く崩して行くあの男。結局あれから教室に戻って来る事はなく、さっきの調理実習の授業だって、俺達のグループだけ一人足りなくなり俺が立てた完璧な役割分担が崩れ見事に失敗に終わった。絶対に許さない!

 俺は本を閉じて黒田を探し出して今一度説教してやろうと決心した。


「残りの昼休みの時間を考えたら無駄は許されん。黒田の行きそうな所と言えば……あそこだ!」


 ピンと閃いて俺は最短距離でそこへ向かった。
 黒田は俺からしたら不良だ。不良が行きそうな場所と言えば屋上!あそこは立ち入り禁止になっているからな。ああいう輩は尚更行きたがる事だろう。

 完璧な推理力に歩みを進めて行くと、途中の廊下で見覚えのある人物とすれ違った。なんと探していた黒田だった。


「おい黒田!お前がサボったせいで調理実習で失敗してしまったんだぞ!いい加減周りに迷惑をかけるのは……って、あれ?」

「調理実習?」


 目を合わせて話すと感じる不思議な違和感。
 何だか目の前にいる黒田が黒田じゃないような感じがするんだが……?


「あ、もしかして美月と勘違いしてる?俺葉月の方だから」


 黒田はニコッと笑って言った。俺の知っている黒田じゃない!黒田はこんな風に愛想良く笑ったりしないんだ!


「は?え?どう言う……え?」

「美月は俺のお兄ちゃん。俺は弟の葉月。双子なんだよ俺達」

「そ、そうだったのか!それはすまない事をした」

「いいえ。良く間違えられるから」


 そうか、黒田には双子の弟がいたのか。うん、俺の知る黒田と違って葉月の方はまともそうだな。


「さっき怒ってたみたいだけど、美月が何かしたぁ?ごめんね?俺からも言っておくよ」

「いや、人を通して話すのは好きではない。直々に説教するつもりだから気にしないでくれ」

「説教……そっか。分かった」


 一瞬キョトンとした顔をして、それから再び笑っていた。

 こうしてはいられない。俺のミスで昼休み中に黒田に説教が出来なくなってしまう。


「では急ぐので失礼する」

「はーい♪またねー」


 またがあるのかは分からないが、俺の知る黒田も弟みたくハキハキしていればいいのに。
 それにしても似ているな。一卵性か?

 俺は歩きながら考えて、屋上を目指した。

 屋上までこの階段を登るだけ。時間はまだある。一気に駆け上がろうとした時、俺はこの世で許せないもの第二位に遭遇してしまった。

 それはカツアゲだ。

 小学校低学年の時に、高学年のガキ大将にカツアゲをされた事があった。その時は小銭を奪われてただ泣いて帰ったが、その日からカツアゲが許せなくて空手を習い、今ではカツアゲの現場を見掛けたら誰だろうと懲らしめる事にしていた。

 今目の前でも一人に数人が寄って集っていた。

 
「コラー!学校でカツアゲなんて卑怯な真似許さんぞー!」

「……は?」


 俺の大声にその場にいた数人がこちらを一斉に見る。俺は構わず間に入って行き、カツアゲされている男の壁になろうと手を伸ばした時、そいつと目が合った。


「あー!黒田!見つけたぞ!」

「や、やあ白崎」


 なんとカツアゲされていたのは黒田だった。
 黒田は苦笑いを浮かべていた。
 まさか不良の黒田がカツアゲをされるとはな。これも日頃の行いだな。
 まぁ被害者が黒田だろうと、カツアゲは許さん!俺は加害者達に向き直り、まずは話し合って、それでも聞かないようなら懲らしめてやる事にした。


「おいお前達、こんな事をしていないで次の授業でもしたらどうだ?」

「はぁ?何コイツ?」

「ちょ、何かおもしれーんだけど」

「そうやって人で遊んでいると今に痛い目見るぞ。今なら告げ口はしないでやる。大人しく引くんだ」

「てか誰よコレ?」

「なぁみーくん、この人知り合い?」

「ああ、同じクラスなんだ」

「お前ら!話を逸らすんじゃない!」

「あのさ、さっきカツアゲとか言ってたけど、俺らがみーくんにそんな事する訳ねぇだろ?」

「みーくんだと?」

「だって俺達友達だもんねー♡」


 男達の一人が黒田にベッタリくっついて言った。友達?いやでも確かにカツアゲをして……


「あー、白崎の勘違い。こいつらマジで友達」

「何だと!?でも囲まれてたじゃないか!」

「囲んだだけでカツアゲになっちゃうのかよ?頭イカれてんなアンタ」

「ヤバい!この人ツボ!」


 ずっと俺を睨んでいる金髪の男と、ケラケラ笑っている髪がやたらストレートな男と、まだ一言も発していない無口な男達。そして黒田。

 そうか、俺の勘違いだったのか。


「あーおもしろ。なぁみーくん、この人紹介してよ。気に入った」


 ケラケラ笑っていた男が俺に近付いて肩をポンとして来た。すると、黒田がその手をパッと弾いて俺の腕を引っ張った。


「クラスメイトの白崎だよ。俺に用があるみたいだから行くわ。白崎行こう」

「あ、ああそうだ俺はお前に説教を……」

「じゃあなみんな。また連絡する」


 俺の話を聞く気があるのか無いのか、黒田は俺の手を引いたまま階段を降りて行った。

 
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