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「出会い頭で劇場版PSYCHO-PASSのオチから話し始めるなよ」

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「おぼっちゃま、旦那様。あちらの席でお待ちくださいませ」
 そうして執事喫茶にまんまとやってきたボクら二人はイケメンたちに連行され、コートを脱ぎ、あれよあれよという間に西洋風の(おそらく高いのであろう)雰囲気のしっかりした座席に通される。
「……ふふ、旦那様だって」
 一方の朝陽あさひは、なんだか既に嬉しそうな顔をしている。
 まぁ、既に現実とは別世界のようで受かれる気持ちはわからなくもない。
 一応他のお客さんもいるのだが、そこへ向かって何人もの執事さんたちが縦横無尽にフロアを動き回る様子は、思わず自分たちが舞台の上に立たされたようにすら思える。
 ……なんて、ボクがアホ面で執事さんたちを眺めていると一人の執事がこちらへ綺麗な所作で歩み寄ってくる。
「お久しぶりです、おぼっちゃま、旦那様。本日お相手させていただきます、和田わだと申します」
「わぁっ、可愛いですねぇ……!」
 ”久しぶり”というのは、この店のコンセプトによる挨拶だ。
 この店は「元から住んでいた館にボクらが久しぶりに帰宅する」という設定で、全員がそのロールプレイで動くのだという。
 実際に来てみるまで何を言っているんだコイツはという感じだったが、確かにこの設定は凄い。没入感を高めるには絶妙にちょうどいいのだ。
 そうしてボクらのテーブルにやってきたのは、執事たちの中では背が低く童顔で、声も高めの青年であった。
 年齢は顔もあってか推測できないが、朝陽の反応の通り所謂”可愛い”と言われるタイプの男性だ。
 しかし、童顔か…………中学生の頃なんかはこういう顔つきのクラスメイトがいたような気がするが、もうよく覚えてはいない。
 ボクの人間としての中身は中学生の頃からおおよそ変わっていないのに、年齢だけは中学生の2倍くらいになってしまった。
 みんなはどうやって中学生の頃の自分から脱却しているんだろう。
 インターネットじゃあ、「中学生の頃にハマっていた作品は一生好き」みたいな言説が人気だけど、言われてみれば確かにボクもそのきらいはあるなと思ってしまう。PSYCHO-PASSサイコパスとか未だに好きだし。
 ……そういえば朝陽は中学生の頃、何にハマっていたんだろう。
 中学時代は自分を守ることに必死で、周囲の誰が何を好きなんだとか、そもそも何が流行っているんだろうとか、そういうことを全然把握できていなかった気がする。
 いや、よく考えたら今もそんなに周囲や流行を把握できてるわけじゃなかった。
 うん、やっぱ中学の時とそんな変わらねえや!
「────以上が、当館のルールとなります。メニューはこちらになりますので、どうぞごゆっくりおくつろぎくださいませ」
 ……などと、ボクが特に生産性のない思考に耽っている間に執事くんがお店のルールらしきものを解説してくれていた。
「ありがとうございます!」
「あー、ありがとうございます」
 朝陽に釣られる形でボクも一応礼を述べておく。やる気のない声が朝陽の快活さにかき消された気もするが、どうせならその方が相手の印象は良いだろう。

 ……が、その期待はあらぬ方向で裏切られることとなった。
「えっ、嘘……! もしかして、椿くん……?」
「はい?」
 気が付くとその和田という執事に手を取られ、顔を覗き込まれていた。
「うん、うん、やっぱりそうだ、椿つばきくんだ! 僕ですよ、僕。中学の時、仲良くしてた仁科にしなですよ!」
 ────仁科。
 先ほどから繋がりかけていた記憶のシナプスが繋がり、バチッと音を立てる。
 ……そうだ、さっき思い出しかけた中学時代のクラスメイト。
 学校の中でも飛びぬけて可愛いと評判だった、童顔の男子。
「思い出した、焼肉屋の仁科だ」
「えっ、中二の時のクラスにいた、あの賑やかな子?」
 朝陽は朝陽で、中二の時は同じクラスじゃなかったのによく覚えてるもんだな。
 そう、ボクは中学二年生当時、仁科とは同じクラスで何度か地元の遊びに誘ってもらっていた。
 仁科の家は当時焼肉屋を経営しており、実は地元ではかなりの有名店だったのだ。
 コイツの家がそれなりに金持ちだったこともあり、家に呼ばれて当時流行っていたものをボクに色々教えてくれたんだった。
「見ました? 劇場版PSYCHO-PASS! 凄かったですよねぇ、あのラスト!」
「出会い頭で劇場版PSYCHO-PASSのオチから話し始めるなよ」
 まぁあの劇場版はボクも観たからいいんだけど、マジで久しぶりに帰宅したみたいな会話になってしまったな。
 そういうわけで、仁科はとにかく口が軽い。
 ボクが「人の口に戸は立てられぬ」という言葉を学んだのは、まさにコイツと過ごした中学時代の最中だった。
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