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「ソアリン乗ってる時におしっこ漏らしたらどうなっちゃうんだろうな」

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 メメメに白い目で見られながら帰路に就く。
 今日は隣の部屋の相楽さがらさんには会わなかった。
 ボクとしては別に会いたいわけではないのだが、ここ最近は朝陽あさひも顔を合わせていないんだとか。
 ……まぁ、一応この間お菓子をくれたわけだし、今度デートに行ったら帰りにお土産でも買っていこうか。
 そんなことを考えながら、アパートの部屋に3人で戻ってきたのだが。


「えっ、メメメくんは来ないの!?」
「逆になんでオレがついていくと思ったんだよ。お前らだけで行けばいいだろ」
 部屋に戻るなり早々、メメメが嫌そうな顔をしていた。
 話の内容は実にくだらない、なんともない話で……要は10分前にしていたデートについて、メメメが一緒に来るかどうかという話である。
「えっ、でも子供一人で家に留守番っていうのは……寂しくない?」
「子ども扱いすんな!」
 ……まぁ、仮にボクがメメメの立場だったとして、自分の未来の祖父になる男のデートシーンとか見たくないもんな。
「あれ?そういやお前あれ以来『お前たちの未来が~~』的なこと言わなくなったよな。もう飽きた?」
「いや未来の監視に飽きるとかねーから」
 代わりにボクに対して呆れた目線を寄こしてくるメメメ。
 これ見よがしにため息をつき、「……まぁ、これはオレもこっちに来て驚いたことではあるんだけど」という前置きをしたうえで、この間見せてくれた腕からホログラムモニターを出すやつを展開した。
「見てみな。この中央のラインの先にあるのがオレのいた未来で、それ以外の脇に伸びてるラインが他の未来……まぁ、別ルートみたいなもんだな」
 ホログラムモニターに映るグラフのようなものを見る。どういう意味なのかさっぱりだ。
 それより、何回見てもディズニーのアトラクションみたいで凄いな。
「あー、ソアリン乗ってる時におしっこ漏らしたらどうなっちゃうんだろうな」
椿つばき、それは本当にやめて」
 ヤバい、クソほど適当に考えてたことが口から漏れてた。
 朝陽、結構本気で嫌な時の顔してる。こりゃディズニーシーはナシだな。
「お前らオレの話聞いてないだろ」
 メメメにも怒られた。ごめんって。
「……ハァ。ともあれ、今この未来図が示してるのは、少なくともお前らがケンカ別れして未来が潰える可能性は低いってことだ。だからオレも今は消費抑えめでいいってわけ」
「そう、なんだ……」
 朝陽がゆっくりと頷く。ケンカ別れの可能性が低いとわかったせいか、その声色には安心の意が込められているように思えた。
 メメメの口にした「少なくとも」という表現は若干気にかかるが。
「だからまぁ、デートでもなんでも行って来ればいいんじゃね?」
 ホログラムモニターをそっけなく仕舞い、メメメはアクビする。
「……だって。どうするんだ、朝陽?」
「じゃ、じゃあしょうがないから……ふ、二人きりで、行こう」
「なんでそんな緊張してるんだよ。メメメがいない時はずっと二人だっただろ」
「だ、だって、久しぶりだと思うと緊張するというか……」
 朝陽は恥ずかしいのか、両手の人差し指を合わせてつんつんしている。
 いや乙女か。性自認は男だろお前。
 ともあれ、そういう流れで二人きりのデートが決まる。
 仕方がないので、適度に朝陽が緊張しない場所でも探すとしよう。


 それから数時間後。
 時間は0時を過ぎており、ボクが風呂から出るとメメメは既にいつもの押し入れで寝ていた。
 最初に家具の中から現れたヤツが、いつの間にか押し入れで寝るドラえもんスタイルである。
 別に意識したわけではないが、他に参考にするものもないので偉大な先人に倣う形となった。
 先ほどの話。
 一人で留守番、という概念は、実のところボクにはよくわからない。
 ずっと施設にいたし、施設には基本的にずっと大人がいた。
 当たり前といえば当たり前の話だが、施設では一人で留守番になることはなかった。
 世間一般では、それは寂しいことなのだという。
 ……ボクがメメメの立場だったら、寂しいんだろうか。
 そんなことを思って、1分ほど「う~~ん」と唸ってみる。
 うん、ダメだ。全くわからん。
 メメメの気持ちは同じ境遇を持つメメメにしかわからないのだから、考えすぎもよくないのだろう。

 ……しかし、だ。
 ボクが寂しいと思ったことがないわけではない。それとこれとは全く別の話だ。
 昔から、ボクは信頼できる人が近くにいないことを「寂しい」と思っていた。
 ”信頼できる人”と、”信頼できない人”。
 他の人がどう考えているかはともかく、ボクの世界にはそのどちらかしかいない。
 そして、”信頼できる人”というのは……多分、本当の意味で言うのであれば片手で足りる程度しかいないだろう。
 ”信頼できる人”抜きでそれ以外の人と接する時、一緒にいる時。
 それはボクにとって「寂しい」と言う他ない状況だったのだと思う。
 翻って、メメメが寝ている押し入れを見やる。
 だったら。それならば。あるいは。

 メメメは、家族も友人もいないこの世界で、寂しいとか思わないんだろうか。
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