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「刀剣男子は宝くじ買いに過去へは飛ばないだろ」

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 突然だが、ボクはどうにも愛情というものが欠けているらしい。

 小さい頃から、他人を「好き」だと思うことはあまりなかった。
 好意的に見る、好感を持つということは無論ある。
 だがそれはニュアンスで言えばloveではなく、like。
 しかし、それを苦だと感じたことはない。
 ボクは元より、誰かを愛したいと思ったことはないのだから。

 × × ×

「……じゃあ、メメメくんが未来から来たけど帰り道はなくて、お爺ちゃんである俺のところに助けを求めて来てくれたってわけ?」
「た、助けを求めに来たわけじゃないし。むしろオレは朝陽あさひ椿つばきを助けてあげたっていうか?」
「うんうん、助かった助かった………………で、結果的に今は帰る場所がないんだよね?」
「……うん」
 あれから一旦家に戻った後、追い詰められたメメメは静かに頷いた。
 諦めて正直になるがいい。
 朝陽は正直者には優しいが、ウソをつく者には手厳しい。
 顔が普段からカッコいい上に背も高い(確か190cm近くあった気がする)分、演技でも素でも凄むとかなり怖いのである。
 もっとも、本人はそれを言うと「俺ってやっぱ怖がられることの方が多いよな……」とかなり落ち込むのであまり言わないようにしているが。
「……どうしようかな。警察に連れて行こうにも嫌だって言うし……未来に帰れるならそっちの方がいいよね?」
「……えっ、もしかしてボクに聞いてるのか?」
 面倒だな、という心情が顔に出てはいないだろうか。
 メメメと違ってボクは正直者だからな。思ったことがすぐ顔に出てしまう。
「もちろん! だってメメメくんを拾ってきたのは椿なわけだし」
「いや拾ってきたわけじゃないって! クローゼットの中から出てきたんだよ! のび太の机の引き出しがタイムマシンに繋がってるのと同じで!」
「おー、いい例えじゃん。そうそう、オレってドラえもんなんだよな~」
 ならもっと役に立て。
 ドラえもんが野比家で自然に暮らせているのはその持ち前の人格と有能さあっての事例なんだぞ。
「……お前、未来から来たなら何か現代で役立ちそうな技術とか知識とか持ってないのか。こう……宝くじの当選番号を控えてるとか、刀剣男子が一緒にやって来るとか」
「いや、刀剣男子は宝くじ買いに過去へは飛ばないだろ」
 そうは言ってねぇよ。
「こ、これはあくまでわかりやすさを優先してだな…………」
「わかりやすさって…………ダサい言い訳だな! 第一、オレのいた未来の道具なんてこの時代じゃほとんど動かないんだよ。それこそ体に埋め込ん────」
「はいはい、二人ともそこまで!」
 争い好まずといった顔でボクとメメメの間に割り込む朝陽。優しさの権化だ。
 もしもコイツが女だったら世の男たちから引く手あまただったのではないだろうか。
「ひとまず今日はメメメくんと一緒にご飯食べて、泊まってもらおう」
「いいの!? よっしゃ~~~!!!」
「い、いいのか? こんなガキ泊まらせて……」
「いいかどうかはわからないけど……俺たちだってお腹空いてたらいい判断もできないでしょ? だから、まずはちゃんとご飯食べて、それからお風呂入って、ゆっくり考えようよ」
 ……朝陽の笑顔が眩しい。
 そういえば、ボクは朝陽のこういう慈悲深さ……もとい、優しさに惹かれたんだった。
 朝陽の指示で夕飯の再準備を行いながら、ふとそんなことを思った。

 × × ×

 その日の夜。
 メメメを別室で寝かせた後、ボクらもいつも通り寝室で隣合って布団を敷いていた。
「……ねぇ、椿はメメメくんのこと、どう思う?」
「どうって……クソガキだなと思うよ。未来から来たかどうかに関わらず」
「……じゃあ、メメメくんは元の居場所に帰すべき?」
 ────元の居場所。
 そう問われると、ボクは少しだけ考え込んでしまうものがある。

 ボクには、物心ついた時から親がいなかった。
 厳密に言えば、母親がいた記憶はあるがいつの間にかいなくなっていた。
 高校までの時間を施設で年齢の違う子供たちと過ごし、専門学校に進学すると同時に朝陽との同居生活を開始した。
 施設には、様々な事情を抱えた子たちがいた。
 親が死んでしまった子、親と連絡のつかなくなった子、親から逃げてきた子。
 様々な境遇の人間がいて、皆どこか問題を抱えていた。
 だが、不思議とボクらの間には協力関係ができあがっていた。
 似たような境遇の相手だからか、それともこんな底辺の場所では協力し合う他ないと本能が知っていたのか。
 今思えば、どちらも真であったように感じる。
 施設しか居場所のない人間にとって、そこが居心地の悪いものであってほしくないと思うのは当然のことだろう。
 …………メメメは家族と喧嘩してきたんだっけか。
 家族と喧嘩するというのがどれほど特別なことなのか、ボクにはわからない。
 けれど、タイムマシンが壊れてでもボクらの家にやってきたということは……アイツにとって大事な居場所が失われてしまったということなのではないだろうか。
 そう思うと、ボクはどこかやるせない気持ちになる。

「……まぁ、元の居場所が今はないんだとしたら……アイツをここに居させておくのも、その……悪くはないんじゃないか」
「うん。やっぱり椿は優しいね」
 数秒遅れた後、恥ずかしくなって寝返りをうつ。
 ボクは全然優しくなんかないのにな。
 ……ただ、居場所がないヤツがいるのはなんとなく悲しいことだと思うから。

 その日、寝付けるまでいつもの3倍は時間がかかった。
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