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「俺と飯食ってる時にFGOの周回しないでよ」(2)

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「オレ、100年後の未来から来たんだよね。アンタたちを助けにさ」

 メメメはそう言うと「よいしょ」と言いながら服まみれのクローゼットから抜け出してくる。
 中学生くらいの背丈や雰囲気に見えるが、手足は細く今にも折れそうな気配がある。
 一番目を引くその年齢に似合わない艶やかな紫の長髪は、確かに奇抜さで言えば未来っぽさがなくもない。
 だが。
「言っておくがボクは今忙しいんだ。同居人を探しに行かなきゃいけない」
 ガキの悪戯に付き合っている暇はない。
 未来から来たとか、コスプレにハマってるとか、今そういう自己紹介はどうでもいいんだ。
 こうしている間にも外で朝陽が凍えているかもしれないのに。
 ……いや、凍えているとしたらそれは間違いなくボクに原因があるわけなんだけど。
朝陽あさひを探しに行くの? じゃあオレも行くよ」
「オレも行くよじゃないし、そもそもこの家に居ていいとは言ってない」
「は~い」
 ふにゃふにゃした返事で玄関へ走って行くメメメを見ながら、少しだけ尋ねてみる。
「……朝陽の名前を知ってるってことは、アイツの劇団員か何かか?」
 ボクの知り合いにこんなガキがいないのはコミュニケーション能力の欠如を考えれば当然として、開口一番に朝陽の名前を出したということは当然アイツの知り合いであることが予想される。
 そんなボクの質問には答えず、メメメは振り返って言った。
椿つばきさ、朝陽に会いに行って何するつもりなの?」
「……は?」
 何って、決まってる。会いに行って……コートを渡して、それで……
「会いに行けば許してもらえるだろう、とか思ってるんだったらちょっと笑っちゃうけどな」
「……!」
 ────このガキ。
「オレさ、未来から来たから知ってんだよ。椿と朝陽の仲が最悪になってんの」
「お、お前にボクと朝陽の何がわかるっていうんだ!」
「わかるぜ? お前たち二人が永遠に会わなくなる未来だってオレは見てきたもんね」
「な…………」
「へへっ、オレの話を聞きたくなったかよ?」
 ニヤニヤと嫌な笑みを浮かべてこちらをじっと見ているこのガキの話に、ボクは不思議と足を前に出せなくなっていた。
 いや負けるな。ボクは今年でもう27歳だぞ。
 こんなガキとは2倍ほどの年齢差があるはずなんだ。負けてはいけない。
「……お前の話を信じたわけじゃない。ただ、ボクが朝陽に謝らなきゃいけないだけだ」
「謝るって、何をさ?」
「何って……そりゃ、飯の時にFGOやってたこととか……」
「ふぅん……それだけか?」
「う、うるさいな! お前に言わなきゃいけないことじゃないだろ!」
 普通にガキに負けた。
 ボク、口喧嘩に弱すぎるだろ。
 メメメを置いて玄関口に向かう。いいから早く朝陽を追いかけないと。
「あーあ、オレを連れて行けばきっと朝陽と仲直りできる機会を作れるのになぁ」
 靴を履いている最中、ボクの背後からメメメが囁いてくる。ウザッ。
 仕方がないので適当に話を振ってみる。
「じゃあボクの質問に答えてみせろ。100年後のピカチュウはどうなってる?」
「ピカチュウ? 別に昔も今もピカチュウは変わってないけど」
「えっ、100年後もピカチュウって有名なのか………………じゃなくて、なんかこう、今と比べて太ったり痩せたりしてないかってこと!」
「ああ、太ったピカチュウは20年くらい前に進化先に追加されたけど」
「太るための進化先が追加されんの!?」
「ああ、そんでそのためのアイテムが……いや、これ未来のネタバレか?」
「ネタバレって意味ではもうその配慮は遅いだろ」
「言っていいか? 伝説のポケモンがピカチュウを狙ってて……」
「いや待て待てそれ以上はいい! なんか聞いたら損した気分になりそうだから!」
 言っておくがボクは朝陽以上にポケモンが好きだ。
 最新作までずっとプレイしてるし、DLCもやってる。
 こんなネタバレかどうかもわからない記憶を頭の片隅に持ち続けるくらいだったら、いっそ聞かなければよかった……
「ほら、落ち込んでる場合じゃないっつーの。行くぞっ」
 どこにそんな力があるのかわからないが、メメメはボクの手を引っ張り上げて立たせる。
 あれ? なんか立場が逆転してないか?
 疑問がいくつか頭をよぎる中、廊下を覗き穴でチェックする。
「いや、待てガキ!」
「あ?」
「隣の部屋の相楽さがらさんだ。今鉢合わせるのはマズい!」
「なんでだよ? まさか隣の部屋とも喧嘩してんのか?」
「そんなわけがあるか、逆だ! 僕は昨日もあの人と会ってるんだ」
「……それの何がいけないんだよ?」
「バカ! ボクみたいな引きこもりクソ眼鏡が二日も連続で隣の部屋の人に会ってみろ、『もしかしてコイツ、おじさんに会うためにわざと合わせて出てきてるのかな?』って疑われちゃうかもしれないだろ!」
「…………………………」
 なんだその沈黙は。
「言っておくがいくらボクだってわかるぞ、その目はボクをバカにしてる目だな」
「バカにしてるっていうか、憐れんでるっていうか……人って外に出ないとこうなっちゃうんだなって」
「僕のこの性格は引きこもりになる前からこうなんだ!」
「なんでもいいけど、早く行くんだろ。ほら」
「あっ、バカ!」
 ガチャリ、となんでもないようにドアを開けるメメメ。
 仕方がないので「もうどうなっても知らん、なんでもいいから朝陽に会いたい」と覚悟を決めるボク。
 ドアを開けた先には、隣の部屋の相楽さんこと、いつも何をしているのかよくわからないおじさん。
「あれ、椿ちゃんに……おや、知らない子供まで。いつの間に?」
 ああ、ボクが悪かったから早く帰ってきてくれ、朝陽…………
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