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第2話 魔剣の願い

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  自己紹介を済ませ、玄関先で立ち話も無いので、夏希は氷華を部屋へ招き入れることにした。

 「とにかくここじゃなんだから中で……」

(!?)

 「えっ……いや、私はここでかまいません」

  立ち話のほうがよいのだろうか、中へは入りたがりそうにない氷華。

 「だがここじゃあ誰に聞かれてるともわからない。安心してくれ、こう見えてキレイ好きで部屋の中はバッチリキレイだ」

「そっ……そう言う事ではなくて……その…男性の部屋に入ると言うのは……その……」

  夏希の目の前にはさっきまでとの凛とした姿の氷華はなく、何故か顔を少し赤らめ両手を擦り合わせるようにもじもじとしている彼女が居た。

 「はぁ……よくそんなんで一人でここへ来れたな……。それと俺はあんたの話を聞きたいだけだ、絶対に何にもしないし思わない」

「……そこまで言わなくても……」

「何か言ったか?」

「いいえ言ってません!失礼します」


  途端に態度を切り替えると、夏希を押し退けるようにして氷華は部屋の中へと入って行った。

 「俺は何かまずい事でも言ったのか……?女ってのはよくわからないな……」

  少々腑に落ちない表情で夏希は玄関の扉を閉めた。

  ぐいぐい奥へ進む氷華、夏希の言った通りゴミなどは一切無く、廊下や部屋はきちんと整理整頓が行き届いていた。


 「男の人でもこういった方がいらっしゃるのですね……。下手したら私の部屋よりキレイかも……」

  ベッドのある寝室とは別に、巨大なテレビとテーブルが置いてあるリビングへ夏希は氷華を案内した。

  氷華の思った以上に部屋は大きく、ここがマンションの一室だとは思わせないくらいの広さだった。

 「コーヒーはミルクと砂糖が必要か?」

「えっ……あの、お願いします……」


  部屋へ入るなり、夏希はすぐにキッチンでコーヒーを用意していた。

  部屋には香ばしいコーヒーの香りが溢れる。

「それであんたはいったい俺に何の用があって来たんだ?」

「このコーヒーおいし~……はっ、そうでした……。新ためまして、私は睡蓮寺 氷華、現在ゴッドスレイブの世界ランカーでもあり、ゴッドスレイブの開発及び研究員としても働いています」

 「その研究員さんが俺のレーヴァテインを持って何を話してくれるんだ」


  氷華はコーヒーの入ったカップを机に置くと真剣に話し始める。

 「ゴッドスレイブとは現実に存在している別の世界、言うなれば異世界へアクセスし、そこで行われている一種の競技大会だという事はご存知ですよね」

 「ああ、今から約20年くらい前に開発された装置で行き来が可能になって、向こうの原住民が俺達とあんまり変わらない技術をもってて仲良くなってみたいなやつだよな」

「そうです、ただ違いがあるとすれば神器と言われる存在があった事、それに関わる様々な文化やゴッドスレイブのような競技、そして……脅威があった事……」

 脅威、大きな力は人々を助け成長させるものとなり、大きすぎる力はやがて人々や様々な物を脅かす存在となりうる。

  それはある意味夏希も理解していた。ゴッドスレイブで使われている神器はかならずしも競技だけで使われる物ではない。

  ある時では人々の生活に欠かせなく利用され、またある時では重大な犯罪へと利用される事がある。

 「神器にはまだまだ謎な部分が多く、エターニアの人々と共に日夜解析や解明が今も続いています。そんな中、ある犯罪組織を壊滅させた事によって2つの神器が我々の元へ届きました」

  氷華は今一度スーツケースからレーヴァテインの核を取り出した。


 「その1つが魔剣レーヴァテインなのです」

  いくつかの犯罪組織が存在していた事は夏希が世界ランカーだった頃から知っていた。

  だがそれとこれといったい何の関係があるのか……。

「つまりお前はレーヴァテインの元所有者の俺が犯罪組織と繋がっていたんじゃないかと捜査しに来たって事か!」

 「それは違います!ここへ来たのは……」

 「違わない!俺はゴッドスレイブから足を洗った女々しい負け犬だ!……だが犯罪組織なんかに手を染めてなんかない!俺は逃げたんだ……全てを失ってここへ隠れるように……」

  第3回ゴッドスレイブ決勝で突如現れた挑戦者に敗れ、地位も名誉も神器も全て失い、失意のどん底をさ迷っていた夏希。

  自ら築き上げたゴッドスレイブの世界ランカーを返上し、現実世界へ隠れ住むようになった。

「落ち着いて下さい夏希さん!私がここへ来たのは彼女がここへ行きたいと願ったからです」


 「……彼女……?」

 突如としてテーブルの上に置かれたレーヴァテインの核が赤く輝きだした。

 「そう彼女、レーヴァテインがここへ行きたいと願ったのです」

 「……どうしてレーヴァテインが……」

 「それは……」



 ==ゴッドスレイブ総合研究所==


 ……今から一週間ほど前……。


「氷華君、届いた2つの神器の核の調子はどうだね」

  白衣に身を包んだ黒渕の眼鏡が似合う男性は氷華を呼び止めた。

 「高良博士!はい、検査は順調です。レーヴァテインのほうは少々損傷が見られましたが、今は彼女と簡易的な意志疎通出来るまで回復致しました」

「そうか、もう1つのほうは最終調整までいってるようだから私が見るよ」

「はい、わかりました」
 
  巨大な装置と特殊な液に浸されたレーヴァテインの核は、答えるように輝きを放つ。

 「これは……彼女が何か伝えたがっているようです」

「よし疑似台座に繋いで彼女の言葉を聞いてみよう!氷華君用意してくれ」

 「わかりました用意します」

  すぐさま擬似的に作られた指輪の台座にレーヴァテインの核がはめられた。

 「……彼……に……会いた……い……彼に……」

  途切れ途切れだがその言葉はしっかりと氷華には伝わった。

 「彼?……彼とはいったい誰なの」

「台座の出力を上げて同調を強めてみよう」

  高良博士はすぐさま電子パネルを操作し、出力を上げる。

 「彼に会いたい……夏希に会いたい……」

 「夏希って?あなたの所有者の名前なの?答えてレーヴァテイン」

 「夏希は私のマスター……私は夏希の剣……きっと夏希は苦しんでる……だから力になりたい……支えになってあげたい……」

 「どうやらレーヴァテインの元所有者の事らしいね。夏希と言うのはもしかして姿を消した紅野 夏希、元世界ランカーの事を言っているのか……?」

 「あの元世界大会優勝者の紅野 夏希ですか!」

「うむ、彼はレーヴァテインを所有していたとも聞くし間違いないだろう。しかし今何処にいるのかは私にもわからないがね……」

  レーヴァテインの願いは聞いてやりたい、だが消息不明の彼をどうやって見つけ出すのか、氷華は悩んだ。

 「それなら俺が居場所を知っている……」

  突如研究室に現れた茶髪で長身の男。

 「あなたはいったい?」 

 「俺は飯田……飯田 マッケンジーだ、よろしく頼むよお嬢さん」
 
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