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第1話 無職の始まり

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「高倉《たかくら》 雀《すずめ》君、悪いけど今度の契約更新は無しで!」


 「えっ!………どういう事ですか………!?」


「会社の業績が悪くてね~、突然なんだけど、契約社員の君に白羽の矢が立ったわけだよ」


  突然の事実上、解雇通告。


  昼休みに突然上司に呼ばれたと思えばこれだ………。


「いくらなんでも突然で納得出来ません!何で俺が……」


 「まぁまぁ、とにかくこれは決定事項だから、わるいけど今週中に荷物まとめておいてね」


「いやですから………。あの………」

「まだ何かあるのかね?」


 それ以上は言葉が出なかった、頭の中は真っ白で、何も考えられなかった。


「いえ……ありません………」


「そう、じゃあもどっていいよ。詳しい手続きはまた連絡するから」


  そこから自分の仕事机に戻るためとぼとぼと歩き始めた。


  真っ白な頭の中、入社してから今までの事が走馬灯のように駆け抜けていく。

 ………

 ………………


  高校を卒業してすぐに入社したのがこの黒駄商事株式会社、俺は契約社員として営業3課に配属された。

 仕事としては毎日先輩と外回りで、既存のお客様を訪問する、いわゆるルート営業。

 新入社員でも毎日残業、休日出勤、残業代未払いなど、不安な面はあった。

  仕事はなかなか大変だったが、先輩、同僚はいい人ばかりで、毎日仕事に行くのは苦ではなかった。


 このままとぼとぼ1日1日が過ぎて行くんだと思っていた。


 
 ………それが突然の解雇通告。



「すず君!、すず君!」


「ふぇ?」


 雀は突然同僚の女の子に声を掛けられて驚く。


「大丈夫? 急に部長に呼び出されてたみたいだけど……」

「ああっ………大丈夫だよ恵《めぐみ》さん……俺は大丈夫……」


「大丈夫じゃないよ!」


「えっ?」


  雀の同期の山川恵《やまかわめぐみ》は、なぜか怒った表情で雀を見ていた。


(恵さん怒った顔も可愛いな……)


  恵はとある方向に指をさす。


「ここ女子トイレだよ!」


「えっ!?」


 気づいた時にはすでに遅かった、雀は女子トイレの中にいた。

「なっなっなっ………確かに小便器が一つもない!」


 「キャーー!、すず君の変態!」


「ごめんなさーーーい!」


 とにかく全力で走った、行き先はどこでもいい、とにかく人のいない場所へ。


 「はぁ、はぁ、………」


 気付けば会社から遠く離れ、来たことも見たこともない場所へ立っていた。


 「ここはどこだろう?、こんな場所は初めてだ……。でも……どこだっていいか、もう会社クビだし、この先真っ暗だし、このまま死んだって………」


(ひゅ~…バサッ!)


「うわっ!」


 突然雀に向かって風が吹き抜けると、顔に向かって一枚の紙が覆い被さる。

「なんだなんだ!、今日は本当に厄日だな」


 雀は顔に覆い被さった紙を手に取った。

「何か書いてあるな、なになに……」



             騎士団メンバー大募集!



  君もスマダ王国騎士団の一員となって、国を守る仕事をしてみないか!


  詳しい内容は現地にて説明、履歴書不要。



 それはいかにもブラック臭を漂わす求人広告。


「何だこの騎士団ってのは、だいたいスマダ王国って何だ、外国なのか?、行き方とか地図も載ってないし、どう考えても悪ふざけだよ……」


  雀は紙をぐしゃぐしゃに丸めると、近くにあったゴミ箱に投げ入れた。


「さて、帰る道を……」


「ちょっとそこのお兄さん!」


「!?、何だよ急に、てかどっから現れた!」


  先程まで周囲に人の気配などなかったた。

  しかし雀の目の前に突然、黒いローブを頭から被った女性が現れた。

 「まぁまぁ、それよりお兄さん、スマダ王国に行きたいんでしょ?」


「スマダ王国?、ああ、さっきの悪ふざけ求人な」


 「悪ふざけじゃありませんよ、スマダ王国は実在します!」


「何いってんだこの女……。これは相手にしてられないな……怖いわ……」


  彼女の必死の熱弁にどこか恐怖を感じ、雀はその場を立ち去ろうとした。


 だが……。

「どこに行くんです?、会社に戻るんですか?、家に帰るのですか?」


 その問いかけに、雀の足は止まる。


 (うぐっ……確かに彼女の言う通りだ。 会社はクビ、俺は実家暮らしだけど、今から帰っては家族を心配させるだけだ……第一、何て説明したら……)


 「もし今のあなたの現状を打開したいなら、スマダ王国へ行きなさい。変えられるはずです、あなたなら……運命を……」


  今の現状を打開してくれるなら、わらにもすがる思いだ。

  雀は悩んだ、帰る場所はない、案外この女の言う話に乗ってみるのも悪くはないかもしれない。

「本当にあるのか……?、そのスマダ王国ってのは」


「存在します。ここではない場所に……」


  ここではない場所?……それはいったい何処なのか。


 地球上に存在する場所なのか、そうではないのか。


 だとすると……。

  雀の疑問はすぐに解決される事となった。


「自分の目で確めたほうが早いですね。では、一名様スマダ王国にご案内」


「えっ、ちょと………うおっ!」


 雀は突如地面に現れた穴に吸い込まれるように落ちていった。


「うおぉぉぉぉぉぉぉえぉぉぉぉ!」


 それから雀はすぐに意識を失った。

 ………

 ……………

 ……………………


「うっ……」


 目覚めた時には地面に寝かされていた。

 「へぷしっ!」


  突如体を走り抜ける冷たい風。

 寝かされていたのは人気のない路地裏のような場所だった。


「うう、ここは何処だ……つーかあのやろう!」


「ここはスマダ王国領にある街、ソウの街だぜ兄弟」


  背後から聞こえた生理的に受け付けない声に驚き、雀は振り向いた。


 「だれだおま………」

 背後の存在を確認した時、雀は驚きと同時に絶望した。


「何で服着てないんだよ!、何で丸出しなんだよ!」


「はははっ、そう言う兄弟もスッポンポポンポンじゃないか……俺達仲良くできそうだな……」


(バキッ)

「ぐふっ……」

 次の瞬間には突っ込みという名の裏拳が男を仕留めていた。



「よし、変態は駆除出来た。しかしこの変態の言う通り、なぜ俺は服を着ていないんだ……さっきまで会社のスーツを着ていたはずなんだが……」

 直後にまたもや背後に気配を感じ振り返る。

「誰だ!」


(ムニ……)

 雀の右手は柔らかい何かを掴んだ。

(何だ?、暖かくて柔らかい……)


「キャャャャャャャャャャャー」


「!?」


 響く悲鳴、現れたのは歳の近そうな女性だった。

「ちょ……ちょと……あああっ……いったいここはどこなんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 悲鳴と共に響く雀の届かぬ叫び。


 今まさに、見知らぬ土地で、雀の新たな人生が始まろうとしていた。












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