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第一章

半竜

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 ◇
 
 
 ずっと黙ってなりゆきを見ていたが、どうもわたしのことを言われているのがわかったので、どうしても発言したくなってしまった。
 
 しかし、公の場で勝手に発言するのは良くないのだと、昨日教わったばかりだ。付け焼き刃の知識だが、たぶん、先生も今日のために教えてくれたのだろう。わたしが、こういう場所でちゃんと黙っていられるように。
 
 今騎士たちに剣を向けられている金髪の女の人は勝手に発言し始めたように思えるので、ちゃんと合っているのかはわからないが、とりあえず父にお伺いをたててみる。
 
 ……教わったとおり、ちゃんと「お父様」って言えたわたし、偉いわ。
 
「キアラ、もちろん構わないよ。どうした? お前たちを侮辱した彼女を、すぐに処分してほしいのか?」
 
 全く違う。
 すごい笑顔で言っているが、そんな顔で言うことでもない。どうやら、父はかなり怒っているらしい。
 
 わたしは首を軽く振ってから、口を開いた。
 
「わたしの半分は竜人族ですが、もう半分は、確かに人間族です。わたしは、ここにいるお父様とお母様の娘ですから」
 
 わたしは主に金髪の女の人に向けて、そしてこの場にいる全ての人に向けて、丁寧に話し始めた。たくさんの人が、わたしの話に耳を傾けてくれているようだった。

「それを、わたしはとても素敵なことだと思っています。強くて格好いい竜人族のお父様も、優しくてしっかりした人間族のお母様も、大好きだからです。わたしは二人の子供に産まれたことを、嬉しく思っています」
 
 さっき、わたしたちのために怒ってたくさんの人を威圧した父は、少し怖かったけれど、正直とても格好よかった。
 こちらに向けられているわけではないとわかっているのに、近くにいるだけでビリビリする危険なオーラを発するなんて、父はすごい人だったのだと肌で感じた。一体どうやったのか、今度是非聞いてみたい。
 
「半竜って、とても素敵な言葉ですね。わたしが、お父様とお母様の子供である証明みたいなものですから」
 
 にっこりと笑ってそう言ってみせると、ルイーダと呼ばれていた金髪の女性は、怒りに顔を歪ませ、真っ赤になってぶるぶると震え出した。
 
 それでも、彼女は何も言えずに口を引き結んでいる。
 
 ……半竜であることが悪いことみたいに言うから、違うって言いたかっただけなんだけど、伝わったかな? 怒ってるみたいだから、伝わってないのかな?
 
「……キアラ」
「お母様?」
 
 母が涙ぐみながら、わたしを後ろからそっと抱き寄せた。その後ろから、父がわたしたちをまるごと包み込むように腕をまわした。
 
「キアラ。私たちこそ、お前のような娘を持てたことがこの上なく幸せだし、嬉しく思うよ」
「ええ。あなたは私たちの誇りよ。私たちの元へ産まれてくれてありがとう、キアラ」
 
 父と母の、愛情に溢れた言葉と眼差しに心が温かくなる。嬉しくて、ジンと幸せが体中を巡るようだった。
 
 えヘヘと笑うと、二人も笑顔を見せてくれる。
 
 わたしたちがそうやって笑い合っていると、どこからか、パチパチと誰かが拍手するような、小さな音が聞こえてきた。
 
 それは次第に広がっていき、気がつくと、とても大きな音の波になってわたしに届いた。
 
 広間中の人々が、わたしたちに向かって、笑顔で拍手をしてくれている。わたしはそれを見て、もっと嬉しくなった。
 
 ……わたしもお母さんも、みんなに受け入れてもらえたみたい! 良かったぁ!
 
 しかし、そんな中、この祝福ムードを切り裂くような声がルイーダからあがった。

「……陛下っ!」 
 
 
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