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第一章
緊急会議 後編
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ディオルグは、自分が体験したこと、サーシャから聞き出したことをまとめて簡潔に語った。皇太后とルイーダの陰謀により、自分たちつがいはすれ違い、離れ離れになったのだと。
「なんということを……!」
「陛下のつがいに嘘をつき、騙して別れさせようなど、叛逆罪にも値し得る重罪です!」
「……前皇太后陛下は皇族籍の抹消、加えて現在埋葬されている皇族の墓所からの永久追放。ルイーダ嬢とその家族は、貴族籍の剥奪と国外追放、といったところでしょうな」
「何言ってんだ。前皇太后陛下はそれしかないとしても、残りは全員処刑が適当に決まってるだろうが!」
当然ながら、側近たちは皆、怒り心頭だった。
そんな彼らの反応を嬉しく思いながらも、ディオルグは軽く首を振った。
「ロドルバン。私も本当はそうしたいところだが、私がまだサーシャをつがいだと公表していなかった頃のことだ。あちらも影響力のある家であることは間違いないし、そんなことをすれば、情状酌量を求める声もきっと少なくないだろう」
結婚が決まる前からつがいを公表することはリスクが伴う。それは、無防備な状態の弱点を晒すことと同義だからだ。
しかしそれが仇となり、結局はサーシャに手を出されてしまった。己の立場上、彼女に危険が迫りやすいのは理解していたため、サーシャのことは側近たちにも告げずに徹底して隠していたつもりだったが、前皇太后の方が一枚上手だったということだろう。
「だから、やはりサイロスの案が妥当だと私も思う」
貴族籍の剥奪と国外追放を提案したサイロスが、静かに頷いた。彼は前皇帝にも仕えていた経験を持つ、最年長の側近だった。
ロドルバンは不満そうに顔をしかめたが、それ以上何も言わなかった。そんな彼の様子を見て、ディオルグは思わずフッと笑みがこぼれた。
「さて。他に反対意見がないようであれば、まずはそのための舞台を整えたいと思う」
「……舞台、ですか?」
ロドルバンの問いに、ディオルグはニヤリと笑ってみせた。
「あぁそうだ。すぐに刑を言い渡すことはしない。奴らにはまず自分の犯した罪を先に認識させ、いつ裁かれるのかと生きた心地がしない状態をしばらく味わってもらおうと思う」
明らかに不穏な内容だったが、ディオルグはいつもと変わらない様子で続けた。
「そこで少し急にはなるが、三日後の夜に上位貴族たちを招集したパーティを行う。そこで私の復帰と、つがいであるサーシャとの結婚、またキアラの存在を公表する」
ディオルグが言葉を続ける中、側近たちはポカンとしたり、面白そうに笑みを浮かべたりしている。
「そして、前皇太后の陰謀により私たちが十年間離れ離れになっていたことと、併せて前皇太后の処分の内容。この事件に関わった者全てに必ず厳正な処分を下すことを名言するんだ。詳細はまだ調査中だと言ってね」
そこまで言うと、側近たちも全員ディオルグの思惑を理解できた。
「ルイーダの行動を知りながら黙認していた者たちは焦るだろうな。サーシャが私のつがいであり、そして私の元へ戻ってきたと知ったら。ルイーダには確実に重い罰が下されるとして、自分にはどれほどの類が及ぶのかと」
笑顔とはまるで似つかわしくない内容を平然と宣うディオルグに、側近たちは目を細めていた。
ーーこれぞ、我らの皇帝である!
「十年前の陰謀に加担していたのが、前皇太后とルイーダだけとは限らないからね。サーシャを見て顔色を変える者がいないか注視し、もしいれば徹底的に調べるように。通常業務もあり忙しいとは思うが、それまでは各自、下調べや証拠固めにもあたってほしい。また、片が付くまでサーシャとキアラの情報は必要以上に広めず、警護は特に厳重にしておくように」
「はっ!」
側近たちは声を揃えて、皇帝の命に答えた。
ディオルグはそんな彼らを見回し、薄く笑みを浮かべたのだった。
「なんということを……!」
「陛下のつがいに嘘をつき、騙して別れさせようなど、叛逆罪にも値し得る重罪です!」
「……前皇太后陛下は皇族籍の抹消、加えて現在埋葬されている皇族の墓所からの永久追放。ルイーダ嬢とその家族は、貴族籍の剥奪と国外追放、といったところでしょうな」
「何言ってんだ。前皇太后陛下はそれしかないとしても、残りは全員処刑が適当に決まってるだろうが!」
当然ながら、側近たちは皆、怒り心頭だった。
そんな彼らの反応を嬉しく思いながらも、ディオルグは軽く首を振った。
「ロドルバン。私も本当はそうしたいところだが、私がまだサーシャをつがいだと公表していなかった頃のことだ。あちらも影響力のある家であることは間違いないし、そんなことをすれば、情状酌量を求める声もきっと少なくないだろう」
結婚が決まる前からつがいを公表することはリスクが伴う。それは、無防備な状態の弱点を晒すことと同義だからだ。
しかしそれが仇となり、結局はサーシャに手を出されてしまった。己の立場上、彼女に危険が迫りやすいのは理解していたため、サーシャのことは側近たちにも告げずに徹底して隠していたつもりだったが、前皇太后の方が一枚上手だったということだろう。
「だから、やはりサイロスの案が妥当だと私も思う」
貴族籍の剥奪と国外追放を提案したサイロスが、静かに頷いた。彼は前皇帝にも仕えていた経験を持つ、最年長の側近だった。
ロドルバンは不満そうに顔をしかめたが、それ以上何も言わなかった。そんな彼の様子を見て、ディオルグは思わずフッと笑みがこぼれた。
「さて。他に反対意見がないようであれば、まずはそのための舞台を整えたいと思う」
「……舞台、ですか?」
ロドルバンの問いに、ディオルグはニヤリと笑ってみせた。
「あぁそうだ。すぐに刑を言い渡すことはしない。奴らにはまず自分の犯した罪を先に認識させ、いつ裁かれるのかと生きた心地がしない状態をしばらく味わってもらおうと思う」
明らかに不穏な内容だったが、ディオルグはいつもと変わらない様子で続けた。
「そこで少し急にはなるが、三日後の夜に上位貴族たちを招集したパーティを行う。そこで私の復帰と、つがいであるサーシャとの結婚、またキアラの存在を公表する」
ディオルグが言葉を続ける中、側近たちはポカンとしたり、面白そうに笑みを浮かべたりしている。
「そして、前皇太后の陰謀により私たちが十年間離れ離れになっていたことと、併せて前皇太后の処分の内容。この事件に関わった者全てに必ず厳正な処分を下すことを名言するんだ。詳細はまだ調査中だと言ってね」
そこまで言うと、側近たちも全員ディオルグの思惑を理解できた。
「ルイーダの行動を知りながら黙認していた者たちは焦るだろうな。サーシャが私のつがいであり、そして私の元へ戻ってきたと知ったら。ルイーダには確実に重い罰が下されるとして、自分にはどれほどの類が及ぶのかと」
笑顔とはまるで似つかわしくない内容を平然と宣うディオルグに、側近たちは目を細めていた。
ーーこれぞ、我らの皇帝である!
「十年前の陰謀に加担していたのが、前皇太后とルイーダだけとは限らないからね。サーシャを見て顔色を変える者がいないか注視し、もしいれば徹底的に調べるように。通常業務もあり忙しいとは思うが、それまでは各自、下調べや証拠固めにもあたってほしい。また、片が付くまでサーシャとキアラの情報は必要以上に広めず、警護は特に厳重にしておくように」
「はっ!」
側近たちは声を揃えて、皇帝の命に答えた。
ディオルグはそんな彼らを見回し、薄く笑みを浮かべたのだった。
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