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第一章
罰を受けるのは
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軍人のお兄さんが話を聞いてくれそうだったので、わたしは領主への怒りをにじませつつも一生懸命説明した。
「わたしは領主に無理矢理連れて行かれたお母さんを助けに来ただけよ! 悪いのは領主なんだから!!」
「ふむ……」
お兄さんが、領主へ確認するように視線を向ける。
「そ、それの何が悪いのだ! ボクは領主だぞ!? つまり、領民であるサーシャたんはボクのものってことだろうが!! ……そんなことより、そのガキは領主を攻撃したんですよ! 帝国が認めた領主を攻撃するのは、反逆罪にあたるはず。早くそのガキを処罰してください!!」
睨まれてお兄さんには敬語で話し始めた領主だが、その態度はやっぱり偉そうだった。あまり、自分より偉い人と話したことがないのかもしれない。
「確かに、領民が領主を攻撃するのは反逆罪にあたるというのは、間違いじゃない」
そう言いながら、お兄さんがわたしを見る。それは、わたしの行動は確かに罪であると、わたしに教えているかのようだった。
わたしは思わず口をとがらせる。
「だが、この子の父親が竜人族であるとなれば、話が変わってくる。この子が実は帝国の貴族令嬢だというなら、田舎領主から母を守ろうと力を振るったことは、誰にも責められない。むしろ、先に無礼を働いた領主の方が罰を受けるだろうね」
「な……!?」
わたしは、お兄さんの言っていることがよくわからなくて首を傾げた。
……それってつまり、わたしは罰を受けなくても済むかもしれないってこと?
「そ、そんなはずはない! そのガキは、竜人族の特徴である複数の角も、鋭い爪や牙も、何も持っていないではないですか! それなのにそいつが竜人族だなんて、何かの間違いに決まってる。……そ、そうだ。あなたは、そいつに騙されているんですよ! そうに違いない!!」
領主は必死に、その小娘が悪いのだ、と喚いている。自分が罰を受けることになるかもしれないと聞いて、とても焦っているようだ。
「嘆かわしい……。辺境の田舎とはいえ、何という能無しが領主として置かれているんだ、この地域は。もう一度言うが、この子が怒った時に見せた瞳孔が縦に割れる目も、類稀なるパワーも、竜人族そのものだ。珍しいことだが、母親が人間族のようだから、外見はそっちに似たのだろう。僕の判断を根拠なく否定するなんて、本当に無礼な男だな。……今すぐ手討ちにしてやろうか?」
「ヒュエッ……」
お兄さんが凄むと、領主はおかしな声を出し、真っ青な顔で泡を吹き始めた。やがてぐるんと白目を向くと、気を失ったらしく、バタリと地面に倒れてしまった。
「お兄さん、本当にすごいっ! 睨むだけで領主をやっつけちゃうなんて。あいつ、殴ってもなかなか倒れなかったのに!」
「ふふ。まだ小さいから無理かもしれないけど、訓練すれば、君もいつか同じことができるようになるよ」
「本当!?」
わたしもいつか、お兄さんのように強くなれるのだろうか。それって、なんだかすごくワクワクする。
《キアラ。その人は大丈夫そうだし、お母さんを早くセラに診せてやろう》
「あっ、そうだわ。お母さん!」
クロの声で我に返り、わたしはお兄さんの腕から下りて、母のもとへ駆けつける。
「お母さん、お母さん……」
ぐったりとした母は、呼びかけても目を覚ます気配がない。痛々しくアザになっている頬を見ると、涙が出そうになる。
「これはひどいね。焦がれる女性に手を上げるなんて、人間族は馬鹿なことをするものだ。彼女には話を聞きたいし、ひとまず医者のところへ連れて行って治療を受けさせよう」
そう言ってお兄さんが母を抱き上げたので、わたしは慌ててお兄さんの服を掴んだ。
「待って! あのね、うちの家には聖女がいるの。セラに治してもらうから、うちへ連れていって!」
「わたしは領主に無理矢理連れて行かれたお母さんを助けに来ただけよ! 悪いのは領主なんだから!!」
「ふむ……」
お兄さんが、領主へ確認するように視線を向ける。
「そ、それの何が悪いのだ! ボクは領主だぞ!? つまり、領民であるサーシャたんはボクのものってことだろうが!! ……そんなことより、そのガキは領主を攻撃したんですよ! 帝国が認めた領主を攻撃するのは、反逆罪にあたるはず。早くそのガキを処罰してください!!」
睨まれてお兄さんには敬語で話し始めた領主だが、その態度はやっぱり偉そうだった。あまり、自分より偉い人と話したことがないのかもしれない。
「確かに、領民が領主を攻撃するのは反逆罪にあたるというのは、間違いじゃない」
そう言いながら、お兄さんがわたしを見る。それは、わたしの行動は確かに罪であると、わたしに教えているかのようだった。
わたしは思わず口をとがらせる。
「だが、この子の父親が竜人族であるとなれば、話が変わってくる。この子が実は帝国の貴族令嬢だというなら、田舎領主から母を守ろうと力を振るったことは、誰にも責められない。むしろ、先に無礼を働いた領主の方が罰を受けるだろうね」
「な……!?」
わたしは、お兄さんの言っていることがよくわからなくて首を傾げた。
……それってつまり、わたしは罰を受けなくても済むかもしれないってこと?
「そ、そんなはずはない! そのガキは、竜人族の特徴である複数の角も、鋭い爪や牙も、何も持っていないではないですか! それなのにそいつが竜人族だなんて、何かの間違いに決まってる。……そ、そうだ。あなたは、そいつに騙されているんですよ! そうに違いない!!」
領主は必死に、その小娘が悪いのだ、と喚いている。自分が罰を受けることになるかもしれないと聞いて、とても焦っているようだ。
「嘆かわしい……。辺境の田舎とはいえ、何という能無しが領主として置かれているんだ、この地域は。もう一度言うが、この子が怒った時に見せた瞳孔が縦に割れる目も、類稀なるパワーも、竜人族そのものだ。珍しいことだが、母親が人間族のようだから、外見はそっちに似たのだろう。僕の判断を根拠なく否定するなんて、本当に無礼な男だな。……今すぐ手討ちにしてやろうか?」
「ヒュエッ……」
お兄さんが凄むと、領主はおかしな声を出し、真っ青な顔で泡を吹き始めた。やがてぐるんと白目を向くと、気を失ったらしく、バタリと地面に倒れてしまった。
「お兄さん、本当にすごいっ! 睨むだけで領主をやっつけちゃうなんて。あいつ、殴ってもなかなか倒れなかったのに!」
「ふふ。まだ小さいから無理かもしれないけど、訓練すれば、君もいつか同じことができるようになるよ」
「本当!?」
わたしもいつか、お兄さんのように強くなれるのだろうか。それって、なんだかすごくワクワクする。
《キアラ。その人は大丈夫そうだし、お母さんを早くセラに診せてやろう》
「あっ、そうだわ。お母さん!」
クロの声で我に返り、わたしはお兄さんの腕から下りて、母のもとへ駆けつける。
「お母さん、お母さん……」
ぐったりとした母は、呼びかけても目を覚ます気配がない。痛々しくアザになっている頬を見ると、涙が出そうになる。
「これはひどいね。焦がれる女性に手を上げるなんて、人間族は馬鹿なことをするものだ。彼女には話を聞きたいし、ひとまず医者のところへ連れて行って治療を受けさせよう」
そう言ってお兄さんが母を抱き上げたので、わたしは慌ててお兄さんの服を掴んだ。
「待って! あのね、うちの家には聖女がいるの。セラに治してもらうから、うちへ連れていって!」
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