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第一章

一緒に帰ろう

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「し、信じられない。本当に外れた」
「俺たち、自由なのか……?」
「お嬢ちゃん、本当にありがとう!」
 
 みんなから口々に感謝されて、わたしはえへへとはにかんだ。
 
「早くここから出よう。奴らの仲間が戻って来るかもしれない」
 
 誰かがそう言ったので、わたしは驚いて目を見開いた。
 
「まだ、仲間が残っているの?」
「ああ。仲間というか、管理役のようだったが……背の低い男が、たまにここへ出入りしているんだ。いつも護衛を数人連れているから、そいつらに見つかるとまずい。早く脱出しないと」
「誰か道を覚えている者はいないか?」
「わ、わたし、なんとなくなら……」
 
 まだ仲間が残っていたらしい。連れて来られる時に必死で道を覚えたという人が何人かいたので、多少迷いつつも、全員で外へ出ることに成功した。久しぶりに日の光を浴びた人たちが感動で泣き出してしまい、落ち着くまで少し時間がかかった。
 
 そして、ひとまず全員で近くの人里へ行くことになった。道がわかるという人がいたので、わたしは魔獣からみんなを守りながら、森の中を進んだ。わたしが魔獣をものともせず倒すことに驚く人は、もう誰もいなかった。
 
「や、やった! 町だ!!」
「家に帰れる……!」
「お嬢ちゃん、本当にありがとう! この恩は忘れないよ!」
「あっ、約束は守ってくださいねー!」
 
 たどり着いたのは、わたしが住んでいるブレイ村よりも大きな町だった。魔獣から町を守る門があり、門を守る衛兵が立っている。みんなはそれを見るなり、わたしにお礼を言いながらも一目散に駆けていった。衛兵たちが、何事だと戸惑っているのがわかった。
 
 ……みんなすごく興奮していたけど、わたしとクロのことを内緒にするって約束、ちゃんと守ってくれるかしら?

 町へ着く前に、わたしが奴隷商たちをやっつけたり、クロが首輪の機能を壊したりしたことは黙っていてもらえるよう、みんなにお願いしたのだ。みんな、恩人の言うことなら快く口裏合わせに協力すると言ってくれた。
 しかし、あのはしゃぎようを見ると、なんだか少し不安になってしまう。今も、大声でわたしに向かってお礼を言っている人がいるのだから、余計に心配だ。

 ……ああしてすごく感謝してくれているんだし、彼らを信じるしかないわよね。
 
「あれ? あなたは行かないの?」
 
 わたしは、そばに一人残った獣人族の女の子に声をかけた。彼女は少しうつむきながら、悲しげに頷く。
 
「……わたしは、獣人族ですから。魔獣が怖いのでここまで一緒に来ましたが、あそこへ行っても、嫌な顔をされるだけだと思います。それに、帰る場所もないですし……」
 
 どうやら彼女には、帰るお家がないらしい。奴隷だった人たちの中には、何も言わないけど、顔をしかめながら彼女を見る人もいた。どうしてかはわからないが、やっぱり、獣人族への差別は根強く存在するようだ。

 わたしは、今考えていることを口にするべきか、少しだけ迷った。でも、すぐに心を決めた。
 
「ねえ。じゃあ、わたしの家に来ない? うちは貧乏だしお家もボロボロで狭いけど、わたしのお母さんはとっても優しいから、あなたにも優しくしてくれると思うわ」
「……!?」
 
 女の子が目を見開いてわたしを見た。
 
「で、でも、わたしは獣人族で……」
「そんなの関係ないわ。わたし、今はちょっと事情があって、一人も友達がいないの。あっ、この子は別だけどね。だから、友達になってくれると嬉しいな!」
 
 わたしが肩に乗ったクロを軽く撫でながらそう言うと、女の子の目にみるみる涙が溜まっていった。彼女が瞬きをすると、アプリコット色のまつげが濡れて、ポロリと涙が頬を伝った。
 
「わ、わたしで……いいんですか……?」
「うん、もちろん!」
 
 今の家はとても狭いので、寝る場所にも困るかもしれないが、彼女をこのまま放っておくことなんてできない。わたしだって、見た目は人間族と変わらないが、半分は獣人族なのだ。母もきっとわかってくれると思う。
 
 ……それに、この子、とってもいい子なんだもの。ぜひ友達になりたいわ!
 
 彼女は、周囲の人たちから理不尽に嫌な顔を向けられたり無視されたりしても、何も文句を言わなかった。それどころか、道中で怪我をした人に治癒魔法を使って治してあげてもいた。優しすぎる。わたしだったら、もう怒って治してあげないと思う。
 
「あ、ありがとう、ございます。い、一緒に、行きたいです」
「やった! これからよろしくね。わたし、キアラっていうの。あなたは?」
 
 彼女がポロポロと涙を流し続けるので、わたしは明るい声で尋ねた。すると彼女は涙を拭って、少しぎこちないながらも、笑顔を見せてくれた。
 
「わたしは、セラです。よろしくお願いします、キアラさん」
「ええっ!? キアラでいいわよ。気楽に話して? わたしたち、そんなに年も変わらないでしょう?」
 
 年齢を聞けば、やっぱりセラも九歳だそうだ。
 
「いえ、わたしはこの方が楽なんです。よかったら、このままで話したいです」
「えっ、そうなの?」
 
 ……まぁ、本人がそう言うならいいか。
 
「あ、もう知ってるかもしれないけど、この子はクロよ。すっごく強くて賢いの!」
 
 クロをそう紹介すると、セラはなぜか少し戸惑ったような、微妙な顔をしながらも、コクリと頷いた。
 
「そ、そうなんですか。よろしくお願いします、クロさん」
 
 こうして、わたしはクロとセラを連れて、家へ帰ることになったのだった。
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