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第一章
村の少年トーア
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クロがファムルを見つけてくれたおかげで、色々なものを交換で手に入れることができた。
早く、母にも見せてあげたい。
わたしは大満足で、戦利品の入ったカゴを背負おうとした。
「ねえ、きみ!」
「うん?」
後ろから声をかけられて、わたしは振り向いた。
するとそこには、わたしと同い年くらいの男の子がいた。
メガネをかけていて、小麦色の髪はぴょんぴょんとあちこちにはねている。長い前髪とメガネで顔はあまり見えないけれど、たぶん、会ったことがない人だと思う。
……誰かしら?
この小さな村で、わたしの知らない子供がいるなんて思わなかった。大人でさえ、名前は知らなくても、みんな顔くらいは見たことがある人ばかりなのに。
わたしが首を傾げると、男の子は「あっ」と言って、焦ったように自己紹介を始めた。
「僕は、トーアっていうんだ。普段は家で本ばかり読んで過ごしているから、挨拶もしたことなかったよね。一応、この村育ちなんだけど」
どこか恥ずかしそうに挨拶をする彼に、わたしもにこりと笑って挨拶をする。
「初めまして、わたしはキアラよ!」
「あっ、うん。知ってるよ。といっても、知ったのはつい最近なんだけど。君は有名らしいね。領主様からの理不尽な命令のせいで……」
トーアが顔をしかめながらそんなことを言ったので、わたしは目を見張った。
「あなたもそう思う!? あのブーゴン男は理不尽だって!」
「ブ……!? い、いや、そうだね。もちろんそう思うよ。権力を使って無理矢理女の人を自分のものにしようだなんて、とてもひどいことだよね」
「……!」
わたしが常々思っていたことにこんなにも同意してくれる人がいるなんて、なんだか感動してしまった。
「わたし、あなたとはお友達になれそうな気がするわ!」
「ええっ? あ、ありがとう……」
トーアの手を握り、ぶんぶんと振って握手すると、トーアが困惑した様子でお礼を言った。
「あと、実は初めましてじゃないんだ。僕は少し前に、クレーターベアに襲われていたところを君に助けられているから」
「えっ?」
……クレーターベアに?
それはもしかしなくても、最近、初めてクレーターベアを倒した時のことだろうか。
あの時、周囲に誰もいないかどうか確認するのをすっかり忘れて、思いっきり殴ったり蹴ったりして倒してしまった記憶が蘇る。
サァッと血の気が引いた。
わたしが助けたと彼が言うということは、あれをトーアに見られていたということだ。つまり、わたしが半分は獣人族であると、彼は気づいたのではないだろうか。
青い顔で固まってしまったわたしを見て、トーアは苦笑した。
「安心して。誰にも言ってないし、これからも言うつもりはないよ。僕個人としては、君が何者であっても全然構わないし」
トーアの言葉に、わたしはホッと息を吐いた。
わたしが普通よりもちょっとだけ力が強いことは、黙っていてくれるらしい。
「ありがとう。そう言ってくれると助かるわ!」
「ううん、お礼を言うのは僕の方だよ。君は、ただクレーターベアの肉を手に入れるために倒しただけだと思うけど、僕はとても助かったんだ。だからお礼を言いたくて、君の特徴を伝えて親に誰だか知らないかって聞いてみたら、キアラのことじゃないかって言われて」
……あー、そうよね。赤い髪に金の目は珍しいみたいで、子供どころか、大人を含めてもこの村ではわたし一人だけだもの。きっと、すぐわかったに違いないわ。
「ありがとう、キアラさん。君は命の恩人だよ」
「ひゃあ、お礼なんていいわよ! それに、さん付けなんてしなくていいわ! トーアっていい人ね。わざわざお礼を言いに来るなんて」
さん付けで呼ばれたのなんて、生まれて初めてかもしれない。
「ええと、実はね。お礼を言いたかったのが一番の用事なんだけど……もうひとつ、どうしても、いやその、もしかしたら言っておいた方がいいかなって思ったことがあって」
早く、母にも見せてあげたい。
わたしは大満足で、戦利品の入ったカゴを背負おうとした。
「ねえ、きみ!」
「うん?」
後ろから声をかけられて、わたしは振り向いた。
するとそこには、わたしと同い年くらいの男の子がいた。
メガネをかけていて、小麦色の髪はぴょんぴょんとあちこちにはねている。長い前髪とメガネで顔はあまり見えないけれど、たぶん、会ったことがない人だと思う。
……誰かしら?
この小さな村で、わたしの知らない子供がいるなんて思わなかった。大人でさえ、名前は知らなくても、みんな顔くらいは見たことがある人ばかりなのに。
わたしが首を傾げると、男の子は「あっ」と言って、焦ったように自己紹介を始めた。
「僕は、トーアっていうんだ。普段は家で本ばかり読んで過ごしているから、挨拶もしたことなかったよね。一応、この村育ちなんだけど」
どこか恥ずかしそうに挨拶をする彼に、わたしもにこりと笑って挨拶をする。
「初めまして、わたしはキアラよ!」
「あっ、うん。知ってるよ。といっても、知ったのはつい最近なんだけど。君は有名らしいね。領主様からの理不尽な命令のせいで……」
トーアが顔をしかめながらそんなことを言ったので、わたしは目を見張った。
「あなたもそう思う!? あのブーゴン男は理不尽だって!」
「ブ……!? い、いや、そうだね。もちろんそう思うよ。権力を使って無理矢理女の人を自分のものにしようだなんて、とてもひどいことだよね」
「……!」
わたしが常々思っていたことにこんなにも同意してくれる人がいるなんて、なんだか感動してしまった。
「わたし、あなたとはお友達になれそうな気がするわ!」
「ええっ? あ、ありがとう……」
トーアの手を握り、ぶんぶんと振って握手すると、トーアが困惑した様子でお礼を言った。
「あと、実は初めましてじゃないんだ。僕は少し前に、クレーターベアに襲われていたところを君に助けられているから」
「えっ?」
……クレーターベアに?
それはもしかしなくても、最近、初めてクレーターベアを倒した時のことだろうか。
あの時、周囲に誰もいないかどうか確認するのをすっかり忘れて、思いっきり殴ったり蹴ったりして倒してしまった記憶が蘇る。
サァッと血の気が引いた。
わたしが助けたと彼が言うということは、あれをトーアに見られていたということだ。つまり、わたしが半分は獣人族であると、彼は気づいたのではないだろうか。
青い顔で固まってしまったわたしを見て、トーアは苦笑した。
「安心して。誰にも言ってないし、これからも言うつもりはないよ。僕個人としては、君が何者であっても全然構わないし」
トーアの言葉に、わたしはホッと息を吐いた。
わたしが普通よりもちょっとだけ力が強いことは、黙っていてくれるらしい。
「ありがとう。そう言ってくれると助かるわ!」
「ううん、お礼を言うのは僕の方だよ。君は、ただクレーターベアの肉を手に入れるために倒しただけだと思うけど、僕はとても助かったんだ。だからお礼を言いたくて、君の特徴を伝えて親に誰だか知らないかって聞いてみたら、キアラのことじゃないかって言われて」
……あー、そうよね。赤い髪に金の目は珍しいみたいで、子供どころか、大人を含めてもこの村ではわたし一人だけだもの。きっと、すぐわかったに違いないわ。
「ありがとう、キアラさん。君は命の恩人だよ」
「ひゃあ、お礼なんていいわよ! それに、さん付けなんてしなくていいわ! トーアっていい人ね。わざわざお礼を言いに来るなんて」
さん付けで呼ばれたのなんて、生まれて初めてかもしれない。
「ええと、実はね。お礼を言いたかったのが一番の用事なんだけど……もうひとつ、どうしても、いやその、もしかしたら言っておいた方がいいかなって思ったことがあって」
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