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第二章 魔塔の魔法使い

突撃

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「きゃああああ!?」
 
 どうもみなさん、こんにちは。リーシャです。
 私がなぜ叫んでいるのかですって?
 
 ……それは、なぜか私は今、ノラード様に抱えられて、空を飛んでいるからですよ!
 
「ののののっ、ノラード様っ!? どうして浮いて、いや飛んで……というか、何してるんですかぁ!?」
  
 味わったことのない浮遊感に、心臓が激しく抗議の音をたてている。ドコドコと耳に響く音と、吹きつける風の音がせめぎ合う。

 自分の体が地面に接していないという不安感に、私は思わずギュッと殿下の服を握りしめた。
 
 なぜこんなことになっているのか。
 それは、殿下がいきなり私を横抱きにしたかと思うと、王太子の暮らす離宮へと一直線に飛び立ったからである。
 
「ごめんねリーシャ。慣れてないと気持ち悪いかもしれないけど、ちょっと我慢してね」
 
 ……そういう問題ではないのですが!?
 
 自在に空を飛べる魔法使いなんて、聞いたことがない。
 宮廷魔法使いのほんの一部の人が、少しだけ宙に浮くことができるそうだけれど、それもゆっくりとその場で浮上することができるだけだと聞いたことがある。
 
 ……魔塔の魔法使いは、みんなこんなにデタラメなことができるの!?
 
 クラクラし始めてきたところで、ようやく王太子の離宮前へ到着した。
 
 やっと地面に降りられるかと思いきや、殿下はなかなかスピードを緩めない。
 
「ノ、ノラード様。降りないのですか!?」
 
「降りるよ。あそこがいいかな? しっかり掴まっててね、リーシャ」
 
「えっ?」
 
 わけも分からず、言われた通りにしっかりと彼の服を掴む手に力を入れた時、すでに離宮は目前に迫っていた。
 
 ぶつかる、と思ったのもつかの間、先ほどから常に強く感じていた風が、ふわりと頬を撫でた。
 
 気がつけば、離宮のとあるバルコニーへと降り立っていた。
 
「えっ、バルコニー? ノラード様、訪問するならせめてきちんとお伺いをたてて、正面から行った方が……」
 
「そうすると少なくとも二日くらいはかかるじゃないか。そんなの待ってられないよ」
 
 ガチャリと容易く窓を開け、殿下が勝手に部屋へ入っていく。幸いというか、中は無人だった。
 
 ……空き部屋のようだけれど、鍵はかかっていなかったのかしら? いいえ、きっと考えても無駄ね。
 
 空を飛んでここまで来られる彼だ。たとえ鍵がかかっていたとしても、きっと平気に違いない。
 
「行こう、リーシャ」
 
 殿下が、怖い顔をしながら私の手を引いて、王太子の執務室がある方へと歩いていく。なぜだかわからないけれど、彼には王太子の居場所がわかるらしい。
 
「あの、ノラード様。一体何をするおつもりですか?」
 
「いいから、ついてきて」
 
「ノラード様……」
 
 今の彼をこのまま王太子に会わせたら、まずいことになりそうな気がする。少なくとも、弟と仲良くなりたいくせに素直に言えないでいる王太子からしてみれば、全く嬉しくない事態になりそうだ。
 
 そう思ってなんとか止めようとしてみたものの、殿下は頑固な子供のように聞く耳を持ってくれない。しっかり掴んで放さないのに、全く痛くないという絶妙な力加減で彼は私の手を握っている。
 
 歩くスピードも私に合わせるという完璧な気遣いを見せているくせに、方向を変えないし止まってもくれない。なんだろう、この状況。
 
「止まってください。ここは王太子殿下の執務室です。面会の予約は……」
 
「悪いけど、どいて」
 
「うわぁっ!?」
 
「ちょ、ええっ!?」
 
 王太子の執務室前にいた警備担当の騎士たちが、慌てふためいた声を出す。それもそうだろう、彼らの持っていた武器が、突如その手を離れ、遠くへぶん投げられたのだから。

「き、貴様何者だ! ここをどこだと思って……」

「ちょっと黙っててくれる? すぐに済むと思うから」

「ぐわーーー!?」

 果敢にも丸腰の状態で殿下へ挑んだ騎士は、まるで何か巨大なものに押し潰されたかのように、地面にへばりつく結果となった。
 
 ……殿下にかかれば、騎士が何人いても意味はないみたい。
 
 私は諦めの境地で、「申し訳ございません、申し訳ございません」と騎士たちに謝罪しつつ、扉が開く音を聞いた。
 
「なんだ、騒がしいぞ。一体……」
 
「どうも、お久しぶりです」
 
 王太子は、堂々とした態度の闖入者を訝しげに見た後、後ろにいる私に視線を移した。そして再びノラード様を見ると、目を見開いた。誰が自分の執務室にやって来たのか、理解したらしい。
 
「お、お前……ノラード……?」
 


 
 
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