人権放棄宣言

静原大河の場合

３話

撮影を終えた私は、人権放棄して初めて服を着る機会が与えられた。
それは大事なところが切り取られたセーラー服で、正直着ている方が恥ずかしくなるような物だ。
それでも布は厚く、防寒はしっかりしているようだった。
もちろん一部を除いてだが。
「お疲れ様とは言わないよ」
着替えを済ませた私の前に光峰さんがやってくる。
見ると撮影のときにいたスタッフはほとんどいなくなったいて、スタジオは静かさに包まれていた。
「どう、初めての撮影は？」
「正直しばらくはやりたくないです」
私はきっぱりと言った。
「だろうね。でもそういうわけにもいかないんだ。これが君の当面の仕事だから」
光峰さんはそれだけ言うと小さく手招きしてスタジオを出ていく。
私はもう身体を隠すこともせずに続いた。

歓楽街から程遠くない雑居ビル。
ここは北鷹会が所有する通称『犬小屋』と呼ばれる場所だ。
私のように所有していただいている家畜を保管しておく場所で、私は今晩この102のプレートが付いた書かれた部屋・・・もとい物置で寝泊まりをする許可が頂けた。
「シャワーのときは呼びに来るから」
そういうと私は薄暗い照明に光と積まれたダンボール箱、僅かな慈悲の元用意された寝袋のみの部屋に取り残された。
(トイレとかどうするんだろう・・・)
そんなことを考えながら、私は今日のことを思い浮かべていた。
今までの人生がちっぽけに思えるほど濃い一日だった。
一枚の書類にサインして、数分前まで通っていた高校を裸で歩いて、エッチなビデオを撮影して・・・。
思い返すだけで爆発しそうになる。
「やっばぁ・・・」
小さくつぶやき、うずく股間に手を伸ばしたところで突然ドアが開かれる。

「コニチワー」
片言の日本語を話しながら女の子が入ってくる。
薄い金色の髪はサラサラのツインテールで結んであり、歳はあまり違わなさそうだ。
透き通るような白い肌の・・・全裸の女の子だ。
「あっいた！よろしくねタイガ！」
そういって私に抱きついてくる。
「えっ」
私は引きはがすこともできず、行き場をなくした両の手を何回もパタパタするしかなかった。
「もう、だめでしょエミリー」
声のする方を見ると、もうひとり。
こちらはエミリーと呼ばれた少女とは違い、おしとやかなお姉さんといった感じ。
ロングの黒髪ヘアーで、歳は２０歳くらいだろうか。
赤い縁取りの眼鏡でも隠れないほどの美人で、その落ち着いた佇まいに全裸がミスマッチと言わざるをえない。
「静原大河ちゃんよね？」
「あっ、えっと。はい！」
「ふふ、緊張しないで」
そういってお姉さんは私から金髪の女の子を引きはがすと、もう一度向き直った。
「私、太秦綾乃。北鷹会さんに買っていただいてる奴隷４号です。」
そういってニコッと微笑む綾乃さん。
後半の言葉がイマイチ頭に入ってこないが、どうやら私と同じ“元人間”のようだ。
「この子はエミリー。ほらエミリー、ご挨拶は？」
「はい、エミリーです！よろしくお願いします！」
そう言って手を前で揃え、深々と頭を下げるエミリー。
「はい、よくできました」
「えへへー」
綾乃さんに頭を撫でられながら声を漏らす。
「私たち同じ奴隷で、今日から一緒にここに住むの。よろしくね」
そういって微笑む綾乃さん。
「・・・えっ」
そう言うと綾乃さんは部屋のダンボールから寝袋を探し出し、２つを追加で敷き始めた。
「綾乃さん達も人権放棄したんですか？」
「そうよ、もちろんエミリーもね」
「えへへー。エミリーはね、ジンケンホーキするためにニッポンへ来たんだよ」
「ホント変態さんよねー」
「アヤノも同じ！大学辞めて奴隷になったんでしょ！」
ニコニコしながらも少し恥ずかしそうにする二人を見て私は本能で理解した。
この人たちは私と一緒だ。
生粋のマゾなんだ。
「大河ちゃん」
「は、はい」
「まだ慣れないことも分からないこともあると思うけどね。先輩として言わせてもらうなら今すごく幸せなのよ」
そう言って手招きする綾乃さん。
近くによると抱き寄せられてしまった。
「これからいっぱいエッチなことをして、たくさん恥を晒しましょうね」
そう言って微笑む綾乃さんは、私には聖母に見えた。