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第1章 英雄と高等学校
第1話 5人の英雄
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ここ五頭領の中心には、白と水色を基調とした〈守護者の塔〉という名の巨塔が存在する。
この世界を保つための最重要人物となる者達しか出入りが許されることのない、堅牢で、多大な圧を感じる場所。
その様な威厳しか感じられない塔の上階から。
もう桜が咲き誇ろうかという、この春の良き日に。
「はぁ⁉何よッ‼アタシとやろうっていうの⁉」
……何故このような、
「いいぜ⁉やってやろうじゃねぇかぁッ‼」
……幼稚な会話が繰り広げられているのだろか…。
時は遡り、約10分前。
この巨塔の50階で、神に選ばれし5人の英雄達は今年度の〈英雄誕生祭〉という世界の平和を祈る催しについて会議を行うために集まっていた。
「では、今年度の英雄誕生祭についての会議を行いたいと思います」
司会を務めるべくそう発言したのは、心の中央区27代目英雄・神島音無。透き通った水色の長髪は癖のない綺麗なストレートで、つり目がちな瞳は、その小柄な体も相まって猫のような印象を与える女性だ。
因みに、中央区の英雄は代々チームリーダーのようなまとめ役を担っている。
「はいはーい!例年通りじゃダメなの?音無ちゃん」
元気一杯に声を上げ、可愛らしく小首を傾げるこの女性は、西の科学区28代目英雄・糸雲泠。ふわふわと揺れるライムグリーン色の癖っ毛は、肩の上の辺りで揃えられており、大きなくりっとした瞳は垂れ目で、見事な小動物系女子だ。可愛らしい見た目とは相反し、恐ろしく頭の切れる強者で、英雄達の中では主にサポート役に徹している。
「ダメに決まってるだろ。あのなぁ、うちの女神サマが来て今年で丁度2000年だっつー節目の年だろーが。そんくらいは覚えとけ、泠」
随分と上から目線の発言をしたのは、北の妖区3代目英雄・鳳斝だ。目が痛くなる程に鮮やかな赤色の髪は高い位置で一つにまとめているにも関わらず、腰に届くまでに長い。切れ長で鋭さを感じる瞳だが、どこか艶めかしさを孕み、本人の気だるげな雰囲気も相まって、凄絶な色気を発している。
その見た目は20代半ば頃に見えるが、実際は1000年程の時を生きてきた妖狐という大妖怪だ。
英雄達の中で、最大火力なのは間違いなく彼だろう。
「そうよ、泠。この狐に同意するのは癪だけどね」
うふふ、と鳳斝に対し毒を含みながら言葉を発するのは、南の魔法区7代目英雄・フィリア・リデルだ。
緩く波打ったその艶やかな髪は金色に輝き、左右で2つに結われている。大きな瞳は綺麗なアーモンド型で、年齢の頃は20代前半に見えるがこちらも同様で、実際には約500歳の大魔女である。メリハリのある体をしてはいるが精神年齢は低く、鳳斝とはよく口喧嘩をしている。
「……………」
終始無言で周りの会話を聞いているだけの彼は、東の超人区13代目英雄・天原伊桜。
漆黒という言葉の似合うその艶やかな髪をしたこの者の姿は、まだ成人を迎える前の少年のものだった。事実、彼はこの中で最年少であり、この春から高校生活が始まる15歳である。しかし、その美貌は他の者に遅れをとることはなく、常に無表情な白く透き通った肌の顔は大人になる前の独特な色香が放たれていた。
「むぅ。それくらい私だって知ってるもん」
成人を迎えたとは思えない幼い口調で反論する泠。
「ただ、いつもとは違うことって言ってもこれ以上何をしたらいいかなって悩んじゃったから聞いただけだもん」
「確かに、泠の言ったことについては私も同意見です」
「そうねぇ…。毎年やる事といえば……」
「今年度も俺らが英雄の命を受け持ちますっつー儀式が最重要事項で、一般市民に向けてのテレビ出演だとかがちょくちょくある程度だろ?
…まぁ確かに、何すりゃいいか思いつかんな」
「……………」
「おい、伊桜。お前はどうだ?」
「…泠さんと、同意見です…」
「んー、やっぱそうだよなぁ。……よし、じゃあそこのひよっこ魔女、何か案ねぇか?」
「……なんですって、この老いぼれ狐…。もう1回言ってみなさいッ、殺すわよッ⁉」
「んだと、このひよっこが。それに俺の顔をよく見てみろよ、これのどこが老いぼれだって……?」
「若作りしてる辺りがもう老いぼれだって言ってるのよッ‼」
「若作りとかお前が言うなッ‼このひよっこがァ‼」
「ひよっこひよっこ言うんじゃないわよッ、老いぼれ狐‼」
「そっちこそ、老いぼれ老いぼれ連呼すなっ‼
……あぁ、それとも俺のこの顔が羨ましいってのか?」
数秒の沈黙の末。
「はぁ⁉何よッ‼アタシとやろうっていうの⁉」
「いいぜ⁉やってやろうじゃねぇかぁッ‼」
嫌味全開でそう言い放つ鳳斝に対しフィリアの堪忍袋が限界を迎え、とうとう2人の間に勝負の火蓋が切り落とされ……
「……2人とも?…いい加減にしてくれませんか。…………殺しますよ?」
……なかった。
殺気の籠った底冷えしてしまう音無の声に、百戦錬磨一騎当千のはずの2人は、本気で命の危機を感じたと後に語る事となった。
この世界を保つための最重要人物となる者達しか出入りが許されることのない、堅牢で、多大な圧を感じる場所。
その様な威厳しか感じられない塔の上階から。
もう桜が咲き誇ろうかという、この春の良き日に。
「はぁ⁉何よッ‼アタシとやろうっていうの⁉」
……何故このような、
「いいぜ⁉やってやろうじゃねぇかぁッ‼」
……幼稚な会話が繰り広げられているのだろか…。
時は遡り、約10分前。
この巨塔の50階で、神に選ばれし5人の英雄達は今年度の〈英雄誕生祭〉という世界の平和を祈る催しについて会議を行うために集まっていた。
「では、今年度の英雄誕生祭についての会議を行いたいと思います」
司会を務めるべくそう発言したのは、心の中央区27代目英雄・神島音無。透き通った水色の長髪は癖のない綺麗なストレートで、つり目がちな瞳は、その小柄な体も相まって猫のような印象を与える女性だ。
因みに、中央区の英雄は代々チームリーダーのようなまとめ役を担っている。
「はいはーい!例年通りじゃダメなの?音無ちゃん」
元気一杯に声を上げ、可愛らしく小首を傾げるこの女性は、西の科学区28代目英雄・糸雲泠。ふわふわと揺れるライムグリーン色の癖っ毛は、肩の上の辺りで揃えられており、大きなくりっとした瞳は垂れ目で、見事な小動物系女子だ。可愛らしい見た目とは相反し、恐ろしく頭の切れる強者で、英雄達の中では主にサポート役に徹している。
「ダメに決まってるだろ。あのなぁ、うちの女神サマが来て今年で丁度2000年だっつー節目の年だろーが。そんくらいは覚えとけ、泠」
随分と上から目線の発言をしたのは、北の妖区3代目英雄・鳳斝だ。目が痛くなる程に鮮やかな赤色の髪は高い位置で一つにまとめているにも関わらず、腰に届くまでに長い。切れ長で鋭さを感じる瞳だが、どこか艶めかしさを孕み、本人の気だるげな雰囲気も相まって、凄絶な色気を発している。
その見た目は20代半ば頃に見えるが、実際は1000年程の時を生きてきた妖狐という大妖怪だ。
英雄達の中で、最大火力なのは間違いなく彼だろう。
「そうよ、泠。この狐に同意するのは癪だけどね」
うふふ、と鳳斝に対し毒を含みながら言葉を発するのは、南の魔法区7代目英雄・フィリア・リデルだ。
緩く波打ったその艶やかな髪は金色に輝き、左右で2つに結われている。大きな瞳は綺麗なアーモンド型で、年齢の頃は20代前半に見えるがこちらも同様で、実際には約500歳の大魔女である。メリハリのある体をしてはいるが精神年齢は低く、鳳斝とはよく口喧嘩をしている。
「……………」
終始無言で周りの会話を聞いているだけの彼は、東の超人区13代目英雄・天原伊桜。
漆黒という言葉の似合うその艶やかな髪をしたこの者の姿は、まだ成人を迎える前の少年のものだった。事実、彼はこの中で最年少であり、この春から高校生活が始まる15歳である。しかし、その美貌は他の者に遅れをとることはなく、常に無表情な白く透き通った肌の顔は大人になる前の独特な色香が放たれていた。
「むぅ。それくらい私だって知ってるもん」
成人を迎えたとは思えない幼い口調で反論する泠。
「ただ、いつもとは違うことって言ってもこれ以上何をしたらいいかなって悩んじゃったから聞いただけだもん」
「確かに、泠の言ったことについては私も同意見です」
「そうねぇ…。毎年やる事といえば……」
「今年度も俺らが英雄の命を受け持ちますっつー儀式が最重要事項で、一般市民に向けてのテレビ出演だとかがちょくちょくある程度だろ?
…まぁ確かに、何すりゃいいか思いつかんな」
「……………」
「おい、伊桜。お前はどうだ?」
「…泠さんと、同意見です…」
「んー、やっぱそうだよなぁ。……よし、じゃあそこのひよっこ魔女、何か案ねぇか?」
「……なんですって、この老いぼれ狐…。もう1回言ってみなさいッ、殺すわよッ⁉」
「んだと、このひよっこが。それに俺の顔をよく見てみろよ、これのどこが老いぼれだって……?」
「若作りしてる辺りがもう老いぼれだって言ってるのよッ‼」
「若作りとかお前が言うなッ‼このひよっこがァ‼」
「ひよっこひよっこ言うんじゃないわよッ、老いぼれ狐‼」
「そっちこそ、老いぼれ老いぼれ連呼すなっ‼
……あぁ、それとも俺のこの顔が羨ましいってのか?」
数秒の沈黙の末。
「はぁ⁉何よッ‼アタシとやろうっていうの⁉」
「いいぜ⁉やってやろうじゃねぇかぁッ‼」
嫌味全開でそう言い放つ鳳斝に対しフィリアの堪忍袋が限界を迎え、とうとう2人の間に勝負の火蓋が切り落とされ……
「……2人とも?…いい加減にしてくれませんか。…………殺しますよ?」
……なかった。
殺気の籠った底冷えしてしまう音無の声に、百戦錬磨一騎当千のはずの2人は、本気で命の危機を感じたと後に語る事となった。
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