上 下
73 / 75

72

しおりを挟む

◇◇◇

 生徒会室を飛び出したリルは目的の人物ーーエリオットを探していた。
 特待生で尚且つ一年生の中で類まれなる頭脳の持ち主。そんなエリオットはどの委員会にも属していないイレギュラー中のイレギュラー。
 彼ならば条件に当てはまる。アランと同等ーーいやそれを上回る頭脳を持ち、他の委員会に属してはいない。エリオット以外の適任者なんて考えられない。
 教室へと赴いたが、どうやら今は昼時のようで姿は見当たらなかった。
 セドリックとアリスティアの姿を見えないことを踏まえると、恐らく今日は食堂にて共に食事を摂っているのだろう。

「本当、あの四人は仲がいいなぁ……」

 あの四人は一年生の中では特殊な部類。普段の様子では全くそうには見えない、しかし遠回しに距離を置かれている四人だ。
 元いじめられっ子であるエリオットと転校生のアリスティアの二人は全く気が付いていないだろうが。後の二人はそこはかとなく感じ取っているはずだ。特にフレディは。
 さて、食堂にいるのなら好機と捉えていいと思う。あの場ならば僕が彼と顔を合わせたとしても、変に警戒されることはない。ーーーーフレディ以外は。

「……どうしても、フレくんが邪魔かにゃ」

 エリオットこと、エルくんを大事に大事に閉まっておきたいフレディの目の前でこの話を切り出すのは……考えなくても結果は言わずもがな。
 できることならば一人でいる時に話を切り出したいが……果たしてそんなタイミングはあるのだろうか。

『そんな難しい顔してどうしたのさ。顔がしわくちゃになっちゃうよ?』

 突如後方から響く声。リルは呆れを隠さずため息を漏らす。

「今は忙しいんだ。用事がないのならどっかに行ってくれ」

 姿形が見えない彼に向かって言葉を吐く。
 傍から見れば僕は一人でぶつぶつ喋ってる異常者だ。幸い周辺に生徒はいないが。
 一先ず食堂での様子を見てからエリオットとの接触を考えようと再度脚を動かしたーー刹那ーー

『いいの? アレ放っておいて』

 ーーーーアレ?
 後ろから伸ばされた透き通った腕の指先が指す方向へ顔を向ける。
 食堂へと続く廊下。それをじっと凝視すると、形容し難い何者かの気配がこちらまで吹き込んでくる。

「……まさかっ!!」

 もう動き出したのか!?
 リルは背後から聞こえる笑い声に耳を傾けることも無く、ただひたすら走る。何事かと此方を伺う生徒の様子を気にも止めずに。ただひたすら一直線を描くようにして食堂へと走る。

「何処だっ……!」

 食堂の入口へと辿り着くと、肩で呼吸をしながら眼鏡を外す。煌めく宝石眼で辺りを凝視する。
 あの日、アリスティアの魔力を暴走させた元凶と思われる気配に魔力。リルは確かにそれを感じ取っていた。
 だが……。

『あーあ、逃げられちゃったね』

 相手の方が上手のようだ。魔力の残滓は綺麗さっぱり無くなってしまっている。
 残念残念と、彼は笑う。今この場で小突いてやりたいが彼の姿はリル以外見えていない。そもそもリルでさえ、今は身体に触れることも不可能だ。
 そんなに笑っている余裕があるのならば手伝ってほしいくらいだ。けれど彼は絶対に手を貸さない。彼はそういう存在だからだ。

「……本当に逃げ足の早いやつだな」

 早急にどうにかしたいが、ラディーくんという手札を切るには依然として早い。
 あれは諸刃の剣。もし取り逃した場合のことを考えると、確実に仕留められる決定的瞬間に切るべきだ。

「それまでに僕がどうにかしなくちゃな……」
「……そんな所で何しているんだ?」
「オスカー先生?」
『おや? 彼は確か……』

 彼は生徒会の顧問で、確かエリオットのクラスの担任だ。
 この学園に所属する教師は野望を……あばよくばお零れを……なんて考える者がいるが、オスカーはそういうことには全く興味のない教師だ。もちろん権力だって。それもあって生徒会顧問を担当している。

「また何か取材でもしているのか?」
「いいやぁ、今日の僕は完全オフでいるつもりにゃ」
『……にゃって、相変わらず痛い子だね』

 うるさい、黙ってろ。思わず口から零れ落ちそうになる。

「オスカー先生。僕、先生に頼みごとをしたいんだ」
「お前さんがか? どうした、なにか悩みごとでも……」

 オスカーの言葉に首を振る。

「悩みごとと言えば悩みごとになるかもしれない。でもこれはこの学園を……いやその中核を担っている生徒会長を助けることが出来るんだ」

 リルの言葉に思い当たることがあるようで、オスカーの顔は一瞬暗くなる。

「オスカー先生だって、今の現状を打破したいと思っているはずだ。あの頑固者の自己犠牲の塊の生徒会長様を救うための手札が存在している。そのためにはオスカー先生、貴方の力が必要なんだ」
「……その手札というのは」

 掛かった。釣り針に魚が食い付いた。後は言葉巧みに引き上げるだけ。

「手札は……特待生でありながら委員会に属していないオスカー先生のクラスの生徒、と言えば分かるよね」
「だが、彼はーー」
「理解っている。言いたいことは全て。彼を今から生徒会に所属させますなんて言ったら、親衛隊たちが暴徒を起こす可能性が否定出来ない。ならばそれを公にしなければいい。隠し通せばいい。なんなら表向きは人員不足のさいの助っ人という立場にさせればいい」
「…………」
「そもそも、教師も生徒も彼の特別優遇に苦言を呈している者だっているはずだ。だからといって今更特定の委員会に所属させるのもリスクがある。助っ人という形ならば、多少の期間は苦言を呈している彼らも黙るはずだ」
『へぇ、でもそれただの時間稼ぎじゃん』

 うるさい、黙って聞いてろ。彼を尻目に睨み付けるとオスカーへと顔を再度向ける。

「……もし、次第に機密情報云々の関係で助っ人という形でも難しいとなったら……僕が矢面に立って事態を終息させる」
「……そんなこと、一生徒である君にやらせることなんかじゃない」
「……オスカー先生は優しいにゃぁ。僕なら大丈夫、だから先生は彼をーーエリオットをこちら側へと誘い込んでほしい。日時や場所は僕が指定するから」

 リルの言葉に、そして今の現状からエリオットという手札を切るしかない。そうオスカーは理解っていた。けれど彼は……いじめという名の犯罪行為を受け休学まで追い込まれてしまった身。そうそう頷けることは出来ない。
 だとしてもーー

「分かった。俺もできる限りのことはしよう」

 オスカーは理解っている。
 今生徒会が崩壊してしまったら、学園が揺らいでしまうことも。本来ならそんな重荷を生徒たちに背負わせるわけにはいかないことも。
 だとしても、これがこの学園の当たり前。
 魚は釣れた。今度はこの釣り上げた魚を使って、大物を釣り上げるだけだ。

『まぁ、そんな上手くいくわけないと思うけど』
「……そんなの、やってみないと分からないじゃないか……」

 決行日は2日後。それまでに舞台と観客を用意させよう。
 きっと他の委員長だって、生徒会役員たちだって、アーくんのことを心配しているのだから。
 例え直ぐ了承しなかったとしても、どんな手を使ってでも僕はこの議題を決議させてみようじゃないか。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ヒロインどこですか?

おるか
BL
妹のためにポスターを買いに行く途中、車に轢かれて死亡した俺。 妹がプレイしていた乙女ゲーム《サークレット オブ ラブ〜変わらない愛の証〜》通称《サクラ》の世界に転生したけど、攻略キャラじゃないみたいだし、前世の記憶持ってても妹がハマってただけで俺ゲームプレイしたことないしよくわからん! だけどヒロインちゃんが超絶可愛いらしいし、魔法とかあるみたいだから頑張ってみようかな。 …そう思ってたんだけど 「キョウは僕の大切な人です」 「キョウスケは俺とずっといるんだろ?」 「キョウスケは俺のもんだ」 「キョウセンパイは渡しませんっ!」 「キョウスケくんは可愛いなぁ」 「キョウ、俺以外と話すな」 …あれ、攻略キャラの様子がおかしいぞ? …あれ、乙女ゲーム史上もっとも性格が良くて超絶美少女と噂のヒロインが見つからないぞ? …あれ、乙女ゲームってこんな感じだっけ…?? 【中世をモチーフにした乙女ゲーム転生系BL小説】 ※ざまあ要素もあり。 ※基本的になんでもあり。 ※作者これが初作品になります。温かい目で見守っていて貰えるとありがたいです! ※厳しいアドバイス・感想お待ちしております。

嫌われ者だった俺が転生したら愛されまくったんですが

夏向りん
BL
小さな頃から目つきも悪く無愛想だった篤樹(あつき)は事故に遭って転生した途端美形王子様のレンに溺愛される!

隠し攻略対象者に転生したので恋愛相談に乗ってみた。~『愛の女神』なんて言う不本意な称号を付けないでください‼~

黒雨
BL
罰ゲームでやっていた乙女ゲーム『君と出会えた奇跡に感謝を』の隠し攻略対象者に転生してしまった⁉ 攻略対象者ではなくモブとして平凡平穏に生きたい...でも、無理そうなんでサポートキャラとして生きていきたいと思います! ………ちょっ、なんでヒロインや攻略対象、モブの恋のサポートをしたら『愛の女神』なんて言う不本意な称号を付けるんですか⁈ これは、暇つぶしをかねてヒロインや攻略対象の恋愛相談に乗っていたら『愛の女神』などと不本意な称号を付けられた主人公の話です。 ◆注意◆ 本作品はムーンライトノベルズさん、エブリスタさんにも投稿しております。同一の作者なのでご了承ください。アルファポリスさんが先行投稿です。 少し題名をわかりやすいように変更しました。無駄に長くてすいませんね(笑) それから、これは処女作です。つたない文章で申し訳ないですが、ゆっくり投稿していこうと思います。間違いや感想、アドバイスなどお待ちしております。ではではお楽しみくださいませ。

乙女ゲーの隠しキャラに転生したからメインストーリーとは関係なく平和に過ごそうと思う

ゆん
BL
乙女ゲーム「あなただけの光になる」は剣と魔法のファンタジー世界で舞台は貴族たちが主に通う魔法学園 魔法で男でも妊娠できるようになるので同性婚も一般的 生まれ持った属性の魔法しか使えない その中でも光、闇属性は珍しい世界__ そんなところに車に轢かれて今流行りの異世界転生しちゃったごく普通の男子高校生、佐倉真央。 そしてその転生先はすべてのエンドを回収しないと出てこず、攻略も激ムズな隠しキャラ、サフィラス・ローウェルだった!! サフィラスは間違った攻略をしてしまうと死亡エンドや闇堕ちエンドなど最悪なシナリオも多いという情報があるがサフィラスが攻略対象だとわかるまではただのモブだからメインストーリーとは関係なく平和に生きていこうと思う。 __________________ 誰と結ばれるかはまだ未定ですが、主人公受けは固定です! 初投稿で拙い文章ですが読んでもらえると嬉しいです。 誤字脱字など多いと思いますがコメントで教えて下さると大変助かります…!

メインキャラ達の様子がおかしい件について

白鳩 唯斗
BL
 前世で遊んでいた乙女ゲームの世界に転生した。  サポートキャラとして、攻略対象キャラたちと過ごしていたフィンレーだが・・・・・・。  どうも攻略対象キャラ達の様子がおかしい。  ヒロインが登場しても、興味を示されないのだ。  世界を救うためにも、僕としては皆さん仲良くされて欲しいのですが・・・。  どうして僕の周りにメインキャラ達が集まるんですかっ!!  主人公が老若男女問わず好かれる話です。  登場キャラは全員闇を抱えています。  精神的に重めの描写、残酷な描写などがあります。  BL作品ですが、舞台が乙女ゲームなので、女性キャラも登場します。  恋愛というよりも、執着や依存といった重めの感情を主人公が向けられる作品となっております。

転生悪役モブは溺愛されんで良いので死にたくない!

煮卵
BL
ゲーム会社に勤めていた俺はゲームの世界の『婚約破棄』イベントの混乱で殺されてしまうモブに転生した。処刑の原因となる婚約破棄を避けるべく王子に友人として接近。なんか数ヶ月おきに繰り返される「恋人や出会いのためのお祭り」をできる限り第二皇子と過ごし、婚約破棄の原因となる主人公と出会うきっかけを徹底的に排除する。 最近では監視をつけるまでもなくいつも一緒にいたいと言い出すようになった・・・やんごとなき血筋のハンサムな王子様を淑女たちから遠ざけ男の俺とばかり過ごすように仕向けるのはちょっと申し訳ない気もしたが、俺の運命のためだ。仕方あるまい。 俺の死亡フラグは完全に回避された! ・・・と思ったら、婚約の儀の当日、「私には思い人がいるのです」 と言いやがる!一体誰だ!? その日の夜、俺はゲームの告白イベントがある薔薇園に呼び出されて・・・ ラブコメが描きたかったので書きました。

なんでも諦めてきた俺だけどヤンデレな彼が貴族の男娼になるなんて黙っていられない

迷路を跳ぶ狐
BL
 自己中な無表情と言われて、恋人と別れたクレッジは冒険者としてぼんやりした毎日を送っていた。  恋愛なんて辛いこと、もうしたくなかった。大体のことはなんでも諦めてのんびりした毎日を送っていたのに、また好きな人ができてしまう。  しかし、告白しようと思っていた大事な日に、知り合いの貴族から、その人が男娼になることを聞いたクレッジは、そんなの黙って見ていられないと止めに急ぐが、好きな人はなんだか様子がおかしくて……。

転生したら乙女ゲームの世界で攻略キャラを虜にしちゃいました?!

まかろに(仮)
BL
事故で死んで転生した事を思い出したらここは乙女ゲームの世界で、しかも自分は攻略キャラの暗い過去の原因のモブの男!? まぁ原因を作らなきゃ大丈夫やろと思って普通に暮らそうとするが…? ※r18は"今のところ"ありません

処理中です...