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しおりを挟むアリスティアとクライヴが、生徒会室で仲良くお茶をしている最中。
一方のエリオットは、今現在自分が置かれている状況。意味を噛み砕くことが出来ずにいた。
そう、何故ならば自分はひとけのない。何処かの教室へと拉致されていたのだ。
そもそも拉致……はされていないが、断ったら面倒くさそうだったので着いて行ったら囲まれた。それだけだ。
しかし、いじめの問題は解決しつつあったと思うのだが……何故だ?
エリオットは今この状況はいじめによる出来事だと推察するーーが、本来の理由はそれとは違っていた。
「あんたっどうしてこうなっているのか、分かってるわけ?」
いや、分かるわけないだろ。
エリオットが頭を振ると、だんっと大きく脚で床を鳴らす。
「自分の姿が分かってて言ってるのかよ!! その見た目のくせにして、アラン様と言葉を交わすなんてっ!!」
…………は?
思いもしなかった言葉に、エリオットは目を瞬かせる。
……もしかして、あの新入生歓迎会のことでも言っているのか?
目の前の生徒たちはギャンギャンと騒いでいるが、気に求めずに黙考に耽る。
恐らく生徒会長が、突き落とされた俺を助けたあの日のことを言っていると推測する。
そもそも、俺は関わる気なんてなかったし。というか、関わりたくないし。
……あれ? というか、あの日。そんな公然の前で会話なんてしてたっけ?
他に関わったとすれば呼び出しを食らった時位だろうか……。
それ以外にあったとしても、正直覚えていない。
興味自体ないしな。
「それに、あの馴れ馴れしいアリスティアとも仲が良いやつだしなっ!!」
ビシッと人差し指を向ける男子生徒。
へぇ、生徒会長のファンには男もいるのか……ん? いや、待て……。
嫌な予感がした。
もしかして……そっちが本心だったり、しないよ……な?
あれ、もしかして俺……アリスティアのせいで巻き込まれてる!?
驚愕の事実に、エリオットは頭を抑えた。
まさか、こんな事態になるとは……。アリスティアとはそれなりと適度な距離を保っていたつもりだったのだが……。
嘆息を押し殺し、この場を仕切ってるであろう男子生徒へと視線を向ける。
…………あれ?
エリオットは何処か既視感を感じた。
七三分けされている茶髪に、ちょっぴりふくよかな体型。左目元と口元にある黒子。
……以前、何処かで会ったこと、あるか?
思い出そうと、じーっと凝視する。
「なんだ、俺のことを見て慄いたか!!」
いや、別に……。
「ふふん、このガーヴェスト家の恐ろしさが分かったようだな!!」
「あーー!!」
そうだ、思い出した。
前世の旅の途中で出会った、やたら威張っていた男がそんな家名だった。
別に威張るくらいの人間はざらにいた。それでも覚えているほどの、印象深い出来事があったのだ。
あれは確か、当時のガーヴェスト家の当主とも交えた会合。街にそれはそれは凶暴な魔物が出たということで、討伐するための作戦会議をしていた時だった。
仲間の一人である、 セディールがバナナという果物を食べることにハマっていて、この日もまだ食べるのかよというほど兎に角食べ、皮をばら蒔いていた。
普段なら気にもしてなかったが、会合の場は室内。
後は言わなくても大体分かるだろう。
バナナの皮をガーヴェスト家当主が踏み、体勢を整えようと脚を踏み出せばまた皮を踏み。それを数回繰り返した後、彼は大きく転がったその拍子ーーーー頭から髪が飛んだのだ。
正確にはカツラというのが飛び、それがエヴァンの顔面へと着地を遂げた。
当時カツラという存在がさほど認知されていなかったことと、目の前で起こった信じられない出来事に俺たちは腹を抱えて笑った。
そんな出来事があれば、嫌でも覚えているだろう。
ちなみに凶暴な魔物は、ただの猪だったというオチ付きだ。
そうかそうか、あの男の子孫か……よく似てるなぁ。
吹き出しそうになるのを堪えていると、それを侮辱と捉えたのだろう。
「このぼくにそんな馬鹿にした顔を向けやがってっ」
男子生徒は一歩下がると、他の生徒たちが詠唱の準備に入った。
はぁ……何でもかんでも武力で解決しようとするなよ……。
まぁ、適当に防御でもするか。なんて思っている最中だった。
遠くの方からドドドドと走る音。心做しか教室が揺れる、そんな気がする。
「何?」
「誰か……こっちに来る?」
ざわざわとする室内。
エリオットはその姿を確認しようと、扉の方へ顔を向けるとーーーー扉は勢いよく弾け飛んだ。
それは前方の窓ガラスさえも突き破り、周辺にはガラスが散らばる。
あまりの出来事に、この場にいた皆は唖然とする。
「……なに、やっちょる」
ゆらりと現れたのは、黒いロングコートに紅い腕章。青い髪に、紫色の瞳を持つ男子生徒。
あれ……もしかしてーーーー風紀ーー
「アルテアっ!!」
男子生徒が叫ぶと、手中に鎖が顕現する。
一体それでどうするのかと傍観していると、突如それを振り回した。
それは蛍光灯を割り、黒板を傷付け、机を割る。それだけではなく、閃光弾のように魔法を次々に発動させていく。
こいつ……仮にも風紀委員じゃないのかよ!?
舌打ちをしつつ、エリオットは教室全体に防御魔法を展開させる。
別に他の生徒たちはどうでも良い。だが、これ以上備品を破壊してしまうと……この風紀委員の財布が心配だからだ。
一通り暴れ回って満足したのか、ふと動きを止めるとエリオットの方へ歩いてくる。
それをただ見つめていると、風紀委員の男子生徒がエリオットの両肩を掴む。
「おまんっ、じゃなかった、大丈夫か!!」
「それをお前が言うのかよ!!」
もっと心配すべきことがあるだろ!! なんていうエリオットの言葉は通じなかったのか、わさわさと身体を触ると「一度検査をした方がいい」有無を言わさずエリオットの腕を掴みこの場を後にした。
…………え、もしかして、あのまま放置?
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