だからっ俺は平穏に過ごしたい!!

しおぱんだ。

文字の大きさ
上 下
70 / 76

69

しおりを挟む


 アリスティアとクライヴが、生徒会室で仲良くお茶をしている最中。
 一方のエリオットは、今現在自分が置かれている状況。意味を噛み砕くことが出来ずにいた。
 そう、何故ならば自分はひとけのない。何処かの教室へと拉致されていたのだ。
 そもそも拉致……はされていないが、断ったら面倒くさそうだったので着いて行ったら囲まれた。それだけだ。
 しかし、いじめの問題は解決しつつあったと思うのだが……何故だ?
 エリオットは今この状況はいじめによる出来事だと推察するーーが、本来の理由はそれとは違っていた。

「あんたっどうしてこうなっているのか、分かってるわけ?」

 いや、分かるわけないだろ。
 エリオットが頭を振ると、だんっと大きく脚で床を鳴らす。

「自分の姿が分かってて言ってるのかよ!! その見た目のくせにして、アラン様と言葉を交わすなんてっ!!」

 …………は?
 思いもしなかった言葉に、エリオットは目を瞬かせる。
 ……もしかして、あの新入生歓迎会のことでも言っているのか?
 目の前の生徒たちはギャンギャンと騒いでいるが、気に求めずに黙考に耽る。
 恐らく生徒会長が、突き落とされた俺を助けたあの日のことを言っていると推測する。
 そもそも、俺は関わる気なんてなかったし。というか、関わりたくないし。
 ……あれ? というか、あの日。そんな公然の前で会話なんてしてたっけ?
 他に関わったとすれば呼び出しを食らった時位だろうか……。
 それ以外にあったとしても、正直覚えていない。
 興味自体ないしな。

「それに、あの馴れ馴れしいアリスティアとも仲が良いやつだしなっ!!」

 ビシッと人差し指を向ける男子生徒。
 へぇ、生徒会長のファンには男もいるのか……ん? いや、待て……。
 嫌な予感がした。
 もしかして……そっちが本心だったり、しないよ……な?
 あれ、もしかして俺……アリスティアのせいで巻き込まれてる!?
 驚愕の事実に、エリオットは頭を抑えた。
 まさか、こんな事態になるとは……。アリスティアとはそれなりと適度な距離を保っていたつもりだったのだが……。
 嘆息を押し殺し、この場を仕切ってるであろう男子生徒へと視線を向ける。
 …………あれ?
 エリオットは何処か既視感を感じた。
 七三分けされている茶髪に、ちょっぴりふくよかな体型。左目元と口元にある黒子。
 ……以前、何処かで会ったこと、あるか?
 思い出そうと、じーっと凝視する。

「なんだ、俺のことを見て慄いたか!!」

 いや、別に……。

「ふふん、このガーヴェスト家の恐ろしさが分かったようだな!!」
「あーー!!」

 そうだ、思い出した。
 前世の旅の途中で出会った、やたら威張っていた男がそんな家名だった。
 別に威張るくらいの人間はざらにいた。それでも覚えているほどの、印象深い出来事があったのだ。
 あれは確か、当時のガーヴェスト家の当主とも交えた会合。街にそれはそれは凶暴な魔物が出たということで、討伐するための作戦会議をしていた時だった。
 仲間の一人である、 セディールがバナナという果物を食べることにハマっていて、この日もまだ食べるのかよというほど兎に角食べ、皮をばら蒔いていた。
 普段なら気にもしてなかったが、会合の場は室内。
 後は言わなくても大体分かるだろう。
 バナナの皮をガーヴェスト家当主が踏み、体勢を整えようと脚を踏み出せばまた皮を踏み。それを数回繰り返した後、彼は大きく転がったその拍子ーーーー頭から髪が飛んだのだ。
 正確にはカツラというのが飛び、それがエヴァンの顔面へと着地を遂げた。
 当時カツラという存在がさほど認知されていなかったことと、目の前で起こった信じられない出来事に俺たちは腹を抱えて笑った。
 そんな出来事があれば、嫌でも覚えているだろう。
 ちなみに凶暴な魔物は、ただの猪だったというオチ付きだ。
 そうかそうか、あの男の子孫か……よく似てるなぁ。
 吹き出しそうになるのを堪えていると、それを侮辱と捉えたのだろう。

「このぼくにそんな馬鹿にした顔を向けやがってっ」

 男子生徒は一歩下がると、他の生徒たちが詠唱の準備に入った。
 はぁ……何でもかんでも武力で解決しようとするなよ……。
 まぁ、適当に防御でもするか。なんて思っている最中だった。
 遠くの方からドドドドと走る音。心做しか教室が揺れる、そんな気がする。

「何?」
「誰か……こっちに来る?」

 ざわざわとする室内。
 エリオットはその姿を確認しようと、扉の方へ顔を向けるとーーーー扉は勢いよく弾け飛んだ。
 それは前方の窓ガラスさえも突き破り、周辺にはガラスが散らばる。
 あまりの出来事に、この場にいた皆は唖然とする。

「……なに、やっちょる」

 ゆらりと現れたのは、黒いロングコートに紅い腕章。青い髪に、紫色の瞳を持つ男子生徒。
 あれ……もしかしてーーーー風紀ーー

「アルテアっ!!」

 男子生徒が叫ぶと、手中に鎖が顕現する。
 一体それでどうするのかと傍観していると、突如それを振り回した。
 それは蛍光灯を割り、黒板を傷付け、机を割る。それだけではなく、閃光弾のように魔法を次々に発動させていく。
 こいつ……仮にも風紀委員じゃないのかよ!?
 舌打ちをしつつ、エリオットは教室全体に防御魔法を展開させる。
 別に他の生徒たちはどうでも良い。だが、これ以上備品を破壊してしまうと……この風紀委員の財布が心配だからだ。
 一通り暴れ回って満足したのか、ふと動きを止めるとエリオットの方へ歩いてくる。
 それをただ見つめていると、風紀委員の男子生徒がエリオットの両肩を掴む。

「おまんっ、じゃなかった、大丈夫か!!」
「それをお前が言うのかよ!!」

 もっと心配すべきことがあるだろ!! なんていうエリオットの言葉は通じなかったのか、わさわさと身体を触ると「一度検査をした方がいい」有無を言わさずエリオットの腕を掴みこの場を後にした。
 …………え、もしかして、あのまま放置?
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!

ペトラ
恋愛
   ぼんやりとした意識を覚醒させながら、自分の置かれた状況を考えます。ここは、この世界は、途中まで攻略した乙女ゲームの世界だと思います。たぶん。  戦乙女≪ヴァルキュリア≫を育成する学園での、勉強あり、恋あり、戦いありの恋愛シミュレーションゲーム「ヴァルキュリア デスティニー~恋の最前線~」通称バル恋。戦乙女を育成しているのに、なぜか共学で、男子生徒が目指すのは・・・なんでしたっけ。忘れてしまいました。とにかく、前世の自分が死ぬ直前まではまっていたゲームの世界のようです。  前世は彼氏いない歴イコール年齢の、ややぽっちゃり(自己診断)享年28歳歯科衛生士でした。  悪役令嬢でもナイスバディの美少女に生まれ変わったのだから、人生楽しもう!というお話。  他サイトに連載中の話の改訂版になります。

【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします

  *  
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!? しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが吃驚して憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です! めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので! 本編完結しました! リクエストの更新が終わったら、舞踏会編をはじめる予定ですー!

某国の皇子、冒険者となる

くー
BL
俺が転生したのは、とある帝国という国の皇子だった。 転生してから10年、19歳になった俺は、兄の反対を無視して従者とともに城を抜け出すことにした。 俺の本当の望み、冒険者になる夢を叶えるために…… 異世界転生主人公がみんなから愛され、冒険を繰り広げ、成長していく物語です。 主人公は魔法使いとして、仲間と力をあわせて魔物や敵と戦います。 ※ BL要素は控えめです。 2020年1月30日(木)完結しました。

【完結】だから俺は主人公じゃない!

美兎
BL
ある日通り魔に殺された岬りおが、次に目を覚ましたら別の世界の人間になっていた。 しかもそれは腐男子な自分が好きなキャラクターがいるゲームの世界!? でも自分は名前も聞いた事もないモブキャラ。 そんなモブな自分に話しかけてきてくれた相手とは……。 主人公がいるはずなのに、攻略対象がことごとく自分に言い寄ってきて大混乱! だから、…俺は主人公じゃないんだってば!

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

悪役令嬢の双子の兄

みるきぃ
BL
『魅惑のプリンセス』というタイトルの乙女ゲームに転生した俺。転生したのはいいけど、悪役令嬢の双子の兄だった。

すべてはあなたを守るため

高菜あやめ
BL
【天然超絶美形な王太子×妾のフリした護衛】 Y国の次期国王セレスタン王太子殿下の妾になるため、はるばるX国からやってきたロキ。だが妾とは表向きの姿で、その正体はY国政府の依頼で派遣された『雇われ』護衛だ。戴冠式を一か月後に控え、殿下をあらゆる刺客から守りぬかなくてはならない。しかしこの任務、殿下に素性を知られないことが条件で、そのため武器も取り上げられ、丸腰で護衛をするとか無茶な注文をされる。ロキははたして殿下を守りぬけるのか……愛情深い王太子殿下とポンコツ護衛のほのぼの切ないラブコメディです

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢

岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか? 「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」 「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」 マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

処理中です...