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授業終了後の出来事だった。
「お二人さーん!!」
エリオットとフレディが廊下を歩いてる最中、後方から聞こえる馴染み深い声。振り向くと案の定セドリックで、人懐っこそうな笑みを見せると手を振る。
「どうしたの?」
「いやぁ、実はアリスティアの姿を見掛けへんねんけど、フレディとエリオットは知らんか?」
「僕は見掛けてないけど、エルは?」
「俺も知らないな」
思い返しても今日はアリスティアとは会っていない。
「んー、また何か事件に巻き込まれておらんかったらええけど……」
「アリスティアのことだから、会長さんのところにでも行っているんじゃないのか?」
「昨日のことを謝りに、か? 確かにそうかもしれへんな」
うんうんとセドリックは合点したように頷く。
無意識にエリオットはセドリックのことを凝視した。
身体や頭の包帯は外され、普段通りのセドリックが確かにそこにいる。強いていえば、風紀委員の証である黒いロングコートを羽織っていないことが唯一の違い。
ふとセドリックと視線が交わる。その蜂蜜色の瞳がエリオットのことを射抜く。普段通りのはずなのに、自分を正視するその蜂蜜色の瞳がーー何処かでーー
「そういえばもう大丈夫なの?」
「ん? あぁ、もう大丈夫や。充分寝たからな」
フレディの言葉に視線は逸れる。そのことを何処か安堵している自分がいた。
何故だろう、何かがおかしい。昨日のあの事件から何かが変わった気がする。絡まって行先も分からず、解くことも不可能だった魔力の糸が複数の何かと繋がっている……という何とも不可思議な気分だ。
その一つがセドリックな気がするが……グレイディなんていう姓を持つ者とは前世とは全く関わりがない。これが生徒会長のアランだったのなら、何となく理由も察せるが……。
「ん? 君たち、一体何をしているんだ?」
風紀委員の証である黒いロングコートを靡かせながら、ディランは不思議そうに三人に声を掛ける。
「ディラン委員長やん、どないしたん? あ、もしかして自分に仕事か?」
「……は?」
「あーもう、それならそうだと電話で言ってくれたら良かったやん。ディラン委員長のいけず~」
「何をーー」
「せやったらはよ着替えんと!!」
「さっきから君は何を言っているんだ!!」
セドリックの耳を思いっきり引っ張り上げる。
「いででで!! 何するん!?」
「それは俺の台詞だ! セドリックは大事をとって数日間仕事は無しだろ!?」
「いやぁー!! 仕事がないと暇なんよ!! このままだと暇過ぎて死んでしまうわー!!」
……何だこれ。一連の流れを見てエリオットは先程まで悩んでいたのが馬鹿馬鹿しく感じた。
「すまないな、騒がしくして」
「いや、それよりディラン先輩顔色悪いですよ」
「……え?」
「せ、先輩!?」
エリオットの言葉にフレディとセドリックは驚きの声を上げる。
「え、エル……どういう、こと?」
「お二人さんっ、いつの間にそこまで親密な関係に!?」
フレディは狼狽し、セドリックは「何でや……何で自分よりディラン委員長との仲が……」なんてブツブツ呟いている。
何故先輩呼びでそこまでの衝撃を受けているんだと疑問に思っていると
「俺のことを委員長呼びすると、他の委員長と区別がつかないからな。俺からお願いしたんだ」
「で、でもそれなら自分と同じようにディラン委員長呼びでええやん!? 何故先輩呼びやねん!? 自分許可出していないんですけど?」
いや何故お前の許可がいるんだと呆れていると、隣にいるフレまでもが同意していた。
「セドリック、君はそもそも病み上がりだろ? 大人しくーー」
ディランがぽんっと軽く横腹を叩くと
「ーーい゛!?」
刹那、沈黙が訪れる。
呆然とする三人と、しまったと言わんばかりのセドリック。
暫しの沈黙を割るように口を開いたのは
「そ、そろそろ自分はお暇でもーー」
「ちょっと待て。傷を見せろ」
「い、いやぁディラン委員長……そんな怖い顔せんでも……」
この場から逃げようとするセドリックを捕まえると、ディランはセドリックのシャツを引っ張り上げようとした途端
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