だからっ俺は平穏に過ごしたい!!

しおぱんだ。

文字の大きさ
上 下
64 / 76

63

しおりを挟む
「エリオット様っ!!」
 それは突然の出来事。授業が終わり帰路を歩いている最中、突如アリスティアに呼び止められる。
 何か面倒事を押し付けられるのではないか、それとも巻き込まれるのではないのか。なんて懸念を抱きながらエリオットは振り返る。

「あれ、アリスティアどうしたの?」

 エリオットが口を開く前に、フレディは不思議そうに首を傾げ言葉を発した。
 するとアリスティアは少々恥じらいをみせながら、柔らかく微笑を浮かべる。
 普段のアリスティアのイメージとは異なるその表情を見て、思わず心臓が跳ねたーーそんな気がした。
 いや、普通に気の所為だ。気の所為。

「実はエリオット様にお礼を言いたくて」
「え、エルに?」

 フレディはエリオットへ顔を向ける。
 しかしエリオットは何かお礼を言われるようなことをした覚えはなく、呆然と二人で顔を見合わせた。
 アリスティアは二人の様子を見てくすくすと笑うと胸に手を当て「セドリック様から聞きました。エリオット様がセドリック様に知らせてくれたお陰で、私は制裁を受けることがなく怪我一つせずにいられました」と再度笑った。
 その言葉に「あ」言葉を漏らす。空き教室で隠れている時のことを思い出し、その時セドリックはアリスティアにそんな会話をしていたと。
 ……正直あの騒動の後で完全に忘れていた。

「それだけですわ。ではわたくしは失礼します」

 上機嫌な様子でアリスティアは女子寮へ続く道を歩いていった。
 二人残されたこの場で横にいるフレディは笑った。

「エル、アリスティアのこと苦手って言ってたけど優しいね」

 なんて、笑うフレディを見てエリオットは不可抗力だと唇を尖らせる。

「別に、あれはたまたまセドリックに会ったから言っただけだよ」
「でも、不審なことを伝えることは優しさだと思うよ」

 ……確かにフレディの言う通りかもしれないと、無意識にエリオットは目を伏せた。
 現代はこれといって争いもなく平和な日常が流れているが、昔は違った。
 一つでも不審な芽を摘む事が出来なければ、それが次第に国を揺るがす大事件に発展ーーなんていう事件もあったのだ。……まぁ、それは事前に防いだのだが、件の呪具は辺境の村に蔓延したのは今や歴史上から消えているに等しい。

「でもアリスティア……元気そうで良かったね」

 憂いを帯びた表情は夕焼けに溶ける。
 エリオットは特に言葉という言葉を述べずに「……そうだな」と短く返事をした。
 実際のところ魔力の暴走の原因は不明であり、恐らくアリスティアの不手際として処理されるであろう。
 転校生は入学試験よりも遥かに難易度が高いとされる編入試験を受け、そうしてこの学園の門をくぐることが出来るのだ。
 それに加えて希少と言われる光属性の持ち主。当人のプレッシャーも、周りからの重圧も計り知れない。そんな最中起こった事件。
 ーーーー何も起こらなければいいんだが。
 エリオットは無意識に女子寮の方へ視線を向けた。

◇◇◇

 夜の帳が落ちた頃、夜食として簡単にレトルトカレーを作っている最中ーーふと校舎の方へと目をやる。
 ここからでは校舎はよく見えないが、あの違和感の正体とアリスティアの魔力の暴走に因果関係がある様な気がしてならなかった。
 それは思考を巡らす度に深まっていく、が。答えは導き出せずにいる。
 だが答えはきっとあの違和感にある。黙示録の異変とーーーー微かに感じた魔力の残滓。それは何処かで感じたことのある魔力だった。
 茹で上がったレトルトカレーを白米を乗せた皿へよそうと、歴史本を手に取る。
 この世界の表向きの歴史では、シグルドが魔神王を倒し世界に平和をもたらした結果自然も蘇り、あの時代と比べると災厄の予兆も事件もない平和そのもの。
 魔法もあの頃に比べたら扱える人も増え、貧富の差も埋まってきている。が、何処か腑に落ちない。
 何かを忘れているような気がしてならないのだ。
 黙示録についてーー何か、重要なことをーーーーそれは忘れてはいけなかったはずなのに。

◇◇◇

「……今日は一体どうしたのかしら、突然魔力が暴走するなんて」
 部屋で一人、アリスティアは自分の両手を正視していた。
 今まで魔力が暴走することなんてなかった。それは魔力が覚醒した幼少期でさえ。だからこそ魔力操作も意図も簡単に操作出来た。
 同じ歳の子が苦戦している最中、一発で成功してしまったのだから少々周りの目が痛かったけれど。
 だから魔力が暴走する予兆……とは言えないかもだけど、突然ーーーーそんな気がしてならない。
 だけど、そんなことが可能なのだろうか。魔法陣の主導権を取られることは実際昔あったようだけど、杖を握られるだけで主導権が第三者に移るーーなんて。
 魔法陣に関しては式を書き換えたから成し得た技である。だからこそ式などが存在しないーー否可視化されていない杖を媒介としてーーーー

「あ~もうっ! 分からないわよ!!」

 アリスティアは希少である光属性の魔法が扱えるとはいえ、その威力は現時点では高くない。乗っ取るとしてもメリットは無いに等しいのだ。
 もし乗っ取るのならアラン様やディラン様、或いは他の特待生を選択すべきだ。
 例え何かしらの制限があったとしても、条件に合う者が一人くらいいるだろう。
 だけどもし乗っ取って何かをする、というよりーーーー

「……騒動を起こし、場を混乱させるため……とか?」

 核心に迫った気がしたが、違うと頭を振る。
 もしそうだとしても学園内では不審者どころか、監視カメラには何一つ不審な者は映り込んでいなかったと先生たちが言っていた。
 見えないーーという代名詞はお化けーー所謂幽霊だが。実態を持たない幽霊に乗っ取られるなんて、そんなの聞いたこともない。
 いくら考えに耽っても何一つ分からないじまい。
 でもーーーー

「セドリック様、かっこよかったなぁ」

 拳で攻撃するキャラは昔から好きで、ゲームの戦闘では一番爽快感が感じられてよく使用していた。
 軽い身のこなしに加えて、丈が長めの衣装や、装飾があしらわれていると眼福極まりない。
 勿論、この世界は剣と魔法のファンタジーだから剣を振るうアラン様もかっこいいけど!!
 でも肝心の乙女ゲームのイベントの進捗は芳しくない。
 このままでは誰のルートにも入らずに頓挫してしまいそうだ。
 ……やっぱり、あの二人に会いに行くべきかしら。
 アリスティアは頭の中でそう考えると、まるで幼い子供が見せるような愛嬌に満ち溢れた笑みを見せたのであった。
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!

ペトラ
恋愛
   ぼんやりとした意識を覚醒させながら、自分の置かれた状況を考えます。ここは、この世界は、途中まで攻略した乙女ゲームの世界だと思います。たぶん。  戦乙女≪ヴァルキュリア≫を育成する学園での、勉強あり、恋あり、戦いありの恋愛シミュレーションゲーム「ヴァルキュリア デスティニー~恋の最前線~」通称バル恋。戦乙女を育成しているのに、なぜか共学で、男子生徒が目指すのは・・・なんでしたっけ。忘れてしまいました。とにかく、前世の自分が死ぬ直前まではまっていたゲームの世界のようです。  前世は彼氏いない歴イコール年齢の、ややぽっちゃり(自己診断)享年28歳歯科衛生士でした。  悪役令嬢でもナイスバディの美少女に生まれ変わったのだから、人生楽しもう!というお話。  他サイトに連載中の話の改訂版になります。

【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします

  *  
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!? しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが吃驚して憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です! めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので! 本編完結しました! リクエストの更新が終わったら、舞踏会編をはじめる予定ですー!

某国の皇子、冒険者となる

くー
BL
俺が転生したのは、とある帝国という国の皇子だった。 転生してから10年、19歳になった俺は、兄の反対を無視して従者とともに城を抜け出すことにした。 俺の本当の望み、冒険者になる夢を叶えるために…… 異世界転生主人公がみんなから愛され、冒険を繰り広げ、成長していく物語です。 主人公は魔法使いとして、仲間と力をあわせて魔物や敵と戦います。 ※ BL要素は控えめです。 2020年1月30日(木)完結しました。

【完結】だから俺は主人公じゃない!

美兎
BL
ある日通り魔に殺された岬りおが、次に目を覚ましたら別の世界の人間になっていた。 しかもそれは腐男子な自分が好きなキャラクターがいるゲームの世界!? でも自分は名前も聞いた事もないモブキャラ。 そんなモブな自分に話しかけてきてくれた相手とは……。 主人公がいるはずなのに、攻略対象がことごとく自分に言い寄ってきて大混乱! だから、…俺は主人公じゃないんだってば!

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

悪役令嬢の双子の兄

みるきぃ
BL
『魅惑のプリンセス』というタイトルの乙女ゲームに転生した俺。転生したのはいいけど、悪役令嬢の双子の兄だった。

すべてはあなたを守るため

高菜あやめ
BL
【天然超絶美形な王太子×妾のフリした護衛】 Y国の次期国王セレスタン王太子殿下の妾になるため、はるばるX国からやってきたロキ。だが妾とは表向きの姿で、その正体はY国政府の依頼で派遣された『雇われ』護衛だ。戴冠式を一か月後に控え、殿下をあらゆる刺客から守りぬかなくてはならない。しかしこの任務、殿下に素性を知られないことが条件で、そのため武器も取り上げられ、丸腰で護衛をするとか無茶な注文をされる。ロキははたして殿下を守りぬけるのか……愛情深い王太子殿下とポンコツ護衛のほのぼの切ないラブコメディです

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢

岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか? 「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」 「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」 マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

処理中です...