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「よく今まで頑張って抑え込んだにゃ。後は僕に任せて」
アリスティアを抱き寄せるように、リル・ロンズデールは眼鏡を外す。レンズ越しに隠れていた煌めく紫色の宝石眼が顕わになると。
「――散れ」
一言。たった一言で暴走していた魔力は霧散し、あっけなく騒動は幕を閉じた。
「あ、ありがとうごさいましたっ!」
「いやいや大丈夫にゃ。……アーくん胸なんか抑えてどうしたんだい」
眼鏡を掛け、リルは素気無さを感じる声色でアランに問い掛ける。
「……いや、何でもねぇよ」
「……ふーん」
この感じだと、ディーくんにも伝わってそうだな。その元凶を探しに行き消滅させたいが、如何せん見失ってしまった。意外にも魔力の痕跡を消すのも得意ようだ。
……早いとこを芽をつぶさなくては。
ふと後ろを振り返るとエリオットが呆然と突っ立っていた。
……あぁ、アリスティアの魔力暴走を止めようとしていたんだ。その意気込みは感嘆に値するよ。
「やあ、エルくん。元気かにゃ?」
既に空気化していたエリオットは突然の言葉に体が飛び跳ねると、ぺこりと会釈をする。
リルが現れたことは、勿論エリオットは吃驚していた。この騒動のせいか、気配が感じ取れなかったからだ。
でもそれより吃驚したことは……。
あの眼……まさかまだあの一族は存在しているのか? 魔女狩り基、宝石眼狩りによって既に潰えたと思っていたが……。
こうして騒動が終幕し、アリスティアは先生たちから魔力検査をしてもらっている横で、リルは校舎の方へ視線を向けた。
……ラディーくんなら何か解りそうだけど、まだ手札を切るには尚早かな。
向こうがまだ手出しをしていない段階では、此方は手の施しようがない。
せめて問題事が起こる前に仕留めたいが……仕留め損なった今では難儀であろう。
……これはもう、仕方がないってことかな。
リルは静かに息を吐いた。
◇◇◇
「いやぁ~ほんまびっくりしたわ」
「セドリック様……本当に申し訳ございませんでしたっ!!」
「いやいや大丈夫やで。あれは故意ではなく暴走だったんだからなぁ。他の皆もそれは分かっているはずやねん
現在は保健室。気を失って倒れたセドリックの元へ、三人は駆けつけていた。
身体や頭に包帯を巻いている姿は痛々しいが、ヘラヘラと捉えようのない普段の表情と相まって厨二病感はある意味増している。
「でも、大した怪我じゃなくて良かったね」
「そうだな。思いっきり直撃していたからあばらの骨でも折っているかと思っていたが……」
「いやいや自分、意外に頑丈なんやで? あれくらいなら大したことやないわ」
……まぁ、今回は少々痛みはあるんやけどと、横腹をそっと撫でるとピリッと痛みが走る。
だがそんなことをこの三人に言うべきではないだろう。特にアリスティアの前では尚更だ。
セドリックは顔を上げ、にへらと笑うと口を開いた。
「せや、御三方は授業大丈夫なん? そろそろ時間やと思うんやが…」
その言葉に、あっとフレディは思い出したかのように時計に視線を向けた。
時刻はそろそろ六時間目が始まる三分前を指していた。
正直あの騒動があったというのに普通に授業があるというのは少々辟易してしまう。
意識せずにエリオットはため息を吐く。
いや本音を言うとリルが何かを探すように学園内を歩き回っていることと、黙示録の異変。そしてアリスティアの魔力暴走。この三つが関連しているような気がし、心が休まらない。
……それに……。
「本当だ。もう僕たちはお暇しようか」
「いや、こいつ一人で大丈夫なのか?」
あまりに意外なエリオットの言葉にフレディだけではなく、アリスティアとセドリックも顔を向けた。
エリオット本人も驚いた様に瞠目していた。
「なんやぁ、エリオット。漸く自分に対してデレ期でも来たんか?」
茶化すようにそう言葉を発すると、エリオットはハッとした様子で手を振った。
「ち、違う。ただ……いや気にしないでくれ」
何かを言いたげであったが、言葉に詰まると息を吐いて頭を振った。
……今回の件が……巻き込まれたのは前世と関係があるなんて……そんなわけがないだろう。
「そ、そう? じゃあそろそろ行こうか」
「セドリック様の代わりにノートとっておきますわね」
「おーありがとさん」
保健室の外へと歩き出した三人にセドリックは手を振ると、ふとエリオットは振り向く。
「ん? どうしたんや、エーー」
その表情は普段のエリオットとは違った。見た目はエリオット本人なのに、中身が違う。何処か遠くを、自分ではない誰かを見つめている、そんな言葉に表し難い表情。
エリオットは踵を返すと、セドリックの額に人差し指を当てる。
「ん? どうしたんや? 自分に願掛けでもしてるんか?」
普段でさえここまで距離を詰められることも、触れられることもないというのに、今日のエリオットは何処か様子が変であった。
だが、それには理由が存在していた。
「これは……」
何とも言えない違和感。気の所為だと思われるのに、本能が目の前にいるセドリックを独りにしてはいけない。エリオットの直感はそう訴え掛けていた。
きっと前世と何か関連しているのではないかという考えが過ぎってしまったからだ。と、答えを出すとーー
「まぁ、ある意味願掛けだな」
念の為、そっと魔法を掛ける。
何故なのか分からない。セドリックとはこの学園で初めてあったはずなのに、何処か懐かしさを感じるマナの気配。
だから、きっと気まぐれだろう。
「エル、どうしたの? 授業もう始まっちゃうよ」
「ああ、今行く」
エリオットは慌ただしく保健室を後にした。
「……なんや? 今日のエリオットは変やなぁ」
自分を通して誰かを見ている、そんな視線。
そんな自分もエリオットに謎の既視感を覚えていた。
思い返せば初めて会ったあの日から、何処か放っておけなかった。
……まぁ、そんなことは全て気の所為なんやろうけど。
アリスティアを抱き寄せるように、リル・ロンズデールは眼鏡を外す。レンズ越しに隠れていた煌めく紫色の宝石眼が顕わになると。
「――散れ」
一言。たった一言で暴走していた魔力は霧散し、あっけなく騒動は幕を閉じた。
「あ、ありがとうごさいましたっ!」
「いやいや大丈夫にゃ。……アーくん胸なんか抑えてどうしたんだい」
眼鏡を掛け、リルは素気無さを感じる声色でアランに問い掛ける。
「……いや、何でもねぇよ」
「……ふーん」
この感じだと、ディーくんにも伝わってそうだな。その元凶を探しに行き消滅させたいが、如何せん見失ってしまった。意外にも魔力の痕跡を消すのも得意ようだ。
……早いとこを芽をつぶさなくては。
ふと後ろを振り返るとエリオットが呆然と突っ立っていた。
……あぁ、アリスティアの魔力暴走を止めようとしていたんだ。その意気込みは感嘆に値するよ。
「やあ、エルくん。元気かにゃ?」
既に空気化していたエリオットは突然の言葉に体が飛び跳ねると、ぺこりと会釈をする。
リルが現れたことは、勿論エリオットは吃驚していた。この騒動のせいか、気配が感じ取れなかったからだ。
でもそれより吃驚したことは……。
あの眼……まさかまだあの一族は存在しているのか? 魔女狩り基、宝石眼狩りによって既に潰えたと思っていたが……。
こうして騒動が終幕し、アリスティアは先生たちから魔力検査をしてもらっている横で、リルは校舎の方へ視線を向けた。
……ラディーくんなら何か解りそうだけど、まだ手札を切るには尚早かな。
向こうがまだ手出しをしていない段階では、此方は手の施しようがない。
せめて問題事が起こる前に仕留めたいが……仕留め損なった今では難儀であろう。
……これはもう、仕方がないってことかな。
リルは静かに息を吐いた。
◇◇◇
「いやぁ~ほんまびっくりしたわ」
「セドリック様……本当に申し訳ございませんでしたっ!!」
「いやいや大丈夫やで。あれは故意ではなく暴走だったんだからなぁ。他の皆もそれは分かっているはずやねん
現在は保健室。気を失って倒れたセドリックの元へ、三人は駆けつけていた。
身体や頭に包帯を巻いている姿は痛々しいが、ヘラヘラと捉えようのない普段の表情と相まって厨二病感はある意味増している。
「でも、大した怪我じゃなくて良かったね」
「そうだな。思いっきり直撃していたからあばらの骨でも折っているかと思っていたが……」
「いやいや自分、意外に頑丈なんやで? あれくらいなら大したことやないわ」
……まぁ、今回は少々痛みはあるんやけどと、横腹をそっと撫でるとピリッと痛みが走る。
だがそんなことをこの三人に言うべきではないだろう。特にアリスティアの前では尚更だ。
セドリックは顔を上げ、にへらと笑うと口を開いた。
「せや、御三方は授業大丈夫なん? そろそろ時間やと思うんやが…」
その言葉に、あっとフレディは思い出したかのように時計に視線を向けた。
時刻はそろそろ六時間目が始まる三分前を指していた。
正直あの騒動があったというのに普通に授業があるというのは少々辟易してしまう。
意識せずにエリオットはため息を吐く。
いや本音を言うとリルが何かを探すように学園内を歩き回っていることと、黙示録の異変。そしてアリスティアの魔力暴走。この三つが関連しているような気がし、心が休まらない。
……それに……。
「本当だ。もう僕たちはお暇しようか」
「いや、こいつ一人で大丈夫なのか?」
あまりに意外なエリオットの言葉にフレディだけではなく、アリスティアとセドリックも顔を向けた。
エリオット本人も驚いた様に瞠目していた。
「なんやぁ、エリオット。漸く自分に対してデレ期でも来たんか?」
茶化すようにそう言葉を発すると、エリオットはハッとした様子で手を振った。
「ち、違う。ただ……いや気にしないでくれ」
何かを言いたげであったが、言葉に詰まると息を吐いて頭を振った。
……今回の件が……巻き込まれたのは前世と関係があるなんて……そんなわけがないだろう。
「そ、そう? じゃあそろそろ行こうか」
「セドリック様の代わりにノートとっておきますわね」
「おーありがとさん」
保健室の外へと歩き出した三人にセドリックは手を振ると、ふとエリオットは振り向く。
「ん? どうしたんや、エーー」
その表情は普段のエリオットとは違った。見た目はエリオット本人なのに、中身が違う。何処か遠くを、自分ではない誰かを見つめている、そんな言葉に表し難い表情。
エリオットは踵を返すと、セドリックの額に人差し指を当てる。
「ん? どうしたんや? 自分に願掛けでもしてるんか?」
普段でさえここまで距離を詰められることも、触れられることもないというのに、今日のエリオットは何処か様子が変であった。
だが、それには理由が存在していた。
「これは……」
何とも言えない違和感。気の所為だと思われるのに、本能が目の前にいるセドリックを独りにしてはいけない。エリオットの直感はそう訴え掛けていた。
きっと前世と何か関連しているのではないかという考えが過ぎってしまったからだ。と、答えを出すとーー
「まぁ、ある意味願掛けだな」
念の為、そっと魔法を掛ける。
何故なのか分からない。セドリックとはこの学園で初めてあったはずなのに、何処か懐かしさを感じるマナの気配。
だから、きっと気まぐれだろう。
「エル、どうしたの? 授業もう始まっちゃうよ」
「ああ、今行く」
エリオットは慌ただしく保健室を後にした。
「……なんや? 今日のエリオットは変やなぁ」
自分を通して誰かを見ている、そんな視線。
そんな自分もエリオットに謎の既視感を覚えていた。
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