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しおりを挟む「あら? え? このドア、建付けが悪いのかしら?」
ドアを開かせなければいいだけだ。
この程度の魔法なら言葉を発することもなく、簡単に術式を組み立てることが自分なら可能だ。
これでどうにか時間を稼ぎセドリックが辿り着くまで待つか……それかアリスティアが諦めてくれればいいのだが……。
考えたくはないが、「実を言うと、こう見えてドアの一つくらい破壊できる強靭な肉体の持ち主です☆」なんてことがあったら……。
いやいや、握力がゴリラ並だとしても肉体までそうはないだろう。
アリスティアは、他の女性が羨むであろうスラッとした細身の体だ。「服を脱ぐと筋肉ダルマになってしまうので、特殊な魔法が掛けられた服しか着れないんです……」なんていうことがない限り、このドアが破壊されることがない……はずだ。
筋力が魔力より勝るという憶測だとしても、それはそれで怖いっ……。
『……あー、そういうことか』
ふと、携帯電話からセドリックの声が届く。まるで、一連の流れ全てを納得したかのように。
「アリスティア」
「せ、セドリック様!? どうしたんですか?」
「どうしたもこうしたも、一人で行動するのは危ないやってぎょーさん言うたやん。また同じことになるで?」
また同じこと? 何かあったのか。
「でも、きっと風紀委員の方々が見回りしてくれているはずなので大丈夫ですよ」
「見回りって言ってもなぁ……」
セドリックは呆れたかのように肩を竦めた。
「そんなのしてたとしても、次は見付けられるかも分からんやで? 今回はたまたまエリオットが知らせてくれたから助かったんや」
「……は?」
思いもよらぬ名前の登場に言葉をこぼした。
え? は? え?? ちょ、ちょっと待ってくれ!!
何故そこで俺の名前が登場するんだよ!!
「え? エリオット様が?」
アリスティアは嬉しそうに言葉を弾ませる。
「エリオット、何かしたの?」
頭を抱えたエリオットに、エドワードは言葉を掛けるが……
「モウワカラナイ、シラナイ」
棒読みなカタコトでしか言葉は返せなかった。
それほどエリオットにとっては衝撃な発言で、アリスティアとの距離感を縮めてしまう出来事となってしまったのだ。
いつの間にかに復活していたディランにも「大丈夫か?」と慰めの言葉を掛けられるが返事をする気力は消え去っていた。
「そやで? エリオットがな、アリスティアが珍しく誰かと話をしていたからって教えてくれたんや。それでな、嫌な予感がして空き教室を探したら……」
「そうだったのでしたね。セドリック様もエリオット様にも迷惑を掛けてしまったのですね」
「せやから、アリスティアは——」
一人で行動するのは控えるようにと言うセドリックの言葉を遮り、アリスティアは微笑を浮かべた。
「わたくし、エリオット様にお礼を言わなくてはならないですわね」
「確かにそうやけど……って、そやアリスティア。そろそろ授業が始まるんや。早いとこ授業へ向かわんと」
セドリックの言葉に、アリスティアは「あっ」と思い出したかのようにハッとする。
「そうでしたわ! このままでは遅刻してしまいます!!」
足音を大きく立て、慌ただしく二人はこの場を去って行った。
空き教室の向こう側の廊下はあっという間に静謐に包まれた。
「……ふぅ、難を逃れたな」
「うん。エリオット、エドたちも授業、向かわないと。……エリオット?」
…………何だか、色々めんどくさい事になった気がする。
だからといって授業をサボる理由にはならない。
エリオットはエドワードの言葉に力なく返事することしか出来なかった。
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