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しおりを挟むスっと引き止める間もなくセドリックはアリスティアから離れる。
「いちびんのも大概にしときや」
伸ばし損ねた手の先にいるセドリックの声色が怒気を含んでいた。
そこにはいつものヘラヘラしているセドリックはおらず、まるで二重人格なのではと思うほどの様変わりした表情。
「それなら自分があんたらに同じこと……やってやるで?」
ボキッと拳を鳴らす。
自分に向けられたわけではないのに、アリスティアは息を呑む。
そうだ。セドリック様は時より人が変わったかのような態度になる。
そして、風紀委員会の中では一番の腕っ節の持ち主だ。
闇雲に暴れまくる猪突猛進のジェラールよりも、確かな腕を持つ。
「なんや、どうしたん? あんたらが言ったんやろ? 殴り飛ばさないと気が済まないって」
「……そ、その……」
「ん?」
首を傾げた刹那。
「いやぁぁぁ!!!」
親衛隊たちは突然悲鳴をあげながら蜘蛛の子のようにこの場から逃げ出した。
「ちょっと!? 待ちなさい!! 私を置いて行くなんてっ!!」
一足遅れて、権力者である女子生徒もこの場から逃げ出した。
ぽつんと、二人取り残されたこの空間。
「せ、セドリック様?」
おずおずと、言葉を投げ掛ける。
「いやぁ~、ほんまびっくりしたわ。もし相手が襲いかかってきたら一大事だったわぁ。流石に女の子に手を出す訳にもいかんし」
セドリックはアリスティアの方へ顔を向けると、その表情はいつも通りヘラヘラとしていた。
先程とのあまりのギャップに、アリスティアは動揺を隠せなかった。
「……アリスティア? 大丈夫か?」
ゲームの世界ならばヒロインを守るなんてかっこいい~なんて思ったと思うけれど、実際この場にいるとあの殺伐とした空気に押しつぶされそうになる……。
そもそもセドリック様は人間不信。ヒロインであるわたくしに向けられているこの微笑もきっと紛い物だろう。
でも……今はそうだとしても、いつかゲームのHappy Endのような笑顔を見せてくれると信じてる。
「……えぇ、大丈夫。ありがとうございます。セドリック様」
——だって、わたくしはヒロインなのだから。
「あっ!! そうよ、セドリック様!! ジェラール様は今どうしていらっしゃるの??」
そう、このイベントは本来ジェラールの出会いイベントのはずだったのだ。
「ジェラール副委員長? それなら、ディラン委員長と一緒に風紀委員室にいるはずやで?」
エリオットと会う前、一人風紀委員室に寄っていたセドリックは確かに二人はいたはずだと思い返す。
「そ、そうなんですか……」
ジェラール様が動いていないとなると、やはりバグということなのかしら。
それとも何か……ゲームには存在していなかったバグとなるイレギュラーな因子がこの学園内にある、とかでしょうか?
でも、それならそれで仕方がない。他の人に手当り次第アタックすべきっ!!
「セドリック様、本当にありがとうございました!!」
「お、おぅ……」
アリスティアは意気揚々と、この場を後にした。
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