48 / 76
47
しおりを挟む◇◇◇
ズルズルと食堂から引きずり出され、歩いていると……。
ん? あれは、アリスティアか?
珍しくアリスティアはセドリックではなく、見知らぬ誰かと話しているようだった。
話をしている相手はアリスティアに敵意を向けているようだが、それに気付く前にエリオットはその場から離れていった。
「……えと、それで俺に何の用があるんですか?」
食堂から少し離れた、人気が少ない廊下。
何度考えても、自分が何故広報委員会の委員長に声を掛けられた理由が思い付かない。
「ん~ただの世間話がしたかっただけにゃ。最近学園生活とかはどうなのにゃぁ?」
「どうっ……て」
特に変わり映えはしていない。最早アリスティアやセドリックに関しては日常生活の一部になりつつあるからだ。
それより、今はとにかくこの目の前にいる広報委員会委員長のリルの語尾である『にゃ』が気になって仕方がない。
猫なのか? 猫の真似でもしているのか??
「まぁ、今の君は大丈夫そうだし。ここは僕の書いた新聞でも見てもらおう!!」
何処から出したのか分からない大きな紙を出すと、エリオットに突きつける。
「最近一番売れた新聞なのにゃ~」
嬉しそうに笑うリルが突きつけた新聞の内容は、あの新入生歓迎会で謎の爆笑が巻き起こったディランについてであった。
それを見たエリオットは、純粋にただこのような新聞のネタにされてしまったディランに対して苦衷を抱いた。
「……新聞って有料だったんですね」
「いや? 無料公開してるよ。でも、保管用として欲しい人は自費で買うことも出来るんだにゃ」
「……へぇ」
ということは、この学園内の人たちはディラン委員長の黒歴史を金で買い保管してるということか。…………なんだか、可哀想だな。
どこか感傷的な気持ちを抱いていると、先程とはリルの表情が一転する。
「……僕さ、実はちょっと君に訊きたいことがあったんだ」
「訊きたい、こと?」
神妙な面持ちのリルに、エリオットは生唾を飲んだ。
「そう。どうやら君があの新入生歓迎会の事件の被害者なんだって? どうしてそんな被害者である君は加害者である彼らを許したのか、僕はどうしても気になったんだ」
流石広報委員会。まだ一般的に出回っていないあの事件のことを既に耳にしてるとは。……地獄耳とは、こういうことなのか。
「別に、ただ後々面倒事に巻き込まれるような気がしたからだ。俺はフレと共に平穏に過ごしたいだけだからな」
「……ふーん。本当にそうなのかにゃ~?」
事実を言っただけなのだが、何処か腑に落ちない様子のリルは品定めをするようにエリオットを凝視する。
それが何処か気まずさを感じ、視線をずらそうとした時————
……あれ?
エリオットはリルに対し、何かを感じ取った。
紫色の瞳。それは普通に存在している色の瞳だが、リルの瞳は普通の人とは何処か違う雰囲気を漂わせていた。
それに、あの眼鏡……魔道具、か?
一見普通の眼鏡にしか見えないが、レンズの部分だけ微かに魔力を感じる。
「……まぁ、僕はそれだけを訊きたかっただけだよ」
突如リルは一歩後ろへ下がると、
「このまま君と話し続けていると、フレくんが怒りそうだしね」
あはは、と失笑した。
あ、そうだ。フレを待たせてるんだ。それに、俺の食べかけのオムライスも!!
「じゃあ、そういうことで。せっかくだからこれからはエルくんって呼ばせてもらうにゃ」
じゃあね~と、リルは足早にこの場を後にした。
結局よく分からなかったが、まさかあの一連の事件の記事でも書くのだろうか。
出来ればそれだけはやめてもらいたい。
絶対に被害者が俺だとバレてしまうからだ。
それでは、平穏な日々を過ごせないじゃないか。
「あ、それより早く戻らないとっ!!」
食堂へ戻るために走っていると
「お、エリオット。そんなに急いで何処に行くん?」
風紀委員の正装である、黒いロングコートに身を包んでいるセドリックに呼び止められる。
「いや、ちょっと食堂に……」
「今から食堂に行くん? 何か用でもあったんか?」
「……まぁ、そんなところだな」
あの広報委員会の委員長であるリルに連れ出されなければ、今頃次の授業の準備をしているところだったんだろうけど。
「あ、そういえば」
セドリックと別れようとした時、エリオットは思い出したかのように口を開く。
「そういえば、珍しくアリスティアが誰かと話していたな」
「…………? 誰か、と?」
「少し前までそこら辺にいたんだが……もう教室にでも戻ったのか?」
「…………まさかっ」
「え!? お、おい。どうしたんだよ!」
エリオットの言葉を聞き何かを察したのか、セドリックは血相を変えて突然廊下を駆けて行った。
暫しの間、その場に立ちすくんでいたエリオットであったが、直ぐにフレディとオムライスを待たせていることを思い出し、食堂へと足早に向かって行った。
31
お気に入りに追加
738
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!
ペトラ
恋愛
ぼんやりとした意識を覚醒させながら、自分の置かれた状況を考えます。ここは、この世界は、途中まで攻略した乙女ゲームの世界だと思います。たぶん。
戦乙女≪ヴァルキュリア≫を育成する学園での、勉強あり、恋あり、戦いありの恋愛シミュレーションゲーム「ヴァルキュリア デスティニー~恋の最前線~」通称バル恋。戦乙女を育成しているのに、なぜか共学で、男子生徒が目指すのは・・・なんでしたっけ。忘れてしまいました。とにかく、前世の自分が死ぬ直前まではまっていたゲームの世界のようです。
前世は彼氏いない歴イコール年齢の、ややぽっちゃり(自己診断)享年28歳歯科衛生士でした。
悪役令嬢でもナイスバディの美少女に生まれ変わったのだから、人生楽しもう!というお話。
他サイトに連載中の話の改訂版になります。
【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします
*
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!?
しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが吃驚して憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です!
めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので!
本編完結しました!
リクエストの更新が終わったら、舞踏会編をはじめる予定ですー!
某国の皇子、冒険者となる
くー
BL
俺が転生したのは、とある帝国という国の皇子だった。
転生してから10年、19歳になった俺は、兄の反対を無視して従者とともに城を抜け出すことにした。
俺の本当の望み、冒険者になる夢を叶えるために……
異世界転生主人公がみんなから愛され、冒険を繰り広げ、成長していく物語です。
主人公は魔法使いとして、仲間と力をあわせて魔物や敵と戦います。
※ BL要素は控えめです。
2020年1月30日(木)完結しました。
【完結】だから俺は主人公じゃない!
美兎
BL
ある日通り魔に殺された岬りおが、次に目を覚ましたら別の世界の人間になっていた。
しかもそれは腐男子な自分が好きなキャラクターがいるゲームの世界!?
でも自分は名前も聞いた事もないモブキャラ。
そんなモブな自分に話しかけてきてくれた相手とは……。
主人公がいるはずなのに、攻略対象がことごとく自分に言い寄ってきて大混乱!
だから、…俺は主人公じゃないんだってば!
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

すべてはあなたを守るため
高菜あやめ
BL
【天然超絶美形な王太子×妾のフリした護衛】 Y国の次期国王セレスタン王太子殿下の妾になるため、はるばるX国からやってきたロキ。だが妾とは表向きの姿で、その正体はY国政府の依頼で派遣された『雇われ』護衛だ。戴冠式を一か月後に控え、殿下をあらゆる刺客から守りぬかなくてはならない。しかしこの任務、殿下に素性を知られないことが条件で、そのため武器も取り上げられ、丸腰で護衛をするとか無茶な注文をされる。ロキははたして殿下を守りぬけるのか……愛情深い王太子殿下とポンコツ護衛のほのぼの切ないラブコメディです

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢
岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか?
「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」
「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」
マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる