だからっ俺は平穏に過ごしたい!!

しおぱんだ。

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◇◇◇

 ズルズルと食堂から引きずり出され、歩いていると……。
 ん? あれは、アリスティアか?
 珍しくアリスティアはセドリックではなく、見知らぬ誰かと話しているようだった。
 話をしている相手はアリスティアに敵意を向けているようだが、それに気付く前にエリオットはその場から離れていった。

「……えと、それで俺に何の用があるんですか?」

 食堂から少し離れた、人気が少ない廊下。
 何度考えても、自分が何故広報委員会の委員長に声を掛けられた理由が思い付かない。

「ん~ただの世間話がしたかっただけにゃ。最近学園生活とかはどうなのにゃぁ?」
「どうっ……て」

 特に変わり映えはしていない。最早アリスティアやセドリックに関しては日常生活の一部になりつつあるからだ。
 それより、今はとにかくこの目の前にいる広報委員会委員長のリルの語尾である『にゃ』が気になって仕方がない。
 猫なのか? 猫の真似でもしているのか??

「まぁ、は大丈夫そうだし。ここは僕の書いた新聞でも見てもらおう!!」

 何処から出したのか分からない大きな紙を出すと、エリオットに突きつける。

 「最近一番売れた新聞なのにゃ~」

 嬉しそうに笑うリルが突きつけた新聞の内容は、あの新入生歓迎会で謎の爆笑が巻き起こったディランについてであった。
 それを見たエリオットは、純粋にただこのような新聞のネタにされてしまったディランに対して苦衷くちゅうを抱いた。

「……新聞って有料だったんですね」
「いや? 無料公開してるよ。でも、保管用として欲しい人は自費で買うことも出来るんだにゃ」
「……へぇ」

 ということは、この学園内の人たちはディラン委員長の黒歴史を金で買い保管してるということか。…………なんだか、可哀想だな。
 どこか感傷的な気持ちを抱いていると、先程とはリルの表情が一転する。

「……僕さ、実はちょっと君に訊きたいことがあったんだ」
「訊きたい、こと?」

 神妙な面持ちのリルに、エリオットは生唾を飲んだ。

「そう。どうやら君があの新入生歓迎会の事件の被害者なんだって? どうしてそんな被害者である君は加害者である彼らを許したのか、僕はどうしても気になったんだ」

 流石広報委員会。まだ一般的に出回っていないあの事件のことを既に耳にしてるとは。……地獄耳とは、こういうことなのか。

「別に、ただ後々面倒事に巻き込まれるような気がしたからだ。俺はフレと共に平穏に過ごしたいだけだからな」
「……ふーん。本当にそうなのかにゃ~?」

 事実を言っただけなのだが、何処か腑に落ちない様子のリルは品定めをするようにエリオットを凝視する。
 それが何処か気まずさを感じ、視線をずらそうとした時————
 ……あれ?
 エリオットはリルに対し、何かを感じ取った。
 紫色の瞳。それは普通に存在している色の瞳だが、リルの瞳は
 それに、あの眼鏡……魔道具、か?
 一見普通の眼鏡にしか見えないが、レンズの部分だけ微かに魔力を感じる。

「……まぁ、僕はそれだけを訊きたかっただけだよ」

 突如リルは一歩後ろへ下がると、

「このまま君と話し続けていると、フレくんが怒りそうだしね」

 あはは、と失笑した。
 あ、そうだ。フレを待たせてるんだ。それに、俺の食べかけのオムライスも!!

「じゃあ、そういうことで。せっかくだからこれからはエルくんって呼ばせてもらうにゃ」

 じゃあね~と、リルは足早にこの場を後にした。
 結局よく分からなかったが、まさかあの一連の事件の記事でも書くのだろうか。
 出来ればそれだけはやめてもらいたい。
 絶対に被害者が俺だとバレてしまうからだ。
 それでは、平穏な日々を過ごせないじゃないか。

「あ、それより早く戻らないとっ!!」

 食堂へ戻るために走っていると

「お、エリオット。そんなに急いで何処に行くん?」

 風紀委員の正装である、黒いロングコートに身を包んでいるセドリックに呼び止められる。

「いや、ちょっと食堂に……」
「今から食堂に行くん? 何か用でもあったんか?」
「……まぁ、そんなところだな」

 あの広報委員会の委員長であるリルに連れ出されなければ、今頃次の授業の準備をしているところだったんだろうけど。

「あ、そういえば」

 セドリックと別れようとした時、エリオットは思い出したかのように口を開く。

「そういえば、珍しくアリスティアが誰かと話していたな」
「…………? 誰か、と?」
「少し前までそこら辺にいたんだが……もう教室にでも戻ったのか?」
「…………まさかっ」
「え!? お、おい。どうしたんだよ!」

 エリオットの言葉を聞き何かを察したのか、セドリックは血相を変えて突然廊下を駆けて行った。
 暫しの間、その場に立ちすくんでいたエリオットであったが、直ぐにフレディとオムライスを待たせていることを思い出し、食堂へと足早に向かって行った。
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