だからっ俺は平穏に過ごしたい!!

しおぱんだ。

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◇◇◇

「リル・ロンズデール? 誰だその人」

 セドリックとアリスティアがいない二人だけの昼食に、フレディが突如その名前を口にした。

「あれ? エルは会ったことないの? 広報委員会の委員長なんだけど」
「…………ちょっと分からないな……」

 あまり人に興味なかったというのもあるが、広報委員会なら新聞を作ってる委員会か。
 それなら学園内で取材とかしているだろうし、一度くらい顔を合わせたとしても不思議じゃないと思うのだが……名前を聞いても顔が浮かばない。

「フレは会ったことあるのか?」
「うん、一応……ね」

 突如、フレディの表情に影が差した。

「……? どうしたんだ」

 珍しい表情に、エリオットは尋ねた。
 すると、フレディは少々苦笑いしながら言葉を発した。

「いや、僕……実はその人苦手でね。あまり関わりたくないんだよね」
「え、それってアリスティアよりもか?」
「どうして彼女の名前が出てくるのか分からないけど、そうだね。アリスティアよりも苦手だね」

 あの頭の中がお花畑で握力ゴリラ並で、ドM疑惑のアリスティアよりも苦手だとは……。
 フレディが苦手という人物、リル・ロンズデール。一体どんな人なのかは知らないが……どうせならあの三人に訊いてみるかとメールを送る。
 送って数分もしない内に、すぐ返信が来る。
 メールの内容はこうだ。
 リル・ロンズデールという人物は噂話が大好きで、神出鬼没な地獄耳の持ち主だと。彼女に逆らえば世間的に抹消され、学園内の生徒だけではなく街の人たちにも恐れられている人物だと。
 …………うん、関わりたくないな。

「やっほ~、ちょっといいかにゃ?」

 その刹那。声を掛けられ振り返ると、腰近くまであるウォームグレイの髪に眼鏡を掛けている女子生徒。
 見知らぬ人物が突然話し掛けてきて、エリオットが首を捻っていると——

「り、リル……先輩……」

 顔を引き攣らせながら、フレディはそう呟いた。

「おぉ、フレくん。最近なかなか広報委員室に顔を出さないねぇ~。ラディーくんにおつかい頼まれないのかにゃ?」

 うふふと笑うこの女子生徒。どうやらこの人がリル・ロンズデールという人らしい。
 ……確かに神出鬼没だ。気配が全く感じ取れなかった。

「……で、先輩。何か用ですか? 原稿に関しては委員長にどうぞ」
「いやぁ~今日僕がここに来た理由はね」

 リルはエリオットの肩に手を回すと、

「君のデュオに用があるんだにゃ~」

 人懐っこそうな猫口な表情を見せた。

「……は?」

 突然の指名に、エリオットは瞠目する。
 目の前にいるフレディも同じく驚きの表情を見せていた。

「え、リル先輩っ!! 一体エルに何の用があるんですか」
「ん~それは秘密だにゃ☆ ……って、そんな怖い顔しないでよ。別に取って食うわけじゃないんだからにゃぁ~」

 何処か憤りを滲ませるフレディと、それを嘲笑うかの様なリルの間に挟まれたエリオットは一体どうすればいいのか分からずただ無言を貫くしかなかった。

「……で、でも……俺とは初めまして、だよな?」

 この空気を変えようと、エリオットはリルにそう訊くが——

「…………そうだね、初めましてだね」

 次はリルの表情が何処か曇った。

「もう知っているかもしれないけど、僕の名前はリル・ロンズデール。広報委員会の委員長でもあるんだにゃ」

 エッヘンと誇らしげに腰に手を当てると、エリオットの手を掴んだ。

「じゃあフレくん。彼を借りてくにゃ~」
「え、あ、ちょっ!!」

 俺のオムライスが!!
 まだ食べかけだったというのに!!
 半ば引きずられるように連れていかれたエリオットのことを、フレディは困惑しながら眺めることしか出来なかった。
 このまま後を追いかけ無理矢理にでも引き離すことは可能だろうが、報復のことを考えるとそれは無謀であった。
 なので、今はとにかくエリオットの無事を祈ることしか出来ないフレディであった。
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