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しおりを挟む愛称のエルに似ているが、それしか思いつかなかった。そもそも愛称で呼ぶ様な間柄は家族やフレくらいしかいないので、既視感は芽生えないだろう。
だが、今更になって前世の知り合いの名前でも良かったのではと思ったが……後の祭りだ。
「エリュ様というのですね!! わたくしの名はアリスティア・グライスナーと申します!! もしよろしければ連絡先を……いや、これからお茶でもっ!!」
「え、いや……」
一体……これはどういうことなんだ? 先ほどまでアラン様とか言っていたというのに、何故矛先が俺に向いたんだ!?
そもそもこの時間帯からお茶するとか、普通に考えて店やってないだろ。
「ねぇ、エリュ様っ! わたくしの逆ハーエンドを達成するために! あ、それだけじゃないですよ? エリュ様のことをもっと知りたいんです!!」
ぎゃ、逆ハーエンド?? またよく分からないことを言っているな。
というか、初対面同然のだというのに、もっと知りたいとか……この子大丈夫か?
考えたくはないが……尻軽属性とか、ないよな。もし、そんな属性も付与されていたのであれば……見る目が百八十度変わってしまいそうだ。
まぁ、それよりそろそろここらで退散しよう。
ちらりと横を見ると空気となっている生徒会長は、此方を唖然としながら窺っていた。
申し訳ないが、ここは生徒会長に全て押し付けてこの場から逃走しよう。
「そのっ、俺はもう帰りますのでじゃあ!!」
アリスティアを生徒会長の方へ押し込むと、エリュことエリオットは全速力でこの場から逃走した。
「あっ、エリュ様!!」
手を伸ばし、腕を掴もうとするが空を切った。
バタンっと扉は閉まり、この場にはアリスティアとアランの二人だけが取り残された。
「……もうエリュ様ったら、でもこうして会えましたから次こそ何かしらイベントが起こるかもしれないわ!!」
一人、何やらよく分からないことを呟いているアリスティアに対し、アランため息混じりに言葉を吐く。
「……で、お前もさっさと帰れ」
「え? でも、まだイベントが……」
イベント? …………一体何を言っているんだ。
エリオットと同じように、アランも密かにアリスティアの頭を心配する。
「アラン様との仲を深めるための重大なイベントなんですのよ!!」
「…………戯言を言わずに、さっさと帰れ」
しかし、アリスティアはイベントと言うだけで戻る気配は微塵も感じられなかった。
面倒くさそうに息を吐くと、アランはアリスティアの腕を掴みそのままこの拠点を後にする。
「お前はこのまま寮に戻れ。どうせ届けを出していないんだろ」
学園の門まで送り届けると、アランは踵を返した。
アリスティアが何かを言っていたが気にもせずに、アランこの場を後にした。
「……もうっ! 今回もイベントが起きなかったわ!!」
一人きりになったアリスティアは、わーんと言葉を吐き出した。
イベント発生しなかった原因はエリオットがアランに出くわしたことによって強制キャンセルされたからなのだが、そんなことを露知らずアリスティアは何故ゲーム通りに進まないのか悩乱する。
が、考えていたって仕方がない。今日はもう寝て次に備えようと、門の近くにある茂みの抜け穴へと向かった。
「…………エリュ、か……」
足を止める。
あの少年の名前はエリュって言うのか。
突然現れては突然消えてしまう。そのせいなのか、心のどこかで気になってしまっているようだ。
…………本当、どうかしている。
これは何もかもリルのせいだと、アランは歩くのを再開したのであった。
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