40 / 76
39
しおりを挟む愛称のエルに似ているが、それしか思いつかなかった。そもそも愛称で呼ぶ様な間柄は家族やフレくらいしかいないので、既視感は芽生えないだろう。
だが、今更になって前世の知り合いの名前でも良かったのではと思ったが……後の祭りだ。
「エリュ様というのですね!! わたくしの名はアリスティア・グライスナーと申します!! もしよろしければ連絡先を……いや、これからお茶でもっ!!」
「え、いや……」
一体……これはどういうことなんだ? 先ほどまでアラン様とか言っていたというのに、何故矛先が俺に向いたんだ!?
そもそもこの時間帯からお茶するとか、普通に考えて店やってないだろ。
「ねぇ、エリュ様っ! わたくしの逆ハーエンドを達成するために! あ、それだけじゃないですよ? エリュ様のことをもっと知りたいんです!!」
ぎゃ、逆ハーエンド?? またよく分からないことを言っているな。
というか、初対面同然のだというのに、もっと知りたいとか……この子大丈夫か?
考えたくはないが……尻軽属性とか、ないよな。もし、そんな属性も付与されていたのであれば……見る目が百八十度変わってしまいそうだ。
まぁ、それよりそろそろここらで退散しよう。
ちらりと横を見ると空気となっている生徒会長は、此方を唖然としながら窺っていた。
申し訳ないが、ここは生徒会長に全て押し付けてこの場から逃走しよう。
「そのっ、俺はもう帰りますのでじゃあ!!」
アリスティアを生徒会長の方へ押し込むと、エリュことエリオットは全速力でこの場から逃走した。
「あっ、エリュ様!!」
手を伸ばし、腕を掴もうとするが空を切った。
バタンっと扉は閉まり、この場にはアリスティアとアランの二人だけが取り残された。
「……もうエリュ様ったら、でもこうして会えましたから次こそ何かしらイベントが起こるかもしれないわ!!」
一人、何やらよく分からないことを呟いているアリスティアに対し、アランため息混じりに言葉を吐く。
「……で、お前もさっさと帰れ」
「え? でも、まだイベントが……」
イベント? …………一体何を言っているんだ。
エリオットと同じように、アランも密かにアリスティアの頭を心配する。
「アラン様との仲を深めるための重大なイベントなんですのよ!!」
「…………戯言を言わずに、さっさと帰れ」
しかし、アリスティアはイベントと言うだけで戻る気配は微塵も感じられなかった。
面倒くさそうに息を吐くと、アランはアリスティアの腕を掴みそのままこの拠点を後にする。
「お前はこのまま寮に戻れ。どうせ届けを出していないんだろ」
学園の門まで送り届けると、アランは踵を返した。
アリスティアが何かを言っていたが気にもせずに、アランこの場を後にした。
「……もうっ! 今回もイベントが起きなかったわ!!」
一人きりになったアリスティアは、わーんと言葉を吐き出した。
イベント発生しなかった原因はエリオットがアランに出くわしたことによって強制キャンセルされたからなのだが、そんなことを露知らずアリスティアは何故ゲーム通りに進まないのか悩乱する。
が、考えていたって仕方がない。今日はもう寝て次に備えようと、門の近くにある茂みの抜け穴へと向かった。
「…………エリュ、か……」
足を止める。
あの少年の名前はエリュって言うのか。
突然現れては突然消えてしまう。そのせいなのか、心のどこかで気になってしまっているようだ。
…………本当、どうかしている。
これは何もかもリルのせいだと、アランは歩くのを再開したのであった。
31
お気に入りに追加
738
あなたにおすすめの小説
【完結】だから俺は主人公じゃない!
美兎
BL
ある日通り魔に殺された岬りおが、次に目を覚ましたら別の世界の人間になっていた。
しかもそれは腐男子な自分が好きなキャラクターがいるゲームの世界!?
でも自分は名前も聞いた事もないモブキャラ。
そんなモブな自分に話しかけてきてくれた相手とは……。
主人公がいるはずなのに、攻略対象がことごとく自分に言い寄ってきて大混乱!
だから、…俺は主人公じゃないんだってば!
すべてはあなたを守るため
高菜あやめ
BL
【天然超絶美形な王太子×妾のフリした護衛】 Y国の次期国王セレスタン王太子殿下の妾になるため、はるばるX国からやってきたロキ。だが妾とは表向きの姿で、その正体はY国政府の依頼で派遣された『雇われ』護衛だ。戴冠式を一か月後に控え、殿下をあらゆる刺客から守りぬかなくてはならない。しかしこの任務、殿下に素性を知られないことが条件で、そのため武器も取り上げられ、丸腰で護衛をするとか無茶な注文をされる。ロキははたして殿下を守りぬけるのか……愛情深い王太子殿下とポンコツ護衛のほのぼの切ないラブコメディです

第十王子は天然侍従には敵わない。
きっせつ
BL
「婚約破棄させて頂きます。」
学園の卒業パーティーで始まった九人の令嬢による兄王子達の断罪を頭が痛くなる思いで第十王子ツェーンは見ていた。突如、その断罪により九人の王子が失脚し、ツェーンは王太子へと位が引き上げになったが……。どうしても王になりたくない王子とそんな王子を慕うド天然ワンコな侍従の偽装婚約から始まる勘違いとすれ違い(考え方の)のボーイズラブコメディ…の予定。※R 15。本番なし。
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

【完結】『ルカ』
瀬川香夜子
BL
―――目が覚めた時、自分の中は空っぽだった。
倒れていたところを一人の老人に拾われ、目覚めた時には記憶を無くしていた。
クロと名付けられ、親切な老人―ソニーの家に置いて貰うことに。しかし、記憶は一向に戻る気配を見せない。
そんなある日、クロを知る青年が現れ……?
貴族の青年×記憶喪失の青年です。
※自サイトでも掲載しています。
2021年6月28日 本編完結
セカンドライフは魔皇の花嫁
仁蕾
BL
星呂康泰、十八歳。
ある日の夕方、家に帰れば知らない男がそこに居た。
黒を纏った男。さらりとした黒髪。血のように赤い双眸。雪のように白い肌。
黒髪をかき分けて存在を主張するのは、後方に捻れて伸びるムフロンのような一対の角。
本来なら白いはずの目玉は黒い。
「お帰りなさいませ、皇妃閣下」
男は美しく微笑んだ。
----------------------------------------
▽なろうさんでもこっそり公開中▽
https://ncode.syosetu.com/n3184fb/

拝啓、目が覚めたらBLゲームの主人公だった件
碧月 晶
BL
さっきまでコンビニに向かっていたはずだったのに、何故か目が覚めたら病院にいた『俺』。
状況が分からず戸惑う『俺』は窓に映った自分の顔を見て驚いた。
「これ…俺、なのか?」
何故ならそこには、恐ろしく整った顔立ちの男が映っていたのだから。
《これは、現代魔法社会系BLゲームの主人公『石留 椿【いしどめ つばき】(16)』に転生しちゃった元平凡男子(享年18)が攻略対象たちと出会い、様々なイベントを経て『運命の相手』を見つけるまでの物語である──。》
────────────
~お知らせ~
※第3話を少し修正しました。
※第5話を少し修正しました。
※第6話を少し修正しました。
※第11話を少し修正しました。
※第19話を少し修正しました。
※第24話を少し修正しました。
────────────
※感想、いいね、お気に入り大歓迎です!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる