だからっ俺は平穏に過ごしたい！！

38

　突然現れたアリスティアに、二人して鳩が豆鉄砲を食らったかのような顔をする。
　……嫌な予感が、当たってしまった。

「お前っ！！　何しにここに……いやそれより、どうやってこの場所を知ったんだ！！」
「アラン様のことなら、何だって知っています！！」

　両手を頬に添えると、ほんのりと頬を染めていた。
　……うん。この子は、脳内お花畑に握力ゴリラ並みにドM、そしてストーカーという属性付か。……なんだ、この属性の渋滞は。

「本日アラン様が牙狼の総長として街に現れるはずなのに、全然現れてくれないので……つい、お迎えに来てしまいましたわ！！」

　なんでお前がそんなことを知っているんだ！！
　アランは口には出さなかったが一歩後ろへ下がると、顔を顰める。
　牙狼？　総長？　何だそれ。……生徒会長に裏の顔でもあるのか。
　一人空気と化していたエリオットは呑気に考えに耽っていたが————

「きゃぁぁぁぁっ！！　あ、貴方はっ！！」
「…………え？」

　アリスティアはエリオットの存在に気が付いた途端、甲高い声を上げる。
　突然の絶叫に、思わず腰を抜かしそうになる。
　知らない間に何か仕出かしたかと考えるが、この外見は生徒会長くらいにしか見られていない。
　アリスティアが転校してくる前にすれ違った可能性も否定出来ないが、すれ違ったといってこんな風に声を上げるだろうか。

「ねえ、お名前はっ！！　お名前はなんて言うんですの！？」

　ガシッと手を握られ、食い入るように名前を知りたがるアリスティアに対し顔が引き攣る。

「……なんだお前ら、何処かで会ったことでもあるのか？」
「い……いや、その……」

　会ったことがあるというか、学園で毎日のように顔を合わせているが……。
　しかし、知らない間に出くわしていたのか？
　アリスティアの反応を見る限り何処かでこの素顔を見られたことがあるようだが……記憶が間違いではなければ生徒会長に対してと、復学する前の買い物でしか晒していないはずだ。……本当に知らない間にすれ違っていたのだろうか。
　いやそれよりもこの状況はまずい。
　今すぐ逃走が可能であればしたかったが、逃げることは少々難しそうだ。
　だからといい、ここで本名を名乗るわけにはいかない。なら偽名……偽名だ。だが、今この瞬間に偽名を考えろと言われても、パニック状態の思考回路で考えることな難儀であった。

「ねえっ！　お名前は！？」
「え、えと……」

　考えろ。何かしら、何かしら浮かぶはずだ。

「お、俺の……名前、は……」
 
　救いとなる偽名の名が、稲妻の如く舞い降りて来た。
　もう、これしかないと口を開く。

「お、俺は————エリュ、エリュって言うんだ！！」