33 / 75
33
しおりを挟む「お二人さん遅かったなぁ」
「も~本当ですよ」
「いや、ごめんね。ちょっと長引いちゃったんだ」
「……長引いた、やと?」
長引いたという言葉に引っかかった様子のセドリックの反応にエリオットは疑問に思いつつ、席に着く。
ふと顔を上げると、体が硬直しているセドリックの表情が途端に驚倒の色に染まっていく。
「ま、まさか……二人して大をしてたんか!?」
「ぐふっ!!」
想像だにしなかったセドリックの発言に、エリオットは大きく噎せる。
フレディは瞠目し、アリスティアは顔を両の手で覆い、指の隙間からセドリックを窺っていた。
「お、お前っどんな思考回路をしていればそんな考えに辿り着くんだよ!!」
「しかし、現に遅かったんやないか」
「確かにそうだけど……」
実は話し合いをしていましたと言える訳もなく、二人して言葉に詰まる。
「セドリック様。流石にお食事の前ですので、そういうお話はお控えした方がいいと思いますわ」
この場を収める救世主となったのは、意外にもアリスティアであった。
あの頭の中がお花畑で握力ゴリラ並みで、ましてやドMなアリスティアがそんなまともなことを言うなんて思いもしなかった。
まぁ、確かにその通りやなと、セドリックが言葉を発すると、流し込んでおいた生地をコロコロを回し始めた。
「実はな、たこ焼きは味よりも、どう上手く丸められるかが勝負なんや」
次々と生地を回していくその手際は良く、あっという間に綺麗な球体と化していた。
セドリックはそれぞれの皿にたこ焼きを盛りつけると、ソースとマヨネーズをかけ、その上に青海苔と天かすをまぶした。
「きゃあー! セドリック様お上手ですね!!」
「えへへ、そうやろ。もっと褒めてもええんやで?」
……なんかこの二人の掛け合い、バカップルに見えてきたな。
ひたすら彼氏を煽てる彼女に、ひたすら褒められデレている彼氏の図。
もうお似合いだと思うから付き合えばいいというのに。そして毎日二人っきりで過ごしてもらえれば、俺はフレとゆっくり平穏な日々を過ごせる。
エリオットは皿を受け取ると、箸でたこ焼きを掴み凝視する。
見た目も匂いも普通のたこ焼きだ。どうやら、ちゃんと人が食べれる代物のようだ。
「なに、たこ焼きに威嚇してん。食べれるもんやから、冷めぬうちに食べてなぁ」
「わ、分かってる」
とは言っても、手料理って人によっては考えられないようなヤバいものを入れるからなぁ。恋愛成就させるおまじないとして髪の毛や、血液を入れたりとか……。
別にセドリックをそこまで信用していないという訳ではないのだが……手料理はある意味怖いよなって。
ちらりと横を見ると、フレディは普通にたこ焼きを食べていた。
「これ美味しいねっ」
「そうやろ!? たこ焼きは神が授けた食べ物なんや」
いや、授けてはいないだろ。
「セドリック様が作るたこ焼きとても美味しいので、また機会がありましたら食べたいですっ」
「そかそか、また作ってやる!!」
褒めらたことが嬉しいのか、デレデレと恥ずかしそうに頭を搔く仕草をしていた。
もし機会があったとしても俺らを巻き込まずに、二人で勝手に作って勝手に食べてくれ。
セドリックとアリスティアのやり取りを眺めていると、フレディが言葉を掛けてくる。
「エル、食べないの?」
「え?」
そのフレディの言葉が引き金になり、セドリックはガタンっと机に手をつく。
「せやっ何故食べへんの!? 自分が作ったたこ焼き食べへんの!?」
「え、いや……」
そんなに人にたこ焼きを食べてほしい、のか……? そこまで目の前にいるこいつは、たこ焼きに情熱を注ぎ込んでいるのか。
その情熱に、思わず感嘆の息をもらしてしまう。
「アリスティアぁ、フレディぃ。エリオットが自分が作ったたこ焼き食べてくれへん!! うわぁぁぁぁぁ!!」
すると、突如何の前触れもなくセドリックが泣き喚きだす。
そのセドリックの姿を見て、エリオットの思考回路が急停止した。
…………………は? い、いや……何で泣くんだ? ……そんな泣くことなのかっ!?
「セドリック様、大丈夫ですよ!」
「そうだよ。エルは、ちゃんと食べてくれるから」
二人は泣き喚いているセドリックを、言葉で慰める。
しかし、依然セドリックの慟哭は止まる気配がなかった。
…………まさか、たこ焼きを食べないだけでこんなに泣くとは……。だが、俺らそこまで仲が良い関係だったか!?
今も尚思考回路が上手く動いていないが、この場を収める答えは頭の中に存在していた。
「分かった!! 分かったから!! 俺食べるから、さっさと泣き止め!!」
半ばやけくそに発した言葉に、うっう……と嗚咽を漏らしながら顔を両手で覆っていたセドリックの表情はぱあぁぁと明るくなり、嬉々とした様子で肩を左右に揺らし始めた。
「はよはよ、食べてなぁ」
そのセドリックの双眸は赤くなっていない。
つまり……嘘泣きであったのだ。
睥睨な視線を向けそうになったが抑え込み、たこ焼きを一つ箸を掴むと口の中に放り込んだ。
少し冷めたたこ焼きは丁度いい温度で、つい頬が緩んでしまった。——それがいけなかったのだ。
「美味しいんやなっ!? エリオット、まだまだあるからたべてなぁ~!!」
「……は? いや、別に、俺は美味しいなんて——」
「いえっ、エリオット様の表情は美味しいと仰っていましたわ!!」
エリオットから皿を奪い取ると、まだ残っているというのに新しくたこ焼きを積み上げていき、それにアリスティアはソースをぶっかけた。
「ほら、たくさん食べてな」
……これを食べろというのかよ。
積み上げられたたこ焼きを見て絶句するが、それよりソースのかけ方が汚い……。
あちこちソースは飛び散り、たこ焼き自体より皿にソースがかかっていた。
これは単なるアリスティアが不器用なだけだろうか。
知らず知らずにため息を吐く。
「エル。食べれないのなら、僕も一緒に食べるよ」
「……フレ」
やはり、俺に優しいのはフレだけだと、フレ様素敵と感激していた——のだが。
「フレディにも、ちゃんとたこ焼き用意してんで?」
と、セドリックは次々にフレディの皿にたこ焼きを盛り付けていき、そしてアリスティアがソースをブチャッとぶっかけた。
「ほら、沢山食べてな」
そうして、目の前には山盛りになった皿が二つ並んだ。
「……フレ。俺、一人で頑張って食べるから……フレも頑張ってくれ」
「……うん、頑張る」
本当、この二人に関わるとろくなことがないっ!! と、エリオットは心の中で絶叫しながらたこ焼きを口に放り込んだのであった。
30
お気に入りに追加
730
あなたにおすすめの小説
ヒロインどこですか?
おるか
BL
妹のためにポスターを買いに行く途中、車に轢かれて死亡した俺。
妹がプレイしていた乙女ゲーム《サークレット オブ ラブ〜変わらない愛の証〜》通称《サクラ》の世界に転生したけど、攻略キャラじゃないみたいだし、前世の記憶持ってても妹がハマってただけで俺ゲームプレイしたことないしよくわからん!
だけどヒロインちゃんが超絶可愛いらしいし、魔法とかあるみたいだから頑張ってみようかな。
…そう思ってたんだけど
「キョウは僕の大切な人です」
「キョウスケは俺とずっといるんだろ?」
「キョウスケは俺のもんだ」
「キョウセンパイは渡しませんっ!」
「キョウスケくんは可愛いなぁ」
「キョウ、俺以外と話すな」
…あれ、攻略キャラの様子がおかしいぞ?
…あれ、乙女ゲーム史上もっとも性格が良くて超絶美少女と噂のヒロインが見つからないぞ?
…あれ、乙女ゲームってこんな感じだっけ…??
【中世をモチーフにした乙女ゲーム転生系BL小説】
※ざまあ要素もあり。
※基本的になんでもあり。
※作者これが初作品になります。温かい目で見守っていて貰えるとありがたいです!
※厳しいアドバイス・感想お待ちしております。
隠し攻略対象者に転生したので恋愛相談に乗ってみた。~『愛の女神』なんて言う不本意な称号を付けないでください‼~
黒雨
BL
罰ゲームでやっていた乙女ゲーム『君と出会えた奇跡に感謝を』の隠し攻略対象者に転生してしまった⁉
攻略対象者ではなくモブとして平凡平穏に生きたい...でも、無理そうなんでサポートキャラとして生きていきたいと思います!
………ちょっ、なんでヒロインや攻略対象、モブの恋のサポートをしたら『愛の女神』なんて言う不本意な称号を付けるんですか⁈
これは、暇つぶしをかねてヒロインや攻略対象の恋愛相談に乗っていたら『愛の女神』などと不本意な称号を付けられた主人公の話です。
◆注意◆
本作品はムーンライトノベルズさん、エブリスタさんにも投稿しております。同一の作者なのでご了承ください。アルファポリスさんが先行投稿です。
少し題名をわかりやすいように変更しました。無駄に長くてすいませんね(笑)
それから、これは処女作です。つたない文章で申し訳ないですが、ゆっくり投稿していこうと思います。間違いや感想、アドバイスなどお待ちしております。ではではお楽しみくださいませ。
乙女ゲーの隠しキャラに転生したからメインストーリーとは関係なく平和に過ごそうと思う
ゆん
BL
乙女ゲーム「あなただけの光になる」は剣と魔法のファンタジー世界で舞台は貴族たちが主に通う魔法学園
魔法で男でも妊娠できるようになるので同性婚も一般的
生まれ持った属性の魔法しか使えない
その中でも光、闇属性は珍しい世界__
そんなところに車に轢かれて今流行りの異世界転生しちゃったごく普通の男子高校生、佐倉真央。
そしてその転生先はすべてのエンドを回収しないと出てこず、攻略も激ムズな隠しキャラ、サフィラス・ローウェルだった!!
サフィラスは間違った攻略をしてしまうと死亡エンドや闇堕ちエンドなど最悪なシナリオも多いという情報があるがサフィラスが攻略対象だとわかるまではただのモブだからメインストーリーとは関係なく平和に生きていこうと思う。
__________________
誰と結ばれるかはまだ未定ですが、主人公受けは固定です!
初投稿で拙い文章ですが読んでもらえると嬉しいです。
誤字脱字など多いと思いますがコメントで教えて下さると大変助かります…!
メインキャラ達の様子がおかしい件について
白鳩 唯斗
BL
前世で遊んでいた乙女ゲームの世界に転生した。
サポートキャラとして、攻略対象キャラたちと過ごしていたフィンレーだが・・・・・・。
どうも攻略対象キャラ達の様子がおかしい。
ヒロインが登場しても、興味を示されないのだ。
世界を救うためにも、僕としては皆さん仲良くされて欲しいのですが・・・。
どうして僕の周りにメインキャラ達が集まるんですかっ!!
主人公が老若男女問わず好かれる話です。
登場キャラは全員闇を抱えています。
精神的に重めの描写、残酷な描写などがあります。
BL作品ですが、舞台が乙女ゲームなので、女性キャラも登場します。
恋愛というよりも、執着や依存といった重めの感情を主人公が向けられる作品となっております。
転生悪役モブは溺愛されんで良いので死にたくない!
煮卵
BL
ゲーム会社に勤めていた俺はゲームの世界の『婚約破棄』イベントの混乱で殺されてしまうモブに転生した。処刑の原因となる婚約破棄を避けるべく王子に友人として接近。なんか数ヶ月おきに繰り返される「恋人や出会いのためのお祭り」をできる限り第二皇子と過ごし、婚約破棄の原因となる主人公と出会うきっかけを徹底的に排除する。
最近では監視をつけるまでもなくいつも一緒にいたいと言い出すようになった・・・やんごとなき血筋のハンサムな王子様を淑女たちから遠ざけ男の俺とばかり過ごすように仕向けるのはちょっと申し訳ない気もしたが、俺の運命のためだ。仕方あるまい。
俺の死亡フラグは完全に回避された!
・・・と思ったら、婚約の儀の当日、「私には思い人がいるのです」
と言いやがる!一体誰だ!?
その日の夜、俺はゲームの告白イベントがある薔薇園に呼び出されて・・・
ラブコメが描きたかったので書きました。
なんでも諦めてきた俺だけどヤンデレな彼が貴族の男娼になるなんて黙っていられない
迷路を跳ぶ狐
BL
自己中な無表情と言われて、恋人と別れたクレッジは冒険者としてぼんやりした毎日を送っていた。
恋愛なんて辛いこと、もうしたくなかった。大体のことはなんでも諦めてのんびりした毎日を送っていたのに、また好きな人ができてしまう。
しかし、告白しようと思っていた大事な日に、知り合いの貴族から、その人が男娼になることを聞いたクレッジは、そんなの黙って見ていられないと止めに急ぐが、好きな人はなんだか様子がおかしくて……。
転生したら乙女ゲームの世界で攻略キャラを虜にしちゃいました?!
まかろに(仮)
BL
事故で死んで転生した事を思い出したらここは乙女ゲームの世界で、しかも自分は攻略キャラの暗い過去の原因のモブの男!?
まぁ原因を作らなきゃ大丈夫やろと思って普通に暮らそうとするが…?
※r18は"今のところ"ありません
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる