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しおりを挟む「お二人さん遅かったなぁ」
「も~本当ですよ」
「いや、ごめんね。ちょっと長引いちゃったんだ」
「……長引いた、やと?」
長引いたという言葉に引っかかった様子のセドリックの反応にエリオットは疑問に思いつつ、席に着く。
ふと顔を上げると、体が硬直しているセドリックの表情が途端に驚倒の色に染まっていく。
「ま、まさか……二人して大をしてたんか!?」
「ぐふっ!!」
想像だにしなかったセドリックの発言に、エリオットは大きく噎せる。
フレディは瞠目し、アリスティアは顔を両の手で覆い、指の隙間からセドリックを窺っていた。
「お、お前っどんな思考回路をしていればそんな考えに辿り着くんだよ!!」
「しかし、現に遅かったんやないか」
「確かにそうだけど……」
実は話し合いをしていましたと言える訳もなく、二人して言葉に詰まる。
「セドリック様。流石にお食事の前ですので、そういうお話はお控えした方がいいと思いますわ」
この場を収める救世主となったのは、意外にもアリスティアであった。
あの頭の中がお花畑で握力ゴリラ並みで、ましてやドMなアリスティアがそんなまともなことを言うなんて思いもしなかった。
まぁ、確かにその通りやなと、セドリックが言葉を発すると、流し込んでおいた生地をコロコロを回し始めた。
「実はな、たこ焼きは味よりも、どう上手く丸められるかが勝負なんや」
次々と生地を回していくその手際は良く、あっという間に綺麗な球体と化していた。
セドリックはそれぞれの皿にたこ焼きを盛りつけると、ソースとマヨネーズをかけ、その上に青海苔と天かすをまぶした。
「きゃあー! セドリック様お上手ですね!!」
「えへへ、そうやろ。もっと褒めてもええんやで?」
……なんかこの二人の掛け合い、バカップルに見えてきたな。
ひたすら彼氏を煽てる彼女に、ひたすら褒められデレている彼氏の図。
もうお似合いだと思うから付き合えばいいというのに。そして毎日二人っきりで過ごしてもらえれば、俺はフレとゆっくり平穏な日々を過ごせる。
エリオットは皿を受け取ると、箸でたこ焼きを掴み凝視する。
見た目も匂いも普通のたこ焼きだ。どうやら、ちゃんと人が食べれる代物のようだ。
「なに、たこ焼きに威嚇してん。食べれるもんやから、冷めぬうちに食べてなぁ」
「わ、分かってる」
とは言っても、手料理って人によっては考えられないようなヤバいものを入れるからなぁ。恋愛成就させるおまじないとして髪の毛や、血液を入れたりとか……。
別にセドリックをそこまで信用していないという訳ではないのだが……手料理はある意味怖いよなって。
ちらりと横を見ると、フレディは普通にたこ焼きを食べていた。
「これ美味しいねっ」
「そうやろ!? たこ焼きは神が授けた食べ物なんや」
いや、授けてはいないだろ。
「セドリック様が作るたこ焼きとても美味しいので、また機会がありましたら食べたいですっ」
「そかそか、また作ってやる!!」
褒めらたことが嬉しいのか、デレデレと恥ずかしそうに頭を搔く仕草をしていた。
もし機会があったとしても俺らを巻き込まずに、二人で勝手に作って勝手に食べてくれ。
セドリックとアリスティアのやり取りを眺めていると、フレディが言葉を掛けてくる。
「エル、食べないの?」
「え?」
そのフレディの言葉が引き金になり、セドリックはガタンっと机に手をつく。
「せやっ何故食べへんの!? 自分が作ったたこ焼き食べへんの!?」
「え、いや……」
そんなに人にたこ焼きを食べてほしい、のか……? そこまで目の前にいるこいつは、たこ焼きに情熱を注ぎ込んでいるのか。
その情熱に、思わず感嘆の息をもらしてしまう。
「アリスティアぁ、フレディぃ。エリオットが自分が作ったたこ焼き食べてくれへん!! うわぁぁぁぁぁ!!」
すると、突如何の前触れもなくセドリックが泣き喚きだす。
そのセドリックの姿を見て、エリオットの思考回路が急停止した。
…………………は? い、いや……何で泣くんだ? ……そんな泣くことなのかっ!?
「セドリック様、大丈夫ですよ!」
「そうだよ。エルは、ちゃんと食べてくれるから」
二人は泣き喚いているセドリックを、言葉で慰める。
しかし、依然セドリックの慟哭は止まる気配がなかった。
…………まさか、たこ焼きを食べないだけでこんなに泣くとは……。だが、俺らそこまで仲が良い関係だったか!?
今も尚思考回路が上手く動いていないが、この場を収める答えは頭の中に存在していた。
「分かった!! 分かったから!! 俺食べるから、さっさと泣き止め!!」
半ばやけくそに発した言葉に、うっう……と嗚咽を漏らしながら顔を両手で覆っていたセドリックの表情はぱあぁぁと明るくなり、嬉々とした様子で肩を左右に揺らし始めた。
「はよはよ、食べてなぁ」
そのセドリックの双眸は赤くなっていない。
つまり……嘘泣きであったのだ。
睥睨な視線を向けそうになったが抑え込み、たこ焼きを一つ箸を掴むと口の中に放り込んだ。
少し冷めたたこ焼きは丁度いい温度で、つい頬が緩んでしまった。——それがいけなかったのだ。
「美味しいんやなっ!? エリオット、まだまだあるからたべてなぁ~!!」
「……は? いや、別に、俺は美味しいなんて——」
「いえっ、エリオット様の表情は美味しいと仰っていましたわ!!」
エリオットから皿を奪い取ると、まだ残っているというのに新しくたこ焼きを積み上げていき、それにアリスティアはソースをぶっかけた。
「ほら、たくさん食べてな」
……これを食べろというのかよ。
積み上げられたたこ焼きを見て絶句するが、それよりソースのかけ方が汚い……。
あちこちソースは飛び散り、たこ焼き自体より皿にソースがかかっていた。
これは単なるアリスティアが不器用なだけだろうか。
知らず知らずにため息を吐く。
「エル。食べれないのなら、僕も一緒に食べるよ」
「……フレ」
やはり、俺に優しいのはフレだけだと、フレ様素敵と感激していた——のだが。
「フレディにも、ちゃんとたこ焼き用意してんで?」
と、セドリックは次々にフレディの皿にたこ焼きを盛り付けていき、そしてアリスティアがソースをブチャッとぶっかけた。
「ほら、沢山食べてな」
そうして、目の前には山盛りになった皿が二つ並んだ。
「……フレ。俺、一人で頑張って食べるから……フレも頑張ってくれ」
「……うん、頑張る」
本当、この二人に関わるとろくなことがないっ!! と、エリオットは心の中で絶叫しながらたこ焼きを口に放り込んだのであった。
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