29 / 76
29
しおりを挟むエスカレーターを上がり、二階の洋服店へ二人は辿り着いた。
売りに出されている衣服はどれも夏服で、二人はそれぞれ服を手に取る。
売りに出されている衣服は、薄手の生地で通気性も良さそうだ。
そういえば、夏の時期は黒色の衣服を着るとあまりに暑くてどうしようもなかったが、逆に暑さが少しでも緩和される色なんてあるのだろうか。
無難に白色か、それとも涼しげな水色だろうか。
色について考えていると、フレディが声を掛けてきた。
「ねえ、エル。この服どうかな?」
「え? どれど……」
フレディが見せてきた衣服を見て、エリオットは言葉を失った。
フレディが見せてきた衣服は普通のシャツ。
だがそこに描かれている文字によって、普通のシャツではなかった。
「どうかな?」
「え、いやぁ……その」
シャツにはこう文字が描かれていた。
お豆腐メンタルと。
……これは、ツッコんだ方がいいのか?
それともスルーすべきか?
どっち……一体何方が答えなんだ!!
「……エル?」
「え、その。まぁ、フレが気に入ったのならいいんじゃない?」
一先ずスルーしておこう。
「本当!? じゃあ、こっちはどうかな」
続いて見せてきた服も、これもまた普通のシャツではなかった。
激おこプンプン丸冷奴と、またもやよく分からない代物に、手で顔を覆ってしまう。
目の前に机が存在していたら、思わずぶっ叩いていただろう。
……とりあえず分かったことは、フレは豆腐が好きだということだよな。
うんうん、豆腐好きとはヘルシーでいいな。
……じゃなくてっ!!
どうする。ここは本格的にツッコミを入れた方がいいのかっ?
いや、そもそもフレがボケていない可能性もある。
純粋にあの服が良いと感じた可能性があるのであれば、ここはスルーすべきだ。
「……フレは、そういう服が好きなのか?」
とりあえず、純粋に好きなのか訊いておこう。
「うん。僕、昔っからこういう服をよく着てたからね。何だか懐かしくて」
「へー、そうなのか。自分で買ってたのか?」
「ううん。兄さんたちがよく着てて、それで僕も自然と着るようになった感じだよ?」
「ソ、ソウナンダ」
フレのファッションセンスがイマイチなのは、その兄たちのせいってことだな。
結果として、フレは純粋にあの服が好きだということだ。
それなら突っ込むことは止めておこう。傷付けてしまうかもしれないからな。
「んー、どうせならこれを兄さんたちにプレゼントしようかな」
「いいんじゃないか? きっと喜ぶとおもうよ」
弟からの贈り物を喜ばない兄はいないだろう。
「だよね! じゃあ買ってくるねっ」
「ああ」
……何だか、怖いくらいの笑顔だったな。
いつもの笑みとは違い背筋が凍りそうだったが、それは気の所為だと頭を軽く振る。
フレディが会計を終えると、二人は服屋を後にしたが特に何処に行くかは決めておらず、二人は何の目的もなくふらふらあちらこちらと店を覗いていく。
そんな最中、フレディが口を開いた。
「そろそろ昼時だし、ご飯でも食べる?」
「あ……確かにそうだな」
お腹を触る。
朝ご飯を食べて来たのだが、何だか空いている気もする。
「じゃあ、フードコートに行こうか」
そうして二人は何を食べようかと話しながら向かったのだが、まさか向かった先に……。
「あっ、フレディ様にエリオット様っ!?」
「おー、お二人さん。もしかしてデートなん?」
あの、関わりたくない二人がいたなんて……思いもしていなかった。
36
お気に入りに追加
738
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!
ペトラ
恋愛
ぼんやりとした意識を覚醒させながら、自分の置かれた状況を考えます。ここは、この世界は、途中まで攻略した乙女ゲームの世界だと思います。たぶん。
戦乙女≪ヴァルキュリア≫を育成する学園での、勉強あり、恋あり、戦いありの恋愛シミュレーションゲーム「ヴァルキュリア デスティニー~恋の最前線~」通称バル恋。戦乙女を育成しているのに、なぜか共学で、男子生徒が目指すのは・・・なんでしたっけ。忘れてしまいました。とにかく、前世の自分が死ぬ直前まではまっていたゲームの世界のようです。
前世は彼氏いない歴イコール年齢の、ややぽっちゃり(自己診断)享年28歳歯科衛生士でした。
悪役令嬢でもナイスバディの美少女に生まれ変わったのだから、人生楽しもう!というお話。
他サイトに連載中の話の改訂版になります。
【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします
*
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!?
しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが吃驚して憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です!
めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので!
本編完結しました!
リクエストの更新が終わったら、舞踏会編をはじめる予定ですー!
某国の皇子、冒険者となる
くー
BL
俺が転生したのは、とある帝国という国の皇子だった。
転生してから10年、19歳になった俺は、兄の反対を無視して従者とともに城を抜け出すことにした。
俺の本当の望み、冒険者になる夢を叶えるために……
異世界転生主人公がみんなから愛され、冒険を繰り広げ、成長していく物語です。
主人公は魔法使いとして、仲間と力をあわせて魔物や敵と戦います。
※ BL要素は控えめです。
2020年1月30日(木)完結しました。
【完結】だから俺は主人公じゃない!
美兎
BL
ある日通り魔に殺された岬りおが、次に目を覚ましたら別の世界の人間になっていた。
しかもそれは腐男子な自分が好きなキャラクターがいるゲームの世界!?
でも自分は名前も聞いた事もないモブキャラ。
そんなモブな自分に話しかけてきてくれた相手とは……。
主人公がいるはずなのに、攻略対象がことごとく自分に言い寄ってきて大混乱!
だから、…俺は主人公じゃないんだってば!
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

すべてはあなたを守るため
高菜あやめ
BL
【天然超絶美形な王太子×妾のフリした護衛】 Y国の次期国王セレスタン王太子殿下の妾になるため、はるばるX国からやってきたロキ。だが妾とは表向きの姿で、その正体はY国政府の依頼で派遣された『雇われ』護衛だ。戴冠式を一か月後に控え、殿下をあらゆる刺客から守りぬかなくてはならない。しかしこの任務、殿下に素性を知られないことが条件で、そのため武器も取り上げられ、丸腰で護衛をするとか無茶な注文をされる。ロキははたして殿下を守りぬけるのか……愛情深い王太子殿下とポンコツ護衛のほのぼの切ないラブコメディです

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢
岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか?
「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」
「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」
マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる