だからっ俺は平穏に過ごしたい!!

しおぱんだ。

文字の大きさ
上 下
28 / 76

28

しおりを挟む


 建物へ近付くと透明の自動ドアが開き、二人は潜り抜けた。
 中に入って真っ先に飛び込んで来たのは、食品や日用品が売り出されている場所。
 それを見てエリオットは思わず駆け寄ってしまい、キャベツや白菜などの葉物野菜が九十八ティルという値段を見て、つい手を取ってしまう。

「へー、結構安いね。葉物野菜って最近高いって聞いてたけど」
「そうだよな、やっぱり安いよな。……買おうかな」

 ここ最近物によっては三百ティル近い値段だというのに、この安さは魅力的だ。
 これでも出来る限り自炊を心掛けているエリオットにとっては、少しでも節約はしたいところだ。
 何故ならお菓子代が、かなり掛かるからだ。
 健康のことを考えるのであればお菓子は控えめにしたいが、どうしてもあの甘い魅惑に抗えずにいる。
 葉物野菜を目の前にして、んーと悩んでいるエリオットを見てフレディは笑う。

「ふふ、まぁ好きなだけ悩んでていいよ」
「んー、でもなぁ」

 フレはそう言ってくれるが、あまり自分の買い物に付き合わせるのは申し訳がない。
 ……なら、ここは一思いにっ。

「じゃあ買うっ。この二つ買うっ!」
「じゃあ、このカゴに入れてね」

 フレディからカゴを受け取ると、その中に商品を入れる。

「ついでに僕も買い物しようかなぁ」
「もしかして、フレも自炊とかしているのか?」
「うん、まぁね。食堂で頼むのもいいけど、朝や夜はなるべく自炊するようにしているんだ」

 エリオットの言葉に対し、フレディははにかみを見せた。

「でもフレの料理、個人的に肉が多そうな気がする。ちゃんと野菜も摂っているのか?」
「摂っているよ! 僕だって、そんな肉ばかり食べているわけじゃないんだからねっ」
「そうか、ごめんな」

 そんな談笑をしながら買い物を続けていく。
 見たことがない魚を見て二人して驚いたり、試食コーナーで食べた林檎が美味しくてカゴに入れたり、カレーは甘口か辛口かを討論しながら買い物を続け、会計を終えた。
 それらを全て魔法袋という収納袋に入れると、ズボンのポケットへ仕舞いこんだ。

「じゃあ、次は何処に行こうか」
「んー、逆にフレは何処か行きたいところはないのか?」
「え、僕?」

 エリオットに問われ、フレディは少し悩んだ素振りを見せると口を開く。

「それなら洋服を見たいかなぁ。夏服も見ておきたいし」
「確かにそろそろ夏服の季節だもんな。じゃあ、行こうか」

 自然とエリオットはフレディの手を握った。
 その行動にフレディは目を見開いたが、すぐに微笑をこぼした。
 僕より身長低いのに、何だか頼り甲斐が出てきたなぁ。
 エリオットの背中を眺める。
 少し前までは背筋を伸ばすこともなく、隅っこで丸まっていたような彼が、いつの間にかに前を見据えて歩いていた。
 そのことがとても嬉しかった。また一緒に並んで歩いて行けると。
 でも、外に出たことによってエルの周りには、自分以外の人が自然と集まっていった。
 それが何だか悲しかった。
 僕にはエルしかいないというのに、そのエルがどんどん離れて行ってしまう気がしてしまう。
 それならいっそのこと……。

「フレ、どうかしたのか?」

 不意にエリオットが振り返る。
 首を傾げ何処か不安そうな面持ちに対し、安心させようとフレディは笑った。

「ううん。何でもないよ」
「そうか?」

 ……もし、いつかエルが僕から離れてしまうとしても、それでも今は……こうして一緒にいられるだけでいいかな。
 ……でも、本当に離れてしまいそうになった時、もしかしたらエルを悲しませてしまうようなことをしてしまうかもしれないけどね。
 フレディはそう心の中で思いながら、繋がれた手を優しく握り締めた。
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします

  *  
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!? しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが吃驚して憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です! めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので! 本編完結しました! リクエストの更新が終わったら、舞踏会編をはじめる予定ですー!

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢

岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか? 「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」 「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」 マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

悪役令嬢の双子の兄

みるきぃ
BL
『魅惑のプリンセス』というタイトルの乙女ゲームに転生した俺。転生したのはいいけど、悪役令嬢の双子の兄だった。

異世界転生したのに弱いってどういうことだよ

めがてん
BL
俺――須藤美陽はその日、大きな悲しみの中に居た。 ある日突然、一番大切な親友兼恋人であった男を事故で亡くしたからだ。 恋人の葬式に参列した後、誰も居ない公園で悲しみに暮れていたその時――俺は突然眩い光に包まれた。 あまりに眩しいその光に思わず目を瞑り――次に目を開けたら。 「あうううーーー!!?(俺、赤ちゃんになってるーーー!!?)」 ――何故か赤ちゃんになっていた。 突然赤ちゃんになってしまった俺は、どうやら魔法とかあるファンタジー世界に転生したらしいが…… この新しい体、滅茶苦茶病弱だし正直ファンタジー世界を楽しむどころじゃなかった。 突然異世界に転生してしまった俺(病弱)、これから一体どうなっちゃうんだよーーー! *** 作者の性癖を詰め込んだ作品です 病気表現とかあるので注意してください BL要素は薄めです 書き溜めが尽きたので更新休止中です。

副会長様は平凡を望む

BL
全ての元凶は毬藻頭の彼の転入でした。 ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー 『生徒会長を以前の姿に更生させてほしい』 …は? 「え、無理です」 丁重にお断りしたところ、理事長に泣きつかれました。

王家の影一族に転生した僕にはどうやら才能があるらしい。

薄明 喰
BL
アーバスノイヤー公爵家の次男として生誕した僕、ルナイス・アーバスノイヤーは日本という異世界で生きていた記憶を持って生まれてきた。 アーバスノイヤー公爵家は表向きは代々王家に仕える近衛騎士として名を挙げている一族であるが、実は陰で王家に牙を向ける者達の処分や面倒ごとを片付ける暗躍一族なのだ。 そんな公爵家に生まれた僕も将来は家業を熟さないといけないのだけど…前世でなんの才もなくぼんやりと生きてきた僕には無理ですよ!! え? 僕には暗躍一族としての才能に恵まれている!? ※すべてフィクションであり実在する物、人、言語とは異なることをご了承ください。  色んな国の言葉をMIXさせています。

すべてを奪われた英雄は、

さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。 隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。 それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。 すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。

人生イージーモードになるはずだった俺!!

抹茶ごはん
BL
平凡な容姿にろくでもない人生を歩み事故死した俺。 前世の記憶を持ったまま転生し、なんと金持ちイケメンのお坊ちゃまになった!! これはもう人生イージーモード一直線、前世のような思いはするまいと日々邁進するのだが…。 何故か男にばかりモテまくり、厄介な事件には巻き込まれ!? 本作は現実のあらゆる人物、団体、思想及び事件等に関係ございません。あくまでファンタジーとしてお楽しみください。

処理中です...